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お兄ちゃんと弟とヒーロー
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(…すげー着信入ってる…)
まだ起きてるかな。
電話に出た瞬間、兄ちゃんのばかって怒られるかもしれない。
少しだけ緊張しながら、楓の携帯に電話をかける。
「兄ちゃん!」
楓は、すぐに電話に出た。
声を聞いただけで、泣いてるのがわかった。
「今どこにいるの!?何かあったの!?」
「…ごめん。大丈夫だから」
「…ほんとに?怪我とかしてない…?」
「してないよ」
「…よかった…」
「…ごめんな、心配かけて」
弱々しい声に、胸が締め付けられる。
なんで俺は、大事な弟を泣かせてるんだろう。
「…今どこ?」
「友達の家」
「お家、帰ってくる?」
「…ちょっと、いろいろあって…今日は帰れないんだ。ごめん」
楓にあげるために買ったマフラー。
それが入った袋を見ながら、約束守れなかったなぁ、と、ぼんやり考える。
「……兄ちゃん泣いてるの?」
「え?」
「声が…いつもと違うから…」
「泣いてないよ。泣いてるのはお前だろ?」
「っ、うるさい!兄ちゃんのせいだからな!」
いつもみたいに、からかったつもりだった。
いつもみたいに、拗ねたように言い返してくる楓。
全部いつも通りのはずだったのに。
ズキン、と胸が痛んだ。
「…そうだな。ごめん」
無理やり笑おうとしたけど、声は小さくなってしまう。
なんでこんなに弱いのかな。
楓が電話の向こうで、くすん、と鼻を鳴らした。
「…兄ちゃん、やっぱり元気ない…どうしたの…?」
そのまま、ぐすぐすと泣き出してしまう楓。
本当は、すぐに行って抱きしめてあげたいけど。
いま楓に会ったらたぶん泣く、でも楓の前で泣きたくないと、プライドが邪魔をする。
「…泣くなよ、楓」
どんなときでも弟を守れ、と、父親に言われて育った。
俺も、それが当たり前だと思っていた。
十年くらい前、まだ小さかった楓に、兄ちゃんは何とかレッドだよ!とか言われたのを、なんとなく覚えてる。
なにレンジャーだったかは覚えてないけど。
(……かっこ悪いな)
ヒーローは泣いちゃいけないのに、と思ってから、笑顔すら守れないのにヒーローも何もねぇな、と思い直す。
電話の向こうで、うん、もう泣かない、と小さな声がした。
「えらいな」
「…ん……」
また照れてるのかな。
想像すると、ちょっと可愛くて笑ってしまう。
「…明日になったら帰るから。話も、その時する」
「…わかった。母さんにも言っとくね」
「うん。ありがとう」
申し訳ないと思いつつも、楓の声はさっきよりも明るくて、少しだけ安心する。
おやすみ、と言って、小さく笑って電話を切った。
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