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18日目
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昨日一昨日と、はじめて光村くんとカフェ以外で会った。まさか家に連れ込むことになるとは思ってなかったけど。
………僕は、彼とどうなりたいんだろう。付き合いたい?キスしたい?セックスしたい?
どれも、まあ、好きだったら当たり前の欲求で、そんな欲求が僕の中でまだ残っていたことに驚く。
でもそんな本能的なことよりもっと、もっとさぁ。
(もっと、あの子のいろんなことが知りたいなぁ。)
なんてプラトニックなんだろう、僕がこんなこと思ってるなんて、店長や幸が知ったらきっと笑われるレベルだよ。困ったなぁ。
突然、部屋にチャイムが鳴り響いた。突然の訪問は幸しかしない、って前も言ったと思うけど、こんな夕方に来るなんて珍しい。僕が家に居ないときはどうするの、連絡しなさいってあれほど言ったのに。ぎし、とソファから立ち上がって、部屋のドアを開けるために玄関に向かう。ああ、ちなみに今日も僕はオフね、髪の毛もぼっさぼさだし、服も適当。ダメだね、家にいるとズボラになっちゃう。
ガチャ、と部屋のドアを開けて、…………驚いた。そこにいたのは背の高いモデルじゃなくて、オレンジ色の髪の毛。
光村くん。
ちょっとまって、思考がついていかない。くわえていた煙草の灰がぽろり、と落ちたのと同時に、彼が「こんばんは!」と言った。いやいや、こんばんは!じゃないから。
どうしてここに、え?なに?いきなりなに?よくわからないんだけど、「おじゃましますね」と半ば強引に部屋に入ってくる光村くん。ちょっと思考が追っつかないんだけど…!ところでその、右手に持ってるビニール袋はなぁに?
「ちょ、ちょっ、と!なに?いきなりどうしたの」
「昨日失礼しちゃったんで、飯つくりに来ました!安心してください、ちゃんとチンジャオロースですよ!」
だから、なんでチンジャオロース…。またチンジャオロース…。どれだけチンジャオロース作れば気が済むの…。
キッチンに立って袋からピーマンと肉を取り出して、鼻歌を歌いながら調理に取り掛かろうとする光村くん。
変な光景。この光景をみていたら、混乱していた僕の頭がだんだんと冷めてきた。
僕は、なにを期待しているんだろう。
おかしいよね、こんなに振り回されて。こんなに一人取り乱されて、こんなに若い子に、こんなに純粋な好意に。…呆れた。僕に?キミに?分からないけどすぅ、と冷めていくこの頭、ああ、なんか思い出すな。キミに出会う前の僕は、いつもこうだった。
物事をすべて客観視して、自分が当事者にならないように生きていた。そうそう、一歩引いて、「僕」と「彼」を見てみると、なんともまあ、滑稽もいいとこで。
キッチンの壁にもたれて、腕組みながら光村くんを見つめていると、ふんわり、可愛い顔で「なんですか?」と振り向かれてしまった。僕の視線は痛かった?
ねぇ僕はね、ずっとキミの行動一つ一つが痛いんだよ。
「あのさぁ、」
ぽりぽり、と、少し今の感情を誤魔化すように頭をかきながら声をかけた。ああ、どうしよう、僕の声に呆れが見え隠れしてるのが自分でもよくわかる。動きをとめて、不思議そうな眼差しで僕と目を合わせるかれに言ってやんないと。僕はね、僕は、キミが思ってるような人間じゃない。
「どういうつもりなの?」
僕の声は冷たい。きっと僕の表情も冷たい。もとからあまり表情のない僕のことだ、光村くんが笑顔のまま固まってしまった。怖い?ごめんね。そういえば初めて話したときは、キミ僕のこと怖がってたもんね?
…言ってしまおう。いい加減埒が明かない。いつまでも僕ばっかり苦しいのは、もうイヤだ。だってこんなの、こんなの僕だけが必死みたいでカッコ悪いじゃないか。
「僕バイなんだけど、こんなことされたらいいようにとるよ?」
この意味、キミがとんでもないバカじゃなかったら分かるよね?
前にゲイなの?って聞いたとき、もうすでに僕の性癖はばれていたかもしれない。だけど念のため、というより、知らしめるように教えてあげる。
僕はバイだ。女の子も男の子もすき、それで、キミの行動に喜んだり悲しんだりしてるの、わかるでしょ?もう子供じゃないでしょ?
僕はキミが好きだ。とってもね。
沈黙。
固まって動く気配のない光村くんから目を離さない。離したらいけない。ここで押し負けるわけにはいかない。
だけど、それは叶わなかった。
ふんわり、にっこりとした笑顔しか見たことなかった。彼の表情。固まったかと思えば、ぱち、ぱちと瞬きをして、す、と綺麗な顔から表情が消え失せた。
「いいですよ。」
それだけ言ってのけた光村くんは、にこり、と一度だけ笑顔を作ってまた料理に気を向けてしまった。
…押し負けた。はぁ、とため息をついて、僕はリビングにもどってソファに腰掛ける。いいですよ?ってなに、僕がバイでもいいですよ?ってこと?答えになってない、こんなのズルい。…また失敗しちゃったかも。昨日光村くんが吸っていたキャスターの吸殻が、灰皿に残っている。さっさと捨てればよかった。虚しい。
僕は新しく自分の煙草に火をつける。すこし急いで吸い切った吸殻を、キャスターの吸殻の上に隠すように捨てた。…捨てた。
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