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忘れもの
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「…藤川」
「ん?」
「目閉じて」
「え……」
「いいから」
突然のことで、わけがわからないまま、言われた通り目を閉じた。
真山の顔が近付いてくるのがわかる。
緊張で体が強ばる。
「…そんなに緊張しなくてもいいのに」
小さく笑う真山。
そっと指が絡まる。
熱い。
「…忘れものだよ」
耳元で声が聞こえたかと思うと、人差し指に冷たい感触。
ぎゅっと目をつぶる。
そのまま指の付け根まで降りてきて、指輪が嵌められたのだとわかる。
「あ……」
ゆっくりと目を開ける。
すぐ近くにある真山の顔に、息が止まりそうになる。
「…これからは、体調管理はしっかりね」
「……はい……」
目を見れないまま、小さく返事をする。
近い。
少しでも真山の顔を視界から外そうと、なんとなく視線をさまよわせると、まだ繋がれたままの指先が目に入ってしまって、一気に顔が熱くなった。
「どうしたの?顔赤い」
楽しそうに、くすくす笑う真山。
わざとやってるんじゃないかってくらい。
最後の最後まで、真山に振り回されっぱなしだ。
「…どうもしてねぇよ……」
もうどうでもよくなって呟くと、ぱっと真山の体が離れた。
指先に、ちょっとだけ温もりが残る。
「そうか。じゃあ、また今度な」
まだくすくす笑いながら、小さく俺に手を振った。
やっぱり笑ってる顔は可愛い、とか、無意識のうちに考えてしまう。
「…うん。ありがとな、真山」
小さく手を振り返して、駅に向かって歩き出す。
なんとなく、昨日よりも寒いなぁ、と思いながら、別れたばかりの真山の体温を思い出していた。
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