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素直になれない …2
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「何か…松井さんと仲良くしてるんですね」
思わず、そんな言葉が口から出ていた。
「え?…仲良くって言うか腐れ縁だよ。トレーナーっていう立場上、相手しなきゃならないし。変な話、査定にも響くから、無下には出来ないから。難しいよ」
雅治さんは、肩をすくめながらそう言った。
確かに。
仕事の一環で色々面倒を見てるんだろうけど…
「…陸は、やっぱり松井さんの存在が気になる?」
「…なんと…なく」
「そっか…」
雅治さんが大きなため息をついた。
「ヤキモチを妬いてくれるのは嬉しいけど…度がすぎると、こっちも辛いよ。せっかく癒されたくて陸と会ってるのに…これじゃ、ますます疲れる…」
「…っ」
胸が痛い。
俺が雅治さんの立場でも、そう思うだろう。
しなくていいヤキモチ妬いて、この場の雰囲気を重くしてるんだもの。
それにこれじゃあ、俺は雅治さんのこと信じてないみたいじゃないか…
自己嫌悪。
黙って下を向いていたら、雅治さんが俺の頭にポンッと手を乗せた。
「ごめん。言い過ぎた…。俺、先月からあまり休めてなくて…。気持ちに余裕がないんだと思う」
「いえ…俺が勝手に。…ごめんなさい」
触れられたところが、温かい。
あぁ、俺ってこんなヤキモチ妬きだったのか、と思うとなんか笑いが出そうになった。
「言い訳みたいになるけど、松井のこと…ちゃんとプライベートとか線引きすべきなんだけど…色々と面倒臭くて好きにやらせてる部分もあるのは確かだ。あいつ、口が上手いから、論破するの疲れんだよ。……それで陸に嫌な思いをさせてるなら…申し訳ない」
「いえ…」
そうだ。
雅治さんは先月から…いや、先々月からすごい量の残業をこなしている。
そういう時って、気持ちのコントロールが難しくなる。
俺だって、月に100時間近く残業した時は、色んなことが面倒臭くなって、受け身で行動するしか出来なかったんだから。
ぬいぐるみもきっと…面倒臭くて、そのままにしてたんだ。
雅治さんは、そんな中でもこうして俺と会ってくれる。
「ほんと、あいつのことは気にする必要はないよ。新年度になれば、トレーナー制度も終わるし。そうすれば、お役御免。俺が付きっ切りで相手する必要もなくなるから。
それまでは、辛い思いをさせるかもしれないけど…」
「…いえ」
車はいつの間にか、雅治さんのマンションの駐車場に着いていた。
エンジンを切った雅治さんが、身体を乗り出すようにして、俺にキスをする。
「こっち見て?俺のこと考えて。松井のことなんて、休みの日まで考えたくないよ。あいつのせいで陸に会えなくて…俺も辛いんだから」
その言葉に本当に申し訳ない気分になる。
車を降りて、雅治さんの部屋に行った。
雅治さんに手を引かれて、ソファに腰掛ける。
キスをしたあと「のど乾いた。陸は何か飲む?」と、雅治さんがキッチンに立った。
「いえ、大丈夫です」
そう言って何気なく横に目をやると…ソファの隙間に光るものがあることに気付いた。
なんだろう、と手に取ってみると…
輪っかになったゴムに、キラキラした飾りがついた物だった。
これは…女の人が髪の毛を結ぶやつ?
「あぁ。昨日、誰かが忘れてったやつかな?…本当、昨日は散々だったよ。…あいつら、終電近くまで居座りやがって…」
雅治さんが大きなため息を吐きながら、俺の手からそれを取って、しばらく眺めた後…
ゴミ箱に捨てた。
それを見ながら、俺はまた松井さんを思い出していた。
その髪飾りが、松井さんのものに思えて仕方なかったから。
『牽制』
いつかのアキちゃんの言葉を思い出した。
その後、雅治さんから頭を真っ白にさせられるまで、その言葉がずっと頭から離れなかった。
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