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小さな背中
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色んな気持ちが交差するなか
月乃君の真っ直ぐな言葉と行動に自分が流されていくのがわかる
そして一番決定打だったのは
あの日の階段裏での事だった
後もう少しで本当に他の誰かにバレてしまうところだった
私一人が責任を負うなら構わない
だけど彼はあろうことか
バレても構わないと口にした
ましてや責任は自分が取ると
私が守るべき相手にそんな言葉を言わせ
恋愛という感情一つで彼の人生に泥を塗ると考えると怖くて堪らない
それと同時にそんなことを簡単に言ってしまえる月乃君に初めて怒りが湧いた
今までどれだけ辱めを受けても
本気で怒ることなんてなかったけど
いっときの感情でここまで捨てようとしてしまう彼の幼さにその日初めて気づいた
そんな気持ちのままじゃ尚のことこの関係は続けるべきではないと思う
そうだ何を言っても成長をしたと言ってもまだまだ彼は子供で大人へとなる大切な時期で
だからこそ学校という場に通って
先生という道しるべになる人が前に立ち物事を教えていく
なのに手本となるべき私が許して自分の甘さを認めてしまえば月乃君の今迄の頑張りも彼の将来も何もかもが崩れるんだと
やっとその時に目を覚めさせられた
もしも月乃君にこのまま関係を続ける気があるのなら何があっても隠し通すという覚悟が無ければ本当にきっとダメになってしまうから
そう思い告げた私に月乃君は深く深く頭を下げて謝る
初めて見るその態度と姿勢に喉の奥が締め付けられた
これでもう終わりなんだ
月乃君と私は終わりなんだ
これでいい筈なのに胸の奥が痛くて痛くて堪らない
それからの月乃君は全くと言っていいほど
私を視界の中に移さなかった
それは徹底されていて
すれ違う度に心の中に重い物が積み重なる
少し前までは抵抗しても強い力で引きずりこんだ彼は今では遠くて触れていた事が嘘のようだった
いつの間にこんなにも彼を好きになったんだろう
いつの間にか私の方がきっと彼を好きになってしまった
もしも彼が卒業したとき改めて私から気持ちを告げたら遅いだろうか
高校のあいだに月乃君はほかの誰かと恋をするべきだ
そう思う気持ちと
もしも間に合うなら卒業した彼に気持ちだけでも伝えたい
そんな二つの考えがぐるぐると巡った
どちらにしろ今彼に気持ちを伝える気はなかった
彼は今だけしか経験する事のできないことを見て触れて感じて欲しかったから
その邪魔は絶対にしたくなかった
学生のうちに仲間と笑いあって悩んで恋をして学んで躓いて泣いて怒って頑張って成長していく
色んなものを吸収して夢を選んでいく
目標を見つけて歩き出す
そんな学生の今だけを生きてく月乃君に気持ちを伝える事だけは無けなしのプライドが許さなかった
ここ迄きて先生だなんておこがましいけど
せめてそれだけは守りたかった
私が私の口で
『好き』と伝えるのは彼が無事高校を卒業してからと
そう決めていたからどうしても今は言えなかった
目の前に久しぶりの彼がいて
情けなく泣き出した本当に教師として失格の私を慰めてくれる温もりを感じて
今も尚私を好きだと言ってくれる彼の言葉に涙が止まらないほど嬉しいのに
今すぐ私も好きだと伝えたいのに
だけどこれだけはどうしても言えなかった
その言葉だけは今は言えない言葉だった
言ってしまえば彼を縛り付けるなんてわかっていたから
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