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ココア
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「あれ、藤川。どうした?」
階段を降りてリビングに行くと、真山と目が合った。
寒いキッチンで飲み物を用意してくれてるのを知って、また申し訳なくなる。
「…やっぱり、ここで待っててもいい…?」
小さく尋ねると、ちょっと不思議そうにされたけど、すぐに微笑んでくれた。
もうすぐだから待ってて、と言って、手際よく準備を進める。
「ココアにしようと思うんだけど」
甘い匂いが鼻をくすぐる。
顔を見れなくて目を逸らしたままの俺に、真山は普通に話しかける。
「…ココア好き」
「そう?よかった」
くすくす笑いながら、楽しそうに準備する真山。
さっきのことなんて、まるでなかったみたいに。
(…真山は俺のこと、嫌いになったりしてないのかな)
ぜんぶ溢れ出して、やっと自覚した。
俺の感情に、真山は気付いているだろうか。
それとも、気付いてないから今まで通りなのだろうか。
(……どっちでもやだな)
わがままだけど、わかってるけど。
気付いてほしいけど、気付いてほしくない。
想いを伝えて嫌われるのと、このままずっと気付かれないでいるのと。
辛いのはどっちだろう。
「…できた。戻ろうか」
「あ、うん」
カップを手渡されて、空いたほうの手で、また手を繋がれる。
でも、握り返す勇気はない。
「熱いから、こぼさないようにな」
「うん」
握られてるほうの手に集中する意識を、無理やりカップを持つ手のほうに向ける。
何とか部屋にたどり着いて、二人並んでテーブルにつく。
甘い匂いが、部屋中に広がった。
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