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20日目
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久しぶりの出勤、連休明けの残業はきつい。いつもよりずっと帰りが遅くなってしまった。まあ、余計なことを考えなくていいから、仕事で気を紛らわすことができて良かったけど。…それにしても、疲れたなぁ。
カンカン、とアパートの階段を登る音が、こんなに夜中だったら響いてうるさい。早く煙草吸いたい。ゆっくりしたい。
自分の部屋にもどるべく、少し早足で廊下を歩くと、自分の部屋の前に誰か立っていた。えんじ色のセーター、オレンジの髪、こんな薄暗いところで異様に目立つそのシルエット。
…光村くん。
ちょっともう、勘弁してよ。
歩く足取りが重くなる。こつ、こつ、と足音が響く。さっきの階段の音よりも煩く聞こえて耳を塞ぎたい。
僕の足音が近づくと、光村くんはハッと顔を上げた。そして僕に気づいて、なんともいえないような表情で僕のコトを見つめてくる。なんなのその顔。そして相変わらず、スーパーの袋をもっている。また何か作りにきたの?ああ、もしかして、やっぱり。
(…この間の『いいですよ』はそういうことね。)
ちっとも伝わってなかったんだ。
「…それなに」
部屋の鍵を開けながら、挨拶も省いて袋の中身について問いかける。ガチャリ、と鍵があいた音と同時に「肉とピーマンです」と答える光村くん。
>>>チンジャオロース<<<
またチンジャオロース。…もういい加減飽きちゃったよ。自然と苦笑が漏れる。僕はこんなにキミに振り回されて疲れているのに、キミは今日もチンジャオロースなんて、僕に食べさせにきたんでしょ?
無神経。…ひどいね。
特になんの反応もせず、部屋のドアを開けようとすると。ぱしっと腕を掴まれた。驚いて光村くんを見ると、ごくり、と一度ツバを飲んだ光村くんのアーモンド色の目が、何か伝えたそうにしている。
「あ、あの!!!赤丸さんに言いたいことがあるんですけど!!!」
「ちょ!うるさい!とりあえずあがって」
「…あ、はい、」
声、おっきいよ。こんな夜中にさぁ。言いたいこと、ね。はは、なんだ。分かってるんじゃないか、僕が言った言葉の意味が。…これは、振られるな。
振られるとわかっていて、部屋に上げる僕も僕だよね。ほんとダメな大人。
「適当に座って」というと、光村くんはそわそわ、として袋をテーブルに置いて、なぜかベッドの上に登って、ちょん、と畏まって正座した。
…なんで、ベッド?しかも正座?あ、え?え?なに?僕もそこ、すわったほうがいい?
困惑が止まらない。ちょっと、なにがしたいのかわからない。はぁ、と一度ため息をついて、光村くんに向かい合うように、ベッドの上で同じく正座をする。
シュール過ぎるでしょ。なにこの図。振られ待ち、イン僕の家、オン僕のベッド。煙草吸いたい、すごく落ち着かない。
うつむいてる光村くん、ごめん、うつむきたいのは僕のほうだから、言うなら早く言ってくんないかな。ぽりぽり、と頬をかくと、光村くんはぎゅうっ、とベッドシーツを握りしめた。…くる。
「あの。」
「はい。」
「考えたんですけど」
…ほらね。
考えたってことは伝わってはいたらしい。よかった。でもほら、そんな深刻そうな顔しないでよ。振られるっていうのが雰囲気で分かる、こっちのほうがずっとずっとそういう顔、したいよ。ちょっと間を置いて、苦笑しながら「昨日の?」ときくと、「あ、はい。」といわれた。だから「あ、うん」と、さも、もう気にしなくていいからね、と言うような返事をする。ね、大人はズルいでしょ?
「俺、ゲイじゃないです。」
真っ直ぐな眼差しが僕を射抜く。さっきまで下を向いていたくせに、これを告げるときだけそんなに堂々とされたら玉砕決定。はい、振られた、お疲れ様、僕。
「…あー、だとおもった」
振られた。振られたー。
なんて言おう、僕はこんなに駆け引きが下手だったっけ。「遊びだよ」「冗談だよ」「悩ませちゃったね」「真に受けちゃった?」色んなフォローの言葉はぽんぽん浮かんでくるけれど、全部口にできなかった。……見事に嘘だもん。
あーやだな、泣きそうだ。イイ歳して何泣いちゃってんの、なんて思われたくない、こんなベッドの上で、馬鹿みたいに正座して、そんなの絶対、絶対、嫌だ。
ぐるぐると回る思考を抑えられない、早くなにかいわないと、この重い空気に堪えられない。適当になにか言おうとしたとき、「でも」と空気を切るように光村くんが口を開いた。
なに、もうわりと聞きたくないんだけどまだ話あんの?
てか今更だけどさ、振るために来たのなら、なんで買い物袋なんてもってきてんの?
「あなたとは付き合えないけどオトモダチでいてください」とか?そういうこといわれるの?
絶対ゴメンだよ、そんなの。
会えば会うほど好きになるに決まってるじゃん。…そんなことになるぐらいなら、もう二度と会いたくない。キミのことは忘れる、なかったことにする。だからもう、これ以上僕を、振り回さないで。
光村くんと反対に、僕の頭が項垂れていく。トドメの言葉を待ってる。惨めだ。
「でも!好きみたいなんです!!赤丸さんのことが、好き、です。…好き。」
…何、?
待っていたトドメの言葉とは全く別の言葉が返って来た。驚いた。驚いた。え、っと、頭がついていかない、僕は、振られた…?んじゃ、なかった、の?
キミ、ゲイじゃないんでしょ。
男は恋愛対象じゃないんでしょ。
ねえ、わかってる?
「僕男だよ、キミ、分かってんの?」
「わかってます」
「…いいの?」
「赤丸さんがいいんです」
即答だった。綺麗なアーモンド色が、真剣だと、本気だと、言ってるように見えた。
じゃあ、本当にいいんだね?
僕の恋は叶った、よね?
覚悟はしている、といってるように、ギュッと目をつぶって僕の言葉を待っている光村くん。
…もう、知らないからね。
「じゃあ、よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げる。脚がそろそろビリビリとしびれてきて、痛い。
光村くんも「よろしくお願いします!!!」と頭を下げて「…足、しびれました」といって笑う。僕もつられて「僕もだよ」といって笑った。
なんだか、胸の奥がむず痒い。…嬉しい。僕を好きになってよかったって、思わせてあげるからね。幸せにしてあげるからね、光村くん。
「じゃあチンジャオロースつくりますね!」
>>>チンジャオロース<<<
ムードの欠片もない、こんな馬鹿な年下の男の子。今日からこの子が僕の彼氏です。
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