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紲
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「結城に町役、当たるように細工したの、俺なんだ。」
米田さんの呟きに、ぼくは面食らった。
「な、何を言い出すんです?」
「おまえ。この時期はいつ見てもつまらなそうだったからな。それで、今年は、ちょっと俺たちで趣向を考えたんだよ。何とかして、おまえを祭りに参加させる方法をさ。」
秀才は普段通りの涼しい顔でとんでもない事を言い出した。
「く、籤引きに細工って、皆を騙したって、ことですか?」
高が籤引きと言っても、神事にまつわるもののひとつだ。
それに、町の人の中には、町役が当たるのを楽しみにしてるお年寄りもいる。
それなのに…
「今年だけなら、不自然じゃない。そうだろ?それにそろそろ、結城に当たっても良い頃合いだった。だから、皆納得した。」
米田さんは、何でもない事のように、言ってのけた。
「結城はさ、じいちゃんが甘い物苦手なの、よく知ってるだろ?」
「はい。」
「それをわざわざ毎年、おまえに買わせる意味、考えたことあるか?」
―意味?
「松露饅頭の…ですか。」
「あそこの露店、毎年どこにあるか、なかなか分かんないだろ?」
「ええ。小さいし、地味だから、探し回りますね。」
あの饅頭を売ってるのは、広い露店区域の中にも、老夫婦が切り盛りする小さな1軒だけ。
昔からのファンも多く、年によっては早々に売り切れてしまうこともある。
「だからだよ。」
―え…?
「屋台を担げなくたって、買い物くらいなら、行けるだろ?それも、じいちゃんの頼みなら、どれだけだって探して買ってくる。―あの饅頭は、おまえを祭りの中に連れ出す口実だ。」
―まさか。
じいちゃんが、そんなこと、考えてたなんて…!
「元々、あれは、ばあさんの好物だったんじゃ。」
「そう言えば、おばあちゃん、白餡が好きだったもんね。」
「そういう訳で、来年からは10程でええからな。」
「うん。」
邪魔だ
厄介だ
そう思ってたものは
ぼくの見えてる範囲を越えて
色んなところに繋がってた。
その繋がりは、優しく包むようにぼくを守ってた。
煩わしいと断ち切ってしまえない理由があった。
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