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貴方の声
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ふわふわとまどろむ意識の中で、妙に冷静な自分がいた。
ああ、これは夢なのだと。すんなりと思ってしまったのは、見ていた夢の内容の所為もあるのだろう。
『俺は幸せだよ。お前と共にいれてな』
ふんわりと優しげに笑う顔が朧に揺れた。
嘘ばかり。私の中の貴方はこうなのだろうか。だったら、認識を改めねば。
飄々と笑うあの人は、それでいて、ときどきひどく冷酷な目をする。
こんな風に優しく笑うことなどありはしないのに。
「起きろ。仕事中に寝てんじゃねえよ」
ああ、そう。この声だ。
「………さ、ん…?」
「あ?寝惚けてんのか…仕方ねえな、お前」
「失礼ですね、寝ぼけてなんかいませんよ。少し悪夢を見ていたもので」
くぁ、と小さくあくびをして、仕事と妙な姿勢で寝ていた所為で無理をさせた首をぼきりと鳴らした。
「なぁ」
「なんでしょう?」
「お前もう今日は切り上げるか」
「…まだだいぶ仕事残ってますけど」
「どうせいつも残業してんだ、誰も文句なんか言わねえよ。それにもう仕事手につかないだろ」
無理しやがって、という苦々しい声がやけに優しく響いた。
「…じゃあ、そうさせてもらいます」
無理なんかしていませんと言いそうになるのをぐっとこらえて、カバンに資料を詰めた。
「おい。家でも仕事する気か」
「この繁忙期に休むバカがどこにいます?」
「休めっつってんのに…お前が仕事人間なのはよくわかった。仮眠室行ってこい」
「…帰れって言ったくせに」
「どっちにしろ仕事すんなら帰っても変わらんだろ。ほら、一時間過ぎたら叩き起こしに行ってやるからさっさと仮眠とってこい」
「はい」
背を向けた私に、笑いを含んだ声が投げかけられた。
「悪夢見たら俺を呼べよ?…さっきみたいにな」
にやにやと笑うその声に、カッと頬が熱くなった。
起こされる前、無意識に呼んでいたのだろう。その時の自分を殴りたくなる。
「呼びませんから」
音を立てて閉じた扉の向こうでどっと笑う声がして、思わずぐっと眉を寄せた。
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