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真琴side ⑦
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匠とは高校で出会った。でも本当は その少し前に1度出会っていたんだ。
それは、高校入試の日。
前日から緊張して眠れなかった俺は 試験当日も朝早くから教科書を開いて最後の追い込みをしてた。やれる事はやってきたつもりだけど不安が拭えなかった。教科書を開いたって、参考書を読んだって ろくに頭には入って来なかったけど 何もせずにはいられなかった。
気が付くと 家を出る時間ギリギリだった。俺は慌てて鞄に筆記用具と受験票を詰め込み 家を飛び出した。駅までダッシュで走って 予定の電車には間に合ったけど 朝御飯を食べる時間が無かった。俺、朝は食べないと駄目なんだ。試験中にお腹が鳴るのは恥ずかしいし、何より朝御飯を食べないと 脳ミソが運転しない。
高校の駅に降りて 駅のコンビニでパンとジュースを買おうとレジに並んだ。自分の番が来て お金を払おうとした時、慌てて小銭をバラまいてしまった。皆 見てるし 後ろに人も並んでるし 恥ずかしいしでオロオロしながら拾ってたら 誰かが一緒に拾ってくれた。『ほらよ、全部あったか?』って。俺はお礼を言って買い物を済ませて店を出た。
パンも食べて 試験会場で自分の席に座って さあ、もうすぐ始まるって時になってハッと気が付いた。消ゴムが入ってない。朝、家で使って 慌てて用意したから筆箱に入れ忘れてたんだ。『消ゴムが無い……。』泣きそうに呟いてたら 横の席の人が 自分の消ゴムを2つに割ってそっと置いてくれた。『使えば?』って。その声には聞き覚えがあった。さっきコンビニで小銭を一緒に拾ってくれた人だ。同じ高校の受験生だったんだ。俺はその人に2度も助けて貰った。
試験中は緊張して ちゃんと顔を見てお礼が言えなかった。あっという間に試験が終わって パッと隣を見たら さっきの人はもう席を立った後だった。会場内には人が溢れてて 顔を覚えていなかった俺は その人を探す事が出来なかった。
高校も無事合格して 新しいクラスで三度その声を聞いた時には驚いた。名前は『井上 匠』、 なんと同じクラスで しかも俺の席の後ろだった。
声を聞いて1発で分かった。低くてよく通る声だ。
初めの頃 クラスの皆は匠の事をちょっと恐がってた。確かに、見た目は迫力があった。背は高いし 顔は狂暴だし 余り誰とも喋らない。でも俺は匠が不器用なだけで本当は凄く優しいヤツだって知ってた。照れて自分からは 余り話し掛けられないだけなんだ。
席が前後だったおかげで 俺達はすぐに仲良くなれた。匠は俺が思ってた通り優しいヤツだった。
ある時、クラスの女子が日直の仕事でクラス全員のノートを職員室まで運んでいた。その時、段差につまづいてノートを床に撒き散らした。匠と俺を含めて何人かで それを拾い集めたんだけど、集め終わると 匠がそれをヒョイッと持ってサッサと職員室に運んでしまった。
教室に戻って来た匠に日直の女子が お礼を言いに行くと、匠は
『別に。また落とされても困るし。』って一言。
女子 固まってるし……。
匠が『別に。』って言うのは 決まって照れ隠しの時だ。匠は照れ方まで不器用だ。
匠に改めてコンビニと消ゴムの件のお礼を言った時も 匠は なんだそんな事か とでも言う様に、
『別に、普通だろ。』と 一言。
出た 『別に。』
でも その後、悪い顔でニヤッと笑ったんだ。
匠のその顔は 他の人にはしない顔だ。俺だけに向ける笑い顔。
俺達は、常に一緒に行動した。今では匠もクラスの皆と打ち解けて仲良くやってる。嬉しいハズなのに 何かモヤモヤする。何故だろう?俺はその感情が何なのか自分でも分からなかった。
匠がクラスの女子と喋ってる。何か高い所の荷物を取ってあげてお礼を言われてるみたいだった。俺はボーッとそれを眺めてた。その女子との去り際に 匠が女子に向かってニヤッとあの顔をした。女子が途端に顔を赤くしたのが分かった。匠のあの顔は反則だ。ちょっとタレ目で通った鼻筋、いつも への字に閉じられた口の口角を上げて あの顔で笑われたら 絶対相手は勘違いしてしまう。俺以外の誰かに あの顔はしないで欲しかった。
匠に友達が増える事を望んでいたハズなのに 匠に俺以外に仲良くなる人が出来るのは嫌だと思った。
2年でクラスが別れてしまった。匠のクラスを覗くと匠と目が合った。あの顔だ。あの顔で俺に 来い来いと手招きをしてる。嬉しくなって 駆け寄った。
俺はまだ匠の隣に居ていいのかな?
最近 背が伸びて、何故か女子から声を掛けられる事が増えた。実は何回か告白もされた。でも俺なんかの何処がいいんだろう。俺は常に自分に自信が無い。だから敢えて色々な事に挑戦する。自分に自信を持ちたい。
匠みたいに堂々としていたい。
たけど俺は 何をするにも 一瞬躊躇する癖がある。自分でキッカケを作らないと 恐くて前に進めないんだ。朝の占いも その1つだ。でも匠は そんなキッカケなんて無くても 自分の意思で 咄嗟の判断で 常に動く。
この間、廊下で匠が女子と喋ってた。俺に気付くと 匠は笑って俺に手をあげてくれた。女子が笑いながら匠の腕をポンポン叩いてる。嫌だ嫌だ嫌だ。触らないで欲しい。
俺 本当にどうしたんだろう……。
友情?憧れ?尊敬?色んな感情が入り交じり それがフィルターとなって、俺はまだ匠への恋心には自分自身 気付かないでいた。
『鮎川くんっ!あ、あ、あの。』
ある時、同じ実行委員の女子に呼び止められた。その子は 顔を真っ赤にして俯いている。いつも真面目に仕事をしている その子とは委員会の中でもよく喋ってた。
『す、す、す、好きです。つ、つ、つ、付き合って下さい!』
涙目で、小刻みに震えながら必死に告白してくれてる。
それなのに 俺はその時、最低な事を考えた。
この子と付き合ったら この イライラ モヤモヤは消えて無くなるのかな……。
初めて 女の子からの告白にOKした。
次の日の昼休み、久しぶりに匠を誘って屋上に行った。弁当を食べながら 俺はドキドキしてた。いつ話そう。匠は何て言うんだろう。
覚悟を決めて 俺はなるべく平静を装いながら
『昨日告白してくれた子と付き合う事にした。』 と報告した。
すると 匠は笑って言った。
『良かったな。おめでとう。』
胸が痛かった。
匠が好きだと思った。
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