アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
小さな背中
-
◇◇◇◇◇
月乃君の手を取り、
ベットに腰をかけると私の隣に同じく座ってくれた彼の目を見つめ口を開いた
月乃君と出会ったのは、あの日の交差点が初めてではなかった
私が大学に通う為選んだマンションの近くには保育園があった
それとマンションの目の前には小さな公園
平日でも休日でもその小さな公園には保育園帰りの親子や近所の小学生
沢山の人の笑顔で溢れていた
デッサンをするのが当時趣味だった私は大学が休みの日に公園へと向かいベンチで絵を描いていた
楽しそうな笑い声と優しい幾つもの笑顔が溢れる光景を見ているだけで胸がポカポカとする
そんな中、中学生くらいの少年が一人公園にやってきた
髪は明るく日本人とは思えないようなその色な平凡な公園にとても浮き立っている
そして長い襟足や横髪から覗く耳には幾つものピアスが付けられていて見た感じでは公園になんて寄り付かなそうな子だった
ズカズカと真っ直ぐ乱暴に歩く少年は遊具で遊ぶ小さな女の子と男の子二人の前で歩みを止める
眉間にシワを寄せている少年に周りの大人達は訝しげな視線を送っていた
だけど小さな女の子と男の子は少年を見るなり遊んでいる時よりも笑顔を咲かせ遊具から飛び降りる
高さのあるそこから飛び込む小さな体を少年は見事にキャッチし地面に下ろすと口を開いた
「こら、危ないだろ?他の子達にも怪我させたらどうするんだ!」
少年はそう言うと二人の小さな頭に拳骨を落とした
男の子はむーっと頬を膨らませて
女の子はしょぼんと眉を下げている
少年はそんな二人を見るとしゃがみこみ
視線を同じにして今度は優しい笑顔を浮かべて口を開いた
「二人に何かあったらお兄ちゃんもお母さんもお父さんも悲しくて痛くて泣いちゃうぞ?だからあんまり危ない事はしちゃダメだからな。わかったかー?」
ニカニカと笑い両手で二人の頭をそれぞれ撫でる少年に小さな二人は体当たりをするように飛びついた
驚く少年はすぐ様笑顔を浮かべると仲良く二人の手を繋ぎ3人並び公園を出ていく
最初は何か怖い事でも起きるのかと思っていたけどその真逆だった
あんなにも小さな背中で二人の兄妹を守る姿に胸がホクホクする
お兄ちゃんとしてしっかりしているその少年がとてもかっこよく見えた
可愛いなぁ、癒されるなぁ
一人っ子の私にとって今見た光景はとても心が温まりほっこりする出来事だったのだ
それからも度々公園に行く度、
同じ時刻に必ずその少年は小さな兄妹を迎えに来る
それをひっそりと見るのがいつの間にか私にとっても日々の癒しの時間だった
それから直ぐに私は教育実習で、
自宅から一番近い中学校へと向かう事になる
ドキドキと緊張に包まれて
どんな子達がいるのか不安と期待に胸が高鳴っていた
そして青く広がる晴れた空の下、
夏の匂いを運ぶ優しい風に身を包まれ中学校へと向かう途中に彼と出会った
どこかで見たことのある小さな背中
ひょこひょこと跳ねている可愛らしい襟足
日本人とは思えない綺麗なサラサラな金髪
普通の学生よりも少しだらしのない着崩された制服
一目で私はあの公園で見かける彼だとわかった
でもきっと彼は私の事なんてわからないだろうし話しかけてみたい気持ちとここは辞めといた方がいいと思う気持ちが混ざりあったとき信号が赤に変わる
彼の仲間は皆車が全く通っていない交差点を駆け足で反対側に走っていったが彼だけは足を止めた
あ、行かないんだ…………
たち止まる彼の少し後ろに追いついた私も立ち止り可愛く跳ねている襟足を眺めていた
ふふっ襟足可愛いなぁ
そんなことを思い彼の後ろ姿を眺めていると
友達が反対側から渡って来いと声をかける
だけど彼は少し気だるい声で、
でも背筋をしっかりと伸ばして言った
『バーカ。俺は善良な模範市民なんだからルールは守るんだよ』
口調は気だるそうでもくっきりと透き通る声でそう言ったんだ
だけど直ぐに恥ずかしくなったのか白い項がみるみる赤くなる
友達からのからかいの言葉に益々肌を赤くする彼が可愛くて愛しいと思っておもわず笑みが溢れた
クスクスと笑う私に彼は馬鹿にされたのかと睨み振り返ったが視線が絡まりあった途端再び口を結んでしまう
あ、目は真っ黒なんだ……
髪の毛とは違うくっきりとしたキラキラした黒目に自分が写ったと知って少しドキドキする
きっと彼は私を初めて今見ただろうけど
私は彼の事を一方的に見てきたからこれが初めての出会いになるのだろうか
そう考えながら青になった信号を見て足を動かす
通り様に素直にさっきの彼の後ろ姿も彼の言葉も恥ずかしくても言い切れる強い心にも
かっこいいと思った私はそう告げた
きっとこの道を歩いているということは
私が行く中学校に通っているのだろう
そう思うと何だかとても足取りが軽く感じ
緊張よりも楽しい気持ちが沢山溢れてきた
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
26 / 57