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15日目
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ところでなんだけど。
このメアドどうしよう。
………。伝票に丁寧な字で書かれたメールアドレス。いつまでも持ってるのもいやらしいのは分かってるけれど、捨てられない。
っていうか!さ!
キャスター、アットマーク、ドットジェーピーってなんなの?
そんな覚えやすいアドレスにしないでよ、覚えちゃうでしょ!普通に!
「キャスターって…あのキャスターかな。あの子タバコ吸うのかな。銘柄キャスターとか?だとしたらえらく可愛いタバコ吸うんだね」
「おいおい、赤丸。声にでてるぞ」
「うわ、ほんとですか。…最近ほんっと、僕どうかしてますよね」
そうなんだよ、どうかしてるんだよ。寝ても覚めても光村くん光村くん、アドレスは一方的に僕が知ってるだけで、フルネームもしらない。普段なにしてるのか、どこに住んでるのか、なにが好きなのか、なにも知らない。
そんな子どものことが気になって仕方ないなんて、どうしたのさ。ほんとに。
一日限りの仲がすきだった。寂しいときに人肌を感じられて、後腐れなくなくサヨウナラ。そんな軽いオツキアイがとても理想で、好きだった。
だった、んだよね。
おっかしいよねぇ、こんなの高校生の時以来だよ。恋なんてさっぶい言葉に納めたくない、この感じ。僕は自覚している。しているから、彼の『なんでもない好意』に振り回される。
「丸くなったなぁ、赤丸」
「そうかもですね。…もう店長とは寝ません」
「はっはっは!こちらこそだわ、そろそろ嫁貰わねーと」
店長、とってもいい人。高卒で学歴もクソもないような僕を快く迎えてくれて、僕の性癖も理解してくれた。というかまあ、彼もまたバイだっただけなんだけど。
寂しいときは肌を重ねた。
でももう、やめよう。うん。やめよう。
「がんばれよ。あと減煙もな」
「どっちもちょっと難しいですね。」
あの子をどうこうしようなんて思ってない。あの反応は見るからにノンケ。僕の方に気が向くことは一生ないだろう。もしなにかのきっかけがあって、彼が男もいける、となったとしても。きっと僕は選ばれない。
綺麗な顔も髪も体もない、僕にあるのはクマの酷い顔と、痛んで伸びた髪と、痩せ細った体だけ。
魅力がない。あ、でも彼が与えてくるケーキのせいで少し太ったかも。…気のせいかも。
「抱かないから、今夜ここに泊めてくんね」
「なんですか、また電気でも止まりました?」
「電気、ガス、水道、全滅。」
「ほんと僕より生活力ないですよね。いいですけどソファで寝てくださいね」
「おーよ。ありがとな、明日支払いするわ」
「当たり前ですよ」
店長が、家に来てくれてほんとによかった。だってそうじゃなければこの紙切れを一日中眺めながら悩むところだった。
どーしよう、どうしようか、このアドレス。
…どうもしないか。光村くんは僕がこんなふうに思ってるとはこれっぽっちも思ってないだろうし。
きっと、どうでもいいんだろう。
少し親しい、お客さんぐらいの立ち位置なんだろう、僕は。
ほんと、報われないねぇ。
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