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かっこいい大人
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昨日初めて恋という気持ちを抱いたせいかなかなか寝付けなかった俺は珍しく朝から登校した
担任も俺を見て「珍しいな…明日は雪か?」なんて事を言っている
俺が来たくらいでなんだよハゲ
心の中で悪態をつきながら窓を眺めているとハゲがまた何か話し出した
「あーそうだ、今日この後ある集会で新しく保健室の先生になる為に実習にくる先生がいるからちゃんとしろよ!」
これから集会がある事心底ガッカリする
めんどくさいずっと淡々とした内容もない話を聞くなんてつまらなすぎる
サボろうかと思ったが何だか昨日言われた男の「かっこいい」って言葉が離れなくて渋々集会に参加した
体育館にすし詰めのように集められた同じ格好をした年の差がない生徒達
そろそろ夏も近いせいでこれだけの人が集まると暑くて堪らない
あーやっぱり来るんじゃなかったわ
来たことを後悔した時耳に流れてきたサラサラと水のような透き通る心地のいい声に顔を上げる
壇上に立ち挨拶をしている男を見て目を見開いた
「…な…んで……あの男が…」
そう今日から教育実習でやってきた保健室の先生は俺が昨日初めて恋心を寄せたあの綺麗な男だったのだ
バクバクとうるさい胸の音を聞いていると男は挨拶を済ませマイクから離れる
もっと近くでみたい、ちゃんと話をしたい
今すぐ駆け寄りたい気持ちを抑えて集会が終わるのを待つ
教室にクラスごと戻ると俺はすぐ様廊下を駆け出した
保健室より職員室の方がいいか?
そう思うと階段をかけおり職員室へと向かう
扉をあけ荒い息とトクトクとうるさい心臓を落ち着かせながら職員室の中を見渡すが姿が見えない
「居ねえのかよ」
期待していたぶん居なかった事に肩を落とし帰ろうとしたとき首根っこを掴まれた
「月乃待て」
「ゲッ」
俺の襟元を掴みそう言うのは生徒指導でめんどくさいと有名な熊野
苗字と同じくクマみたいな図体だ
嫌な予感はあたりドアの前に立たされネチネチと説教を受けていた
早く終わんねーかなと思っていた時怒っている熊野の後ろをあの男が通っていく
「あっ」
「なんだ月乃?!少しは反省したか?!」
「いやそれよりさ」
「それよりさァ?!お前俺の愛ある」
「……今日来た実習生の名前って何?」
「あぁ七聖先生のことか?」
「……ななせ」
「お前まさか七聖先生苛めようなんて思ってないだろうな?!」
「……まさか、下の名前は?」
「先生には敬語を使え!」
「あーうるせーな、下の名前はなんですか?」
「本当にお前は……確か七聖綺月っていうぴったりな名前だった気がする」
「はづき」
「漢字も綺麗だったぞ、七聖先生みたいな気品溢れる洗礼された空気を持つ教育実習生が来てよかったな!」
「…どうゆう意味だよ」
「お前も少しは荒れた心を癒してもらって心改めろって事だよ」
「………ちっ」
「お前今舌打ちしたな?!」
俺の態度にさっきまでにこやかに笑っていた熊野は再び怒り出すと授業が始まるギリギリまで俺に説教をした
クラスに戻りいつもと同じく教科書も開かずに居眠りをして時間を潰す
放課後また行ってみようか、
そう決めると放課後までが長く退屈に思えた
◇◇◇◇◇◇
保健室の前につき俺はゲンナリとする
考えが甘すぎた
七聖先生の周りには何人かの生徒が集まり俺が入る隙がない
また明日出直すかと考えてその日は大人しく帰った
……だが
次の日も次の日も七聖先生の周りには絶対に誰かがいて俺が話しかけるタイミングは全くなかった
その度明日、また明日、次こそ明日なんて先送りにしていると今日はとうとう七聖先生の最後の日になる
大学生の七聖先生は三週間の教育実習を終えると明日からはこの学校にはやって来ない
こんなんなら無理矢理にでも話しかければよかったと授業を受けながら後悔する
お昼前には七聖先生は大学に戻るんだとクラスの誰かが話しているのが聞こえた
昼前ってもう今11時過ぎてるけど…
時計を見つめこの時間にも帰るんじゃないかと不安が募る俺は授業中にも関わらず教室を飛び出た
授業をしていた先生がなにか叫んでたがそんなこと知ったことか
俺には今すぐ七聖先生に言わなきゃならないことがあるんだ
階段をかけおり保健室に行くと、七聖先生はさっき挨拶を済ませて学校を出たと言われた
しくった遅かったか…
そう思ったがまだ遠くまでは行ってないんじゃないかと思った俺は靴も履き替えずに職員用の入口から外に飛び出ると一目散にあの日七聖先生と出会った横断道路を目指した
あそこで出会ったなら帰りもそこ通るよな?
お願いだからそこにいてくれと願い駆け出し公園の前にあるあの横断歩道が見えてきた
――いた……!!!
「七聖先生!!」
「………っ……?」
名前を呼ばれた七聖先生は辺りをキョロキョロと伺っている
黒髪から覗く七聖先生の真っ白なうなじが不覚にもエロくて目を逸らした
「七聖先生!後ろ!」
「あっ」
俺に言われたとおりこっちを見て驚く先生の元に足を止めず駆け寄ろうとした時信号があの日と同じく赤になる
「………」
「……………」
今すぐそっちに行きてえ
そうは思うが乱れる息を整えると大きく夏の匂いがする空気を肺いっぱいに吸い込んだ
そして七聖先生を見つめて大きな声で告げる
「俺、先生の事が好きなんだけど!」
「えっ」
いきなりの言葉に先生の顔が赤く染まり出す
「先生に一目惚れしたっぽい」
「………」
「俺がもっとかっこいい大人になったらその時俺と付き合ってくれる?」
「…………ふふっ」
七聖先生があの日と同じように口元に手を当てクスクスと笑い出す
「……そうだね、今だってちゃんとあの日と変わらずルールを守れる善良な模範市民君はきっと大人になったら素敵な格好いい男になるんだろうね」
「……覚えてて…」
「うん、覚えてるよ……だって本当にあの日の君の言葉はかっこいいと思った」
「……先生、俺本気だから」
「楽しみだね、私が知らないあいだに君はどんな大人になるのかな」
「今はそっちに行けないけど、俺絶対いつかあんたの所行くから……かっこいい大人になってあんたにまた告白するから」
先生は俺の言葉を聞くと驚いたよう目を見開くと目を細める
「………これからも、善良でルールを守ってかっこいい男になってね」
七聖先生は悪戯にあの日の俺の言葉を復唱しながらそう言うと今迄で見たことのないようなキラキラとした笑顔で笑いかける
ドクンッドクンッ
その笑顔が眩しくて見ていられなくなった俺は今勢いで言ってしまった言葉を思い出して顔が熱くなる
「……絶対迎えに行くからな!!!」
ニコニコと笑っている七聖先生にもう一度言うと俺は背を向け駆け出した
あんまりにも綺麗に笑うから俺なんかじゃ絶対に届かないってこと思い知らされた
今の俺じゃ七聖先生に好きになってなんかもらえない
もっとかっこいい大人になりたい
学校迄一度も止まることなく足を動かし走り抜ける
もうチャラチャラするのは辞めよう
あの人に俺が本気だって知ってもらえるいつかの日迄俺はかっこいい男になってやる
たった一人の人間に惚れた事がきっかけで
今迄の自分の世界が変わっていく
派手な見た目のせいで誰からも相手にされなかった
してない事もされた事にされて
素直に生きていたら濡れ衣をきせられて
万引きなんてしてなくても店に入るだけで疑いの目で
いつも大人達は俺を嫌なもの扱いの目で見ていたけど七聖先生は真っ直ぐに俺を見てくれた
あの目がきっと好きだったんだ
綺麗な潤んだ瞳にきっと惚れたんだ
俺を覚えててくれてた
馬鹿みたいなこんな餓鬼の告白を真剣に聞いてくれてた
たったこれだけしか話す事はできなかったけどそれでも十分だ
俺は、七聖先生の事が好きなんだ
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