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震える指で電話番号を打ち込んで、ケータイを耳に当てる。
トゥルルルル、トゥルルルル、とコール音を聞いてる間も、とんでもなく緊張した。
『はい、島崎』
間もなく聞こえてきた声にドキーッとしたけど、フリーズしてる場合じゃない。
「あの、達川と申します、けど」
『んー? どこのタチカワ君かな?』
「友則君の……知り合い、の」
自分で口に出しといて、「友達」って言えなくて、胸の奥が冷たくなった。
けど、今はそんな場合じゃない。
島崎さんはオレのコト思い出してくれたのかな? 「あー、はいはい」って声を上げて、話の先を促した。
「あの、この間大学で、人が話してるのを偶然聞いたんですけど……」
女の子のこと、友則君をよく思わない人がいること、次のパーティで何かあるかも知れないこと――。
学食で聞いた話をかいつまんで説明したけど、話してる途中で自分でも、何か曖昧だなぁと思った。特徴だって、ホクロとメガネじゃどうしようもない。
『顔見知り? 名前は知ってる?』
そう訊かれても、「分かりません」としか答えようがなかった。
『パーティの日付は口コミだけだし、それ知ってんなら、まあ仲間内ってのは間違いないだろうけどな……』
仲間内、っていうのはつまり、遊び仲間ってことなのかな?
「友則君のコト、客寄せだって言ってました」
ぽつりと呟くと、島崎さんは『ああ』ってあっさりと言った。
『客寄せっつーか、さくらになんのかな。つーか、そんなことまで知ってんなら、常連の可能性もあるか……』
島崎さんは考え込むように『うーん』と唸って困ってる。
曖昧な情報を持ち込んで、悩ませて申し訳ないな、って、ちょっと思った。
『にしても、鼻っ柱がどうとかってのは、穏やかじゃねーよなぁ』
確かにそれは思うけど、それも冗談だったかも知れない。分からない。ただ、イヤな予感は薄まらなくて。
「あの、友則君に、気を付けるようにだけ伝えてください」
オレはそう言って、電話の向こうに頭を下げた。
『それはいーけど、自分で言えば?』
苦笑したような島崎さんの言葉に、ズキッと胸が痛んだ。
「い、え。それは……」
『あれ? 友則のトモダチでしょ?』
不思議そうに訊かれて、あの夜のことを思い出す。
あの日、トモダチじゃないって言ったのは、友則君の方だ。「やめたい」って言ったのはオレからなのに、やっぱ色々思い出すと、じわっと熱いモノが滲む気がした。
オレは友則君のこと、今でもやっぱ好きだけど。彼はもう、オレの名前すら聞くの、イヤになってるかも知れない。こういうおせっかい自体、嫌がるかも知れない。
だったら、オレが関わってること自体、やっぱ友則君には知られたくなかった。
「オレのこと、友則君には内緒にして貰えませんか?」
オレの頼みを聞いて、島崎さんは電話の向こうで一瞬黙った。
不愉快にさせちゃったかと思って焦ったけど、しばらくして、ぷくくっと小さな笑い声が聞こえた。何に対して笑われてるのか分かんないけど、怒られるよりはマシなのかな?
『いーけど達川君、その代わり協力して貰うよ』
島崎さんはそう言って、オレに、週末のパーティ会場に来るよう指示をした。
『だって、そいつらの顔知ってんの、達川君だけだろ』
って。
確かに、名前とか調べられなかったのはオレのせいだし、不安がってるのもオレだし、オレが動くべきなのはまあ、分かるけど。
そんで今のところ、頼れるのは島崎さんしかいないんだけど。
『まあ任せろよ。要は友則にバレなきゃいーんだろ?』
面白そうにそう言われて、大丈夫なのかなって、不安になった。
パーティ会場だって知らされたのは、繁華街のはずれにある、古いビルの3階だった。
あまり流行ってなさそうな店で、内装も看板もすごく古い。もしかしたら、普段は営業してないのかも?
手前は洋風のバーみたいになってて、扉1枚挟んだ向こうは、畳敷きのお座敷になってる。
「こっちで飲んだり、向こうで運動したり、まあ自由に楽しむ訳よ」
バーカウンターの丸いイスに座って、島崎さんが簡単に説明してくれた。
向こう、ってアゴで示されたのは、お座敷の方だ。
お座敷で「運動」って。意味深な言い方に、カーッと顔が熱くなる。
今はガランとしたスペースだけど、何人くらいが集まるんだろう? その中に友則君もいるのかな? そう思うと、モヤッとした。
パーティの開始時間から30分も前だけあって、まだまだお客は誰もいない。
店内にいるのは今のところ、オレと島崎さんと、島崎さんの後輩の3人だけだ。
バースペースの横の、小さな控室に案内されながら、島崎さんの説明を聞く。
「全員全裸、ってできればなぁ。メリケンサックだろうがブラックジャックだろうが、隠しようもねーんだけど。さすがにそうはいかねーだろ?」
そう言われれば、「はあ」ってうなずくしかない。
けど。
「友則は守りたい、でも本人には知られたくない。なら、ここは達川君が変装しねーとな」
そんな風に話を振られるとは思わなかった。
控室には、カラフルな衣装がいっぱいハンガーにかかってて、「どれ着る?」って笑顔で訊かれて焦った。
半眼を閉じた、何もかも見透かしたような顔で微笑まれると、「イヤです」とも言いにくい。
「オレ、別にこのままでも」
言い訳を探しながら首を振ると、ボスッと頭から、もじゃもじゃのカツラを被せられた。
「似合う、似合う」
そんな軽い口調で言われても、楽しんでるようにしか思えない。くくっと笑われ、どうリアクションすればいいのか分かんなくて、戸惑うばっかだ。
鏡を見せられると、髪が違うだけなのにホントにオレじゃないみたいで、恥ずかしくて、ひひっと笑う。
もしかしたら、オレの緊張を解くために、からかってただけなのかも?
島崎さんは大人っぽくて、どこかひょうひょうとしてて、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、オレにはよく分かんなかった。
でも――やがてフロアから聞こえてきた大声に、緩みかけた緊張が、一気に戻った。
「ちわっ! 島崎さん、いねーんスか?」
響きのいい低い声に、全身がビクッと跳ね上がる。
カツラをぐいっと引き降ろし、前髪で顔を隠しながら、オレはさっとドアの方に背を向けた。悪いコトしてる訳じゃないのに、足元から震えあがる。
今、友則君に会いたくない。
声を聞いただけなのに胸がいっぱいになってしまって、どうすればいいのか分かんなくて、震えた。
動揺してると、温かい腕が伸びてきて、ぐいっと固い胸に抱き寄せられた。
ふわっと鼻をくすぐる香水に、覚えがあって、ハッとする。
「大丈夫、バレねーよ。ずっとオレにくっついてりゃいーから」
こそっと囁かれ、反射的に見上げると――島崎さんはまた少し半眼を閉じて、人が悪そうに笑ってた。
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