アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
◆今日の最下位は牡牛座です。3
-
グラスが空になると、洸は席を立ってトイレに向かう。
いい出会いが出来て良かった、と洸は思った。
朝から今日は散々だったが、それすらも、もうどうでも良いと思えるほどだった。
洸が再び席に戻ると、男が酒を頼んでくれていたようで、空いたグラスの代わりに、琥珀色の液体の入ったカクテルグラスが置かれていた。
「マンハッタン、嫌いじゃなかったかな?」
男が遠慮がちに微笑む。
洸は首を横に振ってからそれを手に取って軽く傾けた。
「いえ、好きです。いただきます」
そう言って洸がそのカクテルに口を付けると、男は優しそうな瞳を、一度だけ細めた。
深夜1時を過ぎた頃、洸のスマートフォンが震えた。
和人からの、まだ会社なのか、という内容のメールだった。
もしかしたら彼は自分が帰ってくるのを待っているのかもしれない。
飲んでいる、というメールを返しかけて、やめた。
そろそろ帰ろう。
そう思って鞄から財布を取り出すと、男がそれを見て、あ、と小さく声を上げた。
「僕が出しておくよ」
そう言って洸に向かって男が笑う。
洸は困ったように微笑み、二度、自分で出すと告げたが、最終的には男の申し出に甘えることにした。
僕もそろそろ帰るよ、と男が言う。
そしてマスターにチェックを頼み、会計をしながら洸に声をかける。
「駅から近いの?」
「いや、家は二駅先なんですよ。だから駅でタクシー拾って帰ります」
「そうなんだ。…僕は駅前のホテルを取ってるから、丁度良かった。駅まで一緒に行こうか」
会計が終わり、洸は男と共に店を出た。
「ありがとうございました。ご馳走様でした」
軽く頭を下げる洸に、男はいいから、と笑う。
もう一度礼を言って、駅に向かって歩みを進めた。
人通りの少ない道をしばらく歩いたところで、不意に洸が立ち止まる。
それにつられて男も立ち止まった。
「どうしたの、気分でも悪いのかい?」
「………いえ…」
大丈夫です、と言いかけた洸の体がふらつく。
そのままその場に倒れそうになったのを、男が慌てて抱きとめるようにして支えた。
「大丈夫?飲み過ぎちゃったかな?」
こんなにも近いはずの男の声が、どんどん遠くなっていく。
ムスクの濃い匂いが、洸の思考を掻き乱す。
…飲み過ぎた?そんなはずはない。
この程度の量など、洸にとっては飲んだうちになど入らない。
洸は酒が強い。
大学生の時、若気の至りでテキーラのショットを20杯近く煽った時はさすがに足元がふらついたこともあったが、余程強いアルコールを大量摂取するわけでなければ基本的に酒に酔うことなどない。
そのはずなのに。
足がふらつき、立っていることもままならない。
視界がぐらぐらと歪んで、背中から汗が噴き出る。
おかしい、何かが変だ。
洸は自分の体を支える男の胸の中で、そのまま意識を手放した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 56