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会社から帰ると、同棲して7年目になる恋人から声を掛けられた。
「何か荷物、届いてたぞ」
一瞬ドキッとしたけど、リビングのソファの上に放置されてた段ボールは、幸いにも未開封だ。
静也君はダイニングテーブルの上でノートパソコンを開いてて、オレの方をちらっとも見ない。それをいいことに箱を持ち上げ、そっと奥に移動する。
「う、うん。ありがとう……」
ぼそぼそと礼を言いつつ背中を向けると、「何?」って訊かれて、またドキッとした。
「な、何って?」
「いや、何か買ったのかと思って」
振り向くと、静也君の視線はパソコン画面に向けられたままだ。
オレは一瞬言葉に詰まり、思いつくままにウソをついた。
「あ……と、ゲームの……」
オレの期待通り、彼は興味なさそうに「ふーん」とうなずき、そのままそれで会話は終わった。
オレは不自然にならないよう、普通の足取りで奥の部屋に移動して、自分のクローゼットの中にその段ボールを押し込んだ。
スーツの上着をハンガーに掛け、スラックスを脱ぎ、ついでに段ボールの封を開ける。
中に入ってるのは勿論、ゲームなんかじゃなかった。ゲーム関連の何かでもない。
静也君とはゲームの趣味が違うから、そう言えばきっと「見せて」なんて言われないだろうと思っただけだ。
言われても困る。勝手に開封されたら、もっと困る。
これは、初めて買ったアダルトグッズの通販で――中に入ってるのは、巨根の彼のと同じくらい大きくて、すごくリアルなディルドだった。
クローゼットの奥にそれを素早く押し込んで、部屋着に着替えながら段ボールを平らに潰す。
お風呂で使えるよう、そのディルドには吸盤がついてるんだって。でもまさか、今日みたいに、彼が家に居る時には使えないから、当分はお預けだ。
けど、お預けなのには慣れてるし。
静也君が遅くなる日に使ってみよう。そう思うだけで、なんだかドキドキして心が少し軽くなった。
男同士のセックスは、挿入までに時間がかかる。
同棲を始めた当時、サルみたいに毎晩やってたセックスも、その手間のせいと多忙なのとが重なって、しだいに回数が減ってった。
挿入できるようになるまで、入り口をほぐして慣らす時間……以前の彼はそれすら愉しんでたように思うけど、今は多分、そうでもないんだろう。
以前と比べて格段に減った、前戯にかける手間と時間が、それを静かに証明してた。
ここ1、2年、必ずゴムを装着するようになったのも、きっと後処理が面倒になったからだと思う。
以前は恥ずかしがるオレを押さえつけて、無理矢理掻き出そうとしたりしてたのに。「暴れんなよ」って、くくっと笑いさえしてたのに。
オレにまで着けさせるのは、ベッドを汚さないようにっていうより、後始末が楽だから、だよね?
平静を装ってダイニングに戻り、手を洗って冷蔵庫を覗く。
「何か作るね。ご飯食べた?」
「いや」
短い返事に「んー」とうなずき、まな板を取り出す。
「あー、メシ、炊いといたから」
「うん、ありがとう」
短い会話の間も、彼の視線はパソコン画面から離れない。オレも、いちいち振り向かない。
トントンと野菜を切る音が響く中、静也君がイスから立ち上がる。
「今日、メシ、何?」
「んー、豚肉」
オレの答えを、彼は「ふーん」と流しながら冷蔵庫を開けた。青い缶の発泡酒を取り出し、カシュッと開けて1口飲む。
『豚肉って、それ、メニューの名前じゃねーだろ』なんて、ツッコまれて笑い合ったのは、もう随分昔の話で。改めて考えると、会話も減ったなぁと思う。
それで別に気まずい訳でもないんだけど、静也君は「いい色のキャベツだな」とか、さっき見たネットニュースについてとか、他愛もないことを1つ2つ喋ってく。
そんなとき、気を遣われてるなぁって、ちょっと申し訳ない気分になる。
別に、無理にオレと会話してくれなくても、いいんだよ? でも、そう口に出しちゃうと、今のこの心地のいい空間すら失くしてしまいそうで、言えない。
静也君は、優しい。
「これ、春キャベツだよ。千切りにして、ショウガ焼きに添えるよー」
オレの話に「……ああ」とうなずき、困ったように黙り込んでる、今も優しい。
関係を壊さないよう、「努力」してくれてるの分かる。そう、優しい。
でもね、静也君。それがオレはしんどいよ。
知らないフリをするのは、もう疲れた。静也君は――オレに飽きている。
けど、「一生幸せにする」って誓った手前、きっと放り出せないでいるんだろう。
確かに同棲を始める前、オレは彼の為に、決まりかけてた縁談を蹴った。そのせいで実家とは断絶状態になっちゃったけど、あれはオレ自身で決めた事だし、後悔はしてない。
逆にあのまま結婚してても、幸せにはなれなかっただろうと思うし、もう済んだ話だ。
一緒に住み始めて7年目。オレたちが男と女なら、「そろそろ子供でも」みたいな頃合いなんだろうか?
恋人じゃなく、夫婦じゃなく、静也君とオレっていう個々じゃなく、「パパとママ」になったら……また、2人の関係も、新しいステージに変わるのかな?
でも、男同士のオレたちに、今以上のステージなんて存在しない。
オレはただ、彼の優しさに縋って、甘えて、耳を塞いでいるしかできない。
いつか覚悟ができたら――「もう、いいよ」って言ってあげるから。それまで後もう少し、この幸せな家族ごっこに付き合っていて欲しかった。
例のディルドを使う日は、それから数日後にやってきた。
――まだ残業中。多分、呑んで帰る――
静也君からのメールを見て、ドキッとした。
――わかった、お疲れさま。帰り、気をつけて――
いつものように短い返事を送信し、ご飯の用意もそこそこに、さっそく風呂を入れに行く。
何週間もお預けを食わされたままの穴は、ツンと固く閉じていた。
寂しくて、自分でいじったことはあるけど、今回はそれどころじゃない。念入りにほぐさないと。だって、アレを挿れるんだ。
そう思うと、ドキドキした。
興奮に息が荒くなる。
幸いと言っちゃ悪いけど、彼のしてくれる準備もかなり短くなってたから、程々でいいのはもう分かってた。
「これくらいでいい、かな?」
ひとりきりの浴室で、ぽつりと呟く。「ああ、いいぜ」なんて囁く声はしない。強く抱き寄せる腕もない。
浴槽の底に吸盤を付け、そそり立つディルドにヒザ立ちでまたがる。
自分でローションを塗り込めた穴は、固くて太いモノを欲しがってひくひくと震えてた。
「はっ、あー……っ」
貫かれた瞬間は、はしたなくも声が出た。
ゴム製のオモチャは、生身のソレよりかなり固い。太い。体重をかけて呑み込むごとに、めりめりと奥が拓いてく。
それはつまり、それだけ彼に抱かれてないっていう証明で――。
ぽっかり空いたままだった空洞を、ようやく埋めることができて、涙が出たけど、安心した。
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