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心臓
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「ごちそうさま」
「はい。美味しかった?」
「うん、ありがとう」
あの後、しばらく考え事をしていた俺は、「ご飯のときは難しいこと考えないの」と諭されて、真山と他愛もない会話をしながら食事を終えた。
おかげでご飯はおいしかった。
「食器は、あとでまとめて洗うから」
「え、でも…」
「いいの。それより、大事な話があるから、向こうで待ってて」
微笑んで、両手で頬を包まれる。
顔が近くてどきどきする。
「…わかった」
から離してほしい、と、やんわりと手をどけた。
こんなんじゃ心臓がもたない。
(早く慣れないと…)
でも、そのためにはやっぱり、たくさん触ってもらうしかないのかな、と考えて、ちょっと憂鬱になる。
ソファに座ると、隣に来て、ぎゅっと抱きしめてくれる真山。
あったかくて気持ちいい、けど……
「…なんですぐ抱きしめてくんの」
「んー…触りたいから。だめ?」
「…だめじゃないけど…」
そう、だめじゃないんだ。
これまでは、真山に触れられて恥ずかしいときは、友達なんだからって理由をつければ離れられた。
でも、これからはそうじゃない。
(まぁ、男同士っていう最強の壁があるんだけど、それにしても…)
恋人になったら、今までの言い訳は通用しなくなる。
これはマジで心臓に悪いんじゃないかと思う。
相手は真山だし、人前ではちょっと控えるとか、そういう常識は通じないと思ったほうがいい。
つまり、これまで以上にスキンシップが増えたら俺はしぬんじゃないかっていう……
「…さっき、なに考えてたの?」
「え?」
思考はそこでストップした。
真山が、まっすぐ俺を見る。
「ご飯のとき。何か難しい顔してた」
「あー、あれは……」
真山のこと。
雅のこと。
頭の中がぐちゃぐちゃで、思わず箸を持つ手を止めてしまっていた。
「…いろいろ」
真山の体を抱きしめ返す。
深く息を吸って、吐いた。
体から力が抜けてく。
「…そう」
優しく頭を撫でてくれる手。
胸に顔を寄せて、目を伏せて、真山の心臓の音を聞いた。
「…大事な話ってなに?」
「あぁ…雅のことなんだけど」
どくん、と心臓が跳ねる。
指先は、無意識に真山にしがみつく。
「…藤川が話したくないなら、無理に言わなくていい。けど、話して少しでも気持ちが楽になるなら…俺でよければ話聞くから」
なんだか辛そうな真山の声。
心配してくれてるんだな、と思うと、ちょっと嬉しくなる。
「…ありがとう、真山。でも…」
もし俺が、怖かったとか、気持ち悪かったとか、本当のことを全部言ったら。
自分の好きな人が、自分の幼馴染みに、そんな感情を向けたら。
真山は、どう思うかな。
「…俺に気を遣わなくていいよ。全部受け止めるし、俺に何かできることがあったら協力する」
俺を抱きしめる腕の力が強くなる。
体が密着して、自分の心臓がうるさい。
「…あいつのことなんて、早く忘れて。俺のことだけ考えてよ」
耳元で、また甘ったるいセリフが響く。
今日だけで何度目だろう、と思いながら、ぎゅっと真山に抱きついた。
「…ありがとう、真山」
嬉しくて、思わず頬が緩む。
また焼きもちかな、と考えると、やっぱり可愛いと思ってしまう。
「話してくれるの?」
「うん」
小さく頷くと、真山は嬉しそうに笑った。
ありがとう、と言って、優しく頬を撫でられる。
結局、心臓は一度も休まらないまま。
これは、慣れるのは到底無理だろうな、と思いながら、もう一度真山に抱きついた。
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