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16日目
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あれ、今日はいないの。
カフェに来て、彼を探すけれど、…いない。
マスターにアメリカンを頼んでソファに腰掛ける。あー、今日いないんだ。ちょっと残念だね、うん、残念、だなぁ。
僕は今日から二連休だけど、店長は仕事があるらしく朝方に帰っていってしまった。僕は特にやることもなかったからココにきたわけだけど、あの子はいなかった。
…メールアドレスだけど、今だに僕は悩んでいたりする。凄く悩んでいたりする。直接もらったのは幸なのに、僕に押し付けて帰りやがってあの野郎。僕は連絡先が知りたいなんて一言も言ってないのに、幸が勝手なことをしてくれたおかげで頭がいたいよ。幸、お前ほんと、とんでもないことをしてくれたね?あーあー、あー…。
メール、してみようかなぁ、いや、うん。…うーん。
迷惑だったら、どうしよう。なんて。すごく僕ってばネガティブ思考
、うん。でもいつまでもうじうじしてらんないよねぇ。僕は大人、僕は大人…。そう言い聞かせながらスマホを手にとった。なんて、送ろうかな。
「この間はゴメンね」?…もうくどいかな。
「今なにしてる?」…聞いてどうすんの。
無意識にタバコを吸う量が増える。さっきから吸い終わったら次、吸い終わったら次、を繰り返し、灰皿に吸殻が溜まっていく。
結局、『バイトやすみ?』なんてありきたりなメールを送ってしまった。やだやだ、柄にもなく心臓がいたい。返事、来なかったらどうしよ。凹んで立ち直れない。
しばらくすると、スマホがぴこぴこと光って、メール受信中の画面に切り替わった。…来た。
受信完了したメールを開くと、一言だけ『誰ですか?』と書いてあった。…そうだ、名前名乗るの忘れてたわ。ぽりぽりと頭を掻きながら返事を打つ。
『あー赤丸です、こないだのカフェでメアドもらったものです』
名前を名乗ると、次の返信はとても早く返って来た。警戒心が解けたのかな。
『ああ!登録しときますね(^-^)/ 今日バイトやすみです(^-^)/』
…なんなの、そのよくわからない顔文字。なんだかちょっと面白くなっちゃって笑いそうになる。でもここはカフェだし、笑えない。手の甲で口元を隠しながら、それへの返信を打ってる僕。はたからみたらきっとすごく気持ち悪い。
『ああそうなの、じゃあ夜に飯でもどうですか』
…誘っちゃった。
なんとなく、なんとなく、ご飯でもどーかなっておもっただけ。…下心なんてないよ。は、もう通じないか。
ご飯のお誘いのメールを送ったら、なかなか返事が返ってこない。…失敗した?また?僕早とちりすぎ?。そわそわ、と落ち着かなくて、タバコに火をつけてスマホを眺める。
しばらく時間を置いてかえってきた返事は『あ、大丈夫です、じゃあ七時にカフェでどうですか(^-^)/』だった。またその顔文字。それ好きなの?
『了解(^-^)/』とだけ送って、スマホをポケットに押し込んだ。僕、普段は顔文字なんて一切使わないんだからね?
7時までもうあと1時間弱、…このままここで、待っていよう。
「…赤丸さんってあなただったんですか。」
唖然、という顔をしている光村くん。誰かわかんないのにご飯の誘いに乗るなんて危機感なさすぎでしょ!
「誰だと思ってたの?誰かわかんない人についてきちゃダメでしょー!」
なんだか笑えてきて、ははは、と声をあげて笑うと、光村くんも「はは、」と笑った。なんだか少し、照れてるような、困ってる
光村くんの私服、はじめてみたなぁ。えんじ色のカーディガンが似合ってる。ラフな格好だけどサマになってるって、イケメンってずるいね。
「てっきりあのモデルさんだと思ってました。アメリカンさ…赤丸さんがきてくれて、嬉しかったです。」
あ、この子僕のこと心の中でアメリカンさんって呼んでたんだ?
ネーミングセンス無いな、とか、そういう感想より先に、「赤丸さんが来てくれて嬉しかったです」の一言が嬉しくて口元が緩む。ああだめだめ、気持ち悪いよ僕。
咄嗟に口元を隠すと光村くんはなにを勘違いしたのか焦ったように「あっ!KOHさんがイヤって訳じゃないんですけど!」って弁解してきた。
そういうことじゃないんだけど、まあいっか。
「居酒屋でいいね?お酒…は飲める歳?」
「大学生ですからね、21歳です」
「ふぅん、…幼くみえんね」
「えっ、大人っぽいっていわれますよ?!」
「うそ、詐欺でしょー」
21歳、かぁ。若いなぁ。って、でもまって、三つしか違わないんだね。もっと犯罪的だと思ってたけど。
行きつけの居酒屋に連れていくと、光村くんは一杯目にファジーネーブルを頼んだ。ちょっとまってよ、可愛すぎでしょ。そんな光村くんと対象的に僕はビール。
「すきなもの頼んでいいよ」
「あれ、赤丸さんは?」
「僕はキミが頼んだものを摘まむからいいの」
「チンジャオロースあるかなぁ」
「…キミの中では僕はチンジャオロースの人なの?」
残念ながらチンジャオロースは置いてない。枝豆、きゅうり、そしてフライドポテトに串カツをたのんだ光村くん、フライドポテト…よくそんな胃もたれするものが食べれるね?若さ?
「あ、赤丸さん、ライターかしてください」
「え、やっぱキミタバコ吸うの?銘柄はキャスター?」
「何でわかったんですか!エスパー?アメリカンさ…じゃなくて、赤丸さんはエスパーですか?」
「はは、もうアメリカンさんでいいよ、無理しないで。アドレスにもキャスターって入ってたから」
「ああ、それは…まあ、ね?」
「ん?なんだよ」
「まあ、そういうことです」
「どういうこと。ほんとキミ、見てて飽きない。」
顔を赤くした光村くんは、ファジーネーブルをゴクゴクと飲み干した。意外とお酒、強いのかな。ライターを渡すと女の子みたいにシガレットケースからタバコを取り出した光村くんは、男っぽい手つきで煙草に火をつける。…ちょっと、かっこいいじゃん、なにその煙草の吸い方。
キャスターの甘い匂いが個室内に充満する。僕は甘い甘いキャスターが嫌い、美味しくない、匂いもすきじゃない。だけどほら、惚れた弱み?っていうのかな、心地いいよ。なんて。
「…そんなにガン見しないでくださいよ」
「ああ、ごめんね。シガレットケースに入れてるなんて可愛いなって思って」
「アメリカンさ…赤丸さん!は!ポケットに突っ込んでますよね」
「だーかーら、もうアメリカンさんでいいっていってるのに。キミも頑固ね。」
「やだ、せっかく名前教えてもらったんだから!赤丸さんって呼びたいです!」
「あ、ああそう、ってか、キミ…ちょっと顔赤くない?」
「赤くないです!」
「…まさか酔ってる?」
「まさか酔ってません!」
嘘だろ。
ファジーネーブル一杯目にして?いやいや、一気飲みなんかするからでしょ、下戸なんだね、ああちょっとどうしよう。僕、誰かの介抱なんてしたことないのに。
「ちょ、ちょっと、とりあえずツマミ食べな?ね?」
ふわふわ香る甘いキャスターの煙草の煙、光村くんの髪の色が映り込んだような、淡いオレンジ色のファジーネーブルが少しだけ残ったグラス、赤みのついた光村の頬、唇、そして、綺麗な目。
酔ってる男の子って色っぽいね。でもね、でも、…ちょっと、酔いかた、めんどくさい。
僕も煙草に火を付けて、光村くんがわけのわからない日本語を並べて話す言葉に耳を傾けた。
時折「七星くんがアホなんですよ、アホアホマン!アホアホ族!」というので、きっと彼の友達は不憫な子なんだろうな、と思った。
アホの子にアホって言われるなんてかわいそう。そしてそんなアホの子がスキだなんて、僕のほうがずっとアホだな。
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