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大切なものほど自分の側には置いておきたくなくて。
望んで手に入れたはずのものを今すぐ壊してしまいたくなる。
そういう気持ち、分かる?
分かんないか。
そんな事を考えながら、読みかけの文庫本を閉じて。
同じ部屋の数メートル先で、ギターを弄っているヤツに視線を向ける。
窓の外は鬱陶しい雨。
こんな根暗な事を考えてしまうのは、降り続いているこの雨のせいなのか。
それとも、こんな日に太宰なんか読んでいたからなのか。
それとも、もう高3だっていうのに行先不明の進路に頭を悩ませているからなのか。
……それとも、思いがけず叶ってしまったこの恋に、自分自身が戸惑っているせいなのか。
俺の心の中は、とても複雑でめちゃくちゃで。
なんて言うか、混乱している。
「なに?」
「なにが?」
「いや、ずっと見てるから。」
「あ、ごめん。」
「え、別に全然いいけど。」
ほら、こんな。
ぎくしゃくと続かない言葉のキャッチボールは、俺の番でエラーになって。
部屋の中にはまた、アンプに繋がっていない絃をはじく音だけが響き始める。
どうしてかな、どうしてなんだろう。
俺達は、友達だった頃の方がだいぶ楽しく過ごしていたように感じる。
それを壊したのは俺。
それを受け入れたのはコイツ。
模試だの塾だの。
一応、受験生らしく忙しくしている合間の休日。
どこかへ出かけたかったのに外は雨で、何かを話したいのに話題は見つからない。
人生は、思い通りに行かない事ばっかりだ。
「なに?」
「なにが?」
さっきと同じボールを投げられて、さっきと同じように投げ返す。
「また何か、難しくて破滅的なこと考えてんの?」
俺より少し素直で、俺より少しだけ大人で。
そして、俺よりとても明るく健全なコイツからの鋭い言葉に笑う。
「割とそんな感じ。」
「そうかなって思った。」
そう言って、いじくりまわしていたギターをスタンドに置いて。
ベッドに寝転んでる自分の側に座った、俺の好きな人。
その体重の分だけ沈んだマットと、意識しないようにすればするほど逆に意識してしまう存在感。
あーあ、逃げたい。
逃げたいけど一緒に居たい。
「友達に戻りたいなんて言うなよ。」
「……。」
「お前から始めたんだからな。」
挑戦的な目で見つめられて。
好戦的な言葉を掛けられる。
俺が考えてた事を全て見透かしたようなその言葉に煽られて。
ベッドから起き上がって引き寄せてみた体は、とても柔らかくて。
でも、とてもしなやかで。
壊れるほどに抱きしめてみても、俺がしたかったみたいに壊れたりはしなかった。
<end>
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