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――今日、寄れたら寄るかも――
そんなメールを受け取ってから、そわそわして仕方なかった。
サークル活動にも集中できず、夕飯の誘いも断って、コンビニでお弁当を買い、友則君を待った。
友則君がうちに泊まらないのは、他の遊び相手と同じだ。夜遅くに来ても、そのまま朝まではいてくれない。終電があれば終電で帰るし、なくてもふらっと外に出る。
出た後で、どこに行くのかは知らない。まっすぐ家に帰るのかも知れないし、他の誰かのトコに行くのかも。
本人に訊いてもきっと、鼻で笑われるだけで教えて貰えないし、訊く勇気もなかった。
友則君から2通目のメールが来たのは、夜9時を回ってからだった。
――先輩に遊びに誘われたから、今日は行かねぇ――
2度3度読み直して、がっくりとケータイを置いた。午後からずっと期待してた分、浮かれてた気分が急速に沈む。
たくさんの中の1人なんだし、しょっちゅう遊んで貰える訳じゃない。
ドタキャンだって珍しいことじゃなかったけど……やっぱり、会いたいものは会いたいし、ガッカリする時はガッカリする。
でも、そもそも「寄れたら」の話だったんだから、よく考えたらドタキャンですらなかった。
「会いたかった、な」
ぽつりと呟いて、ベッドの上で膝を抱える。
抱き合ってても、快感を追ってても、「好きだ」なんて嘘でも言ってくれない彼だけど、やっぱり顔を見たら嬉しいし、側にいたい。
でも友則君にとってオレは結局、大勢の中の1人で。
後から先輩に誘われれば、そっちの方を優先するような、つまりはその程度の存在でしかなかった。
今頃友則君は、どういう遊びをしてるんだろう?
いつもいつも爛れた遊びばっか、してる訳じゃないらしいけど。カラオケとかバッティングセンターとか、行ったりもするのかな?
乱交パーティみたいな大人数じゃなくても、4人とか6人とかで相手を変えて、セックスしたりもするんだって。そういう時も、必ずゴムは忘れないらしいけど……だからって、気にしないってことにはならない。
いやだなぁって思うけど、思ってたってどうにもならない。
友則君は、卒業するまで遊びを辞めない。
そして、遊びを辞めたら……オレとの関係もなくなっちゃうんだ。
ぶるんと首を振り、勢いをつけて立ち上がる。
「考えるのやめよ」
やめて、シャワーを浴びてリセットしよう。
何をどう考えても思考は堂々巡りするだけで、結局何の解決にもならない。ぐるぐる同じこと悩んで、拗ねて、諦めと嫉妬で疲れてく。
熱いシャワーを頭から浴びて、ヤケクソのように頭と体をゴシゴシ洗って――それから1つ、ため息が漏れた。
1日の疲れが、ドッと押し寄せてきた気分。
嫉妬するのも悩むのも、落ち込むのも、疲れるもんなんだなぁと思った。
諦めてベッドに入り、少し眠った後だったと思う。いきなりケータイに電話が掛かってきて、誰かと思ったら友則君だった。
ドキッとしてモヤッとして胸がズキッと痛んだけど、オレに出ないっていう選択肢はない。
今から来てくれるのかなって、そう思うとやっぱり嬉しい。
「もしもし?」
けど、いつも通りを装って電話に出ると――。
『もしもし、達川君?』
知らない人が電話に出て、オレの名前を呼んだから、ビックリした。
「は、い。あの……?」
オレが戸惑ったのが分かったんだろう。電話の向こうのその人は、『友則君の知り合いの、島崎と言います』って軽い調子で名乗ってくれた。
島崎さん。友則君の仲間の1人だ。多分先輩。
名前は何度も聞いてたのに、直接声を聞くのは初めてで緊張する。
『ごめんねー、こんな時間に。今、大丈夫?』
年上の人にそう言われたら、たとえ12時過ぎてても、取り敢えず「はい」って答えるしかない。
「大丈夫です、けど……」
そう言うと、島崎さんはズバッとオレの住所を訊いてきた。
『達川君、M大の近所でしょ? 近くまで来てるからさー……ええと、ナビで出るかな? 何階? 何号室?』
早口で強引に訊かれて、促されるまま住所と部屋番号を言ったけど、状況がまるで理解できない。
近くまで来てる? 誰が? 何のために? ナビって、カーナビ? そもそも、なんで友則君のケータイで?
考えてると、電話の向こうから友則君の声が聞こえて来た。
『ちょー、女んちはラメれす、って』
何かロレツが回ってなさそうだけど、酔ってるの、かな? 友則君、まだ誕生日来てないハズだけど。お酒飲んだの……か?
『女んちじゃねーよ。達川君って子のトコ、送ってってやってっから』
島崎さんが、あやすように言うのが聞こえて、うちに来るのが分かって、ドキッとした。
うち!? えっ、今から来るの? 友則君が? 先輩と? なんで?
戸惑ってると、さらに友則君の声が聞こえた。
『らからー、達川ぁラメれす、って。あいつ女らし』
ロレツが怪しくて、でもちゃんと何言ってるか聞き取れてしまって、ハッと息が詰まった。島崎さんが『何言ってんだ』って笑うのが聞こえたけど、オレは全然笑えない。
すごくショックで、鳥肌が立った。
何がショックなんだろう? 友則君に女って言われたこと? それとも、オレじゃダメだって言われたことかな?
『んなこと言って。希少なトモダチだろ?』
『トモラチやないれすよ……』
電話越しに、友則君の非情な言葉が耳に届く。
『おめー、トモダチいねぇもんなぁ』
からかうように島崎さんが言って、その後ろで誰かが笑った。
けど、ショックに呆然としてる暇もない。
『じゃあ達川君、戸ォ開けて』
島崎さんがそう言って、一方的に電話を切った。
間もなく、車のエンジン音がかすかに響いて、アパートの前からバン、バン、とドアを閉める音が続いた。
話し声。階段を上がる足音。
ピンポーン、と呼び鈴が鳴ってドアを開けると――男の人2人に両脇から支えられつつ、目を閉じた友則君が立っていた。
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