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◆今日の最下位は牡牛座です。2
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店内には、先客が一人いるだけだった。
洸は、カウンターの一番奥の席へと腰を降ろす。
そこが洸の定位置で、多い時で週に2回、彼はこの場所で酒を煽っていた。
カウンター越しに、マスターがいつもの柔らかな声色で洸に尋ねる。
いつもの?と聞かれると首を横に振った。
強いアルコールを摂取したい気分だった。
バーボンの入ったロックグラスを揺らしながら、洸は小さく息を吐き出す。
疲れた。
舌先に広がるアルコールの味に、洸は瞳を閉じる。
店内に流れる丁度良いボリュームのジャズミュージックが心地よかった。
「あちらのお客様からです」
グラスの中身が空に近づいたころ、洸の目の前にカクテルグラスが差し出された。
マスターの言葉に一瞬耳を疑い、洸は同じくカウンターの端に座っていた先客の男へと視線を向ける。
グレーのスーツに身を包んだ中年の男が、洸を見て軽く会釈をする。
それにつられて、洸も頭を下げる。
そして、有難くカクテルをご馳走になった。
マティーニがなくなった頃、「隣いいかな?」と男が少し照れ臭そうに問いかける。
洸は勿論、と頷いた。
「ご馳走様でした」
隣に座った男に改めて礼を言うと、男がどういたしまして、と微笑む。
年齢は50歳前後だろうか、優しそうな目尻には皺が刻まれていて、髪には所々白髪が混ざっている。
遠目から見た時には分からなかったが、男の身を包むグレーのスーツは高級ブランドのもので、彼の左手にはまる時計はシンプルなデザインではあったが、それも200万は下らないであろう高級腕時計だ。
男の首筋からは、ムスクの匂いが漂う。
このような男がどうしてこんな小さな店で1人酒を飲んでいたのか洸は不思議に思ったが、特に尋ねることもしなかった。
男は、謙虚で、上品だった。
ウィットに富んだ彼との会話を、洸は時間を忘れて楽しんだ。
ウイスキーの水割りが入ったグラスを男が傾ける度に、その左手薬指に光る指輪がきらきらと反射する。
このような男を捕まえる女のことを勝ち組と呼ぶのかもしれない、とぼんやり思いながら洸はマティーニをおかわりすると、そのグラスに唇を寄せた。
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