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はじまり
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車に揺られながら思う。
どうしてこんな事になったのか。
どうして断わる勇気を持てなかったのか。
この先に待ち受ける悪夢に比べたら、多少の、いや、多少でなくても、殴られたり蹴られたりした方がまだましだと言うのに。
ため息を吐いて流れる景色に目を向ける。
車内はタバコの煙で充満していて、僕は気づかれないように少しだけ咳き込んだ。
──夏休み前(2週間前)
両手一杯にパックジュースを抱えながら、僕は廊下を急いで走っていた。
どれだけ早く帰ったって、殴られる事に変わりはないんだけど、それでもその暴力を最小限に治める為には走るしかなかった。
息が乱れて、腕の中からジュースが落ちそうになるのをなんとか阻止しながら、僕は高松君達が待つ教室へと急いだ。
「おせー」
「今日のタイムはジャスト8分!」
「昨日より落ちてんじゃねーかよ」
「何、ちょっとだらけてきちゃったか?」
「あ、マジ?なら躾直すか」
教室に入るなり、窓際の後方を陣取る5人にニヤニヤとした目付きで睨まれる。
これでもかなり急いで来た方なのに、タイムは昨日より落ちているらしい。
パシられている、という事実よりも、タイムが落ちたという事にショックを受ける自分はもう色々と麻痺してきているんだろうと思えた。
「ご、ごめんなさい、…売店、混んでて、あの…、」
ジュースを抱えたまま、ジュースに視線を落としたまま、僕はそう蚊の鳴くような声で呟いた。
パシりの言い訳程、彼らの怒気を煽るものはないと知っている筈なのに、気づけばそう言葉を漏らしていた。
「だーかーらーさあー」
と、声が聞こえた瞬間、腕の中にあったジュースが床に散らばり、視界には天井が映し出されていた。
「いつも言ってんじゃん、な?言い訳、すんなよ、って、さっ!」
「…うっ、ごめ、」
突然左頬を殴られ倒れこんだ僕の脇腹に、高松君の足先が食い込んでくる。
言葉に合わせるように、何度も、何度も。
昨日も同じ箇所に暴行を受けてるだけに、いつもよ
り受けるダメージは大きくて。
「おら、生意気にガードしてんじゃねーぞ。おい壱、立たせろ」
高松君のその言葉に、僕の身は竦み上がった。
「ごっ、め…、あ、あした、は、5ふ、…で、もど、…る、からっ、」
「おい、壱!」
「…ごめっ、あした、はっ、うっ、…いたい、よ、ごめんっ…、」
高松君の怒声に、倉木君が僕を羽交い絞めにするようにして立たせる。
こうなればもうその名の通りサンドバッグ状態だ。
一度鳩尾を殴られて嘔吐が止まらなくなり、悲惨な結果になってるだけにそこだけは狙われずに済んでいるけど、でも脇腹や腹部だって殴られたら相当痛い。
息が出来なくなる程痛い。
これから与えられるであろう苦痛に恐怖でいっぱいになって、毎日殴られてるのにどうして僕の体は痛みに慣れてくれないのかとか、訳の分からない怒りを自分に感じたりもして、そうして正常な思考が遠のいていくのを感じていれば、席に座って傍観していただけの安東君が口を開いた。
「高松、昨日もお前そうやってそいつ殴ってんだろ」
「あ?」
「傷が癒えねーまま毎日殴ってるとな、手加減してようが死ぬぞ」
「…はっ、死ぬとか、」
背後にいた安東君を振り返り、馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばそうとした高松君の動きが止まる。
安東君のその獲物を射るような目付きで、ようやっと、このお遊びに幕が閉じられた。
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