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触れたい
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学校の勤務が終わって真っ直ぐに家へと帰る
はぁ、今日は月乃君に一度も会えなかったな
夜の22時をとっくに過ぎている外を一人歩きながらそんなことを考える
月乃君、毎日生徒会のお仕事で大変そうだったし明日も見れないかもしれない
そんな些細な事で胸がギューっと痛くなる
ダメダメ!弱気になるな!
少しだけ寂しいと思ってしまった自分に喝をいれて歩き出す
月乃君を見つけたあの公園に差し掛かり懐かしさや色んな気持ちが溢れて来た
少しだけ公園に寄り道をしようかなと足を踏み入れた時見慣れた姿を見つけて驚く
「え…」
「…あ、先生」
10月の秋の夜に月乃君が寒そうにベンチに腰掛けていた
夜の暗闇にキラキラと月夜の光を反射させて輝く綺麗な金色の髪が綺麗で息をのむ
もしかしてあんまりにも月乃君を考え過ぎて作り出したこれは私の妄想なのかな…
そう思って立ち止まったまま動けずに居ると不審そうな顔をして月乃君がこちらに歩いてきた
「…先生?」
「本当に…月乃君ですか?」
「ふっ何言ってんだよ寝ぼけてんのか?」
目の前の月乃君はニコニコと笑いながら冷えた指先で頭を撫でてくれる
「………」
「あ、悪い……俺兄弟居るからいつも直ぐに頭撫でる癖あって……ごめん先生嫌だったよな」
黙り込む私に頭を撫でた事が原因だと思ったのか月乃君が謝ってきた
「……嫌じゃないです」
「ん?」
「もっと…撫でて欲しいです」
「え、先生…?」
足元の靴を見ながら小さく呟く
嫌なんて事無くて寧ろ嬉しくて堪らなかった
昨日、たまたま放課後鉢合わせたとき月乃君が仲が良さそうに誰かの頭を撫でて居たのを見て羨ましいと思ってしまっていた
いつも厳しそうに見える切れ長の目元をクシャっと下げて笑ってる月乃君に触れてもらえるその子がやけに羨ましく感じてしまっていたんだ
「……先生?何かあった?」
「…なにも…ありません」
「………」
自分にしか聞こえないくらい小さく呟いた言葉は月乃君には届かなくて冷えていた大きな掌が頭から離れていく
その感覚がやけにクリアに体に残っていてもっと悲しくなった
「…月乃君ここで何してたんですか?」
「あー…いやちょっとな」
「………?」
いつもの堂々とした姿ではなく
どこかそわそわとしていて私には言えない事なのかなと思う
「そうなんですね、あんまり夜遅くまで出歩くのはダメですよ?そろそろお家に帰りましょう」
「………」
「月乃君の家は確かここからひと駅ですよね?…間に合うかな…走って行けば大丈夫ですかね!」
腕時計を確認して駅までの距離を考えそう言ったとき不意に伸びてきた月乃君の腕に抱きしめられた
私よりも全然背が高くて大きくて細く見えるのに鍛えられている体に抱きしめられて顔が熱くなる
「つ、月乃君…っ!」
「…………」
「ここ外です!誰かに見られたら…」
「先生」
「な、何ですか…?」
慌てる私とは正反対酷く落ち着いた声が頭上から聞こえる
月乃君のお家で使ってる柔軟剤の匂いなのだろうか…
香水みたいな匂いじゃなく柔らかくて暖かな匂いに胸がキュンっとした
「……先生の事待ってた」
「えっ?!」
クンクンと心地いい月乃君の匂いを嗅いでいるとそんなことを言われて思わず大きな声がでる
「学校じゃ抱きしめられないから…今だけ、少しでいいから充電させて」
「………」
そう言うと月乃君は私の体をさっきよりも力強く抱きしめる
私の肩におデコを乗せて首元に顔を埋めてくる月乃君にどうしたらいいのか分からない
嬉しくて嬉しくて堪らないのに
こんな事したら駄目だって決めたばかりなのに
肌を通して伝わってくる月乃君の体温が愛しくて堪らなかった
月乃君にもっともっと触れたくて仕方なかった
「……月乃君」
「………」
「…………」
「………なに先生」
「………帰らないと……御家族が心配します………」
「…………」
シーンと静まり返る夜の公園はまるで2人だけしか生きていないような不思議な気持になる
「………嫌だ」
「………駄目ですよ、帰らないと」
「…まだ…まだ後少しだけ……そしたら直ぐに帰るから…我が儘言わねえから…」
「…………」
違う、違うんですよ月乃君……
私が駄目になってしまいそうなんです
これ以上月乃君の体温に包まれていたら
離れた時が寂しくて堪らないから
一度そう考えると離れたくないって思ってしまうから
私は大人だから我が儘なんて言うべきじゃないんです。だから……
「……なあ先生」
「……何ですか?」
「先生も今俺と離れたくないって思ってくれてる?」
「えっ…?」
「俺は今離れたくなくて仕方ねえよ」
「………」
「ここに来る前はちゃんと家に帰ろうって思ってた…でもずっと先生の事考えて会いたくて堪らなかった。もし先生も俺と同じ風に少しでもいいから俺の事考えてくれてたら嬉しいとか思ってた」
「………月乃君」
「…先生も…たまにで構わねえから俺の事考えてくれたら幸せなのにとか俺餓鬼だよなやっぱり」
ごめんと最後に呟いて月乃君が私から離れる
暖かかった温度が体から離れて
聞こえていた月乃君の心臓の音が聞こえなくなる
「……帰したくねえな先生の事」
「――っ」
困ったように笑いながら独り言のように呟いた月乃君の姿に胸が締めつけられた
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