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匠side ⑩
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真琴!真琴!真琴!何度も名前を呼びながら
真琴の温もりを確かめる様に、大切に大切に真琴を抱き締めた。
まだ謝ってもねえ、許して貰ってもねえ、また順番を すっ飛ばして暴走している。
俺は、真琴を裏切り、逃げ回り、傷付け、一方的に別れを告げた。何もかも最低で 自分で てめえを許せねえ。真琴も許してくれねえかも知れねえ。もう会う事も 触れる事も出来なくなるかも知れねえ。本当は恐くて恐くて仕方がねえ。
でも俺は、真琴に謝るって決めたんだ。今更遅すぎるけど、もし別れる事になったとしても 俺は今度こそ真琴にちゃんと向き合わなきゃならねえ。ケジメをつけるんだ。
俺は覚悟を決めて、真琴を腕から離した。
「真琴、お願いだ。話を聞いてくれ。」
真琴は 固まったままだ。訳が分からねえって顔をしてる。そりゃそうだろ、朝 別れ話をされた恋人に こんな熱い抱擁で出迎えられたんじゃ訳が分からなくて当然だ。
俺は 黙ったままの真琴の手を引き、取り敢えず外に出た。終電が終わった駅前にはもうタクシーも止まってなくて 仕方無く家に向かって歩き出す。
繋いだ手を離されるんじゃないかと 不安になりながら、でも久しぶりに繋いだ手から真琴の体温を感じ、言いようのない安心感に包まれた。今は ただ それを感じていたかった。真琴が俺の後をついて歩いてくれてるだけで嬉しかった。
遅くなる連絡はくれてたものの、何故駅で座ってたのかとか、何故スマホの電源を切ってたのかとか、何故 真琴から俺の知らねえシャンプーの匂いがするのかとか、聞きてえ事は色々あるが 俺に真琴を問いただす資格はねえ。
マンションまで ゆっくりゆっくり歩いた。
お互い何も喋らねえ。
真琴は何か考えているのか、何も考えられねえでいるのか、ただ黙って歩いてる。
こんな状況なのに、俺は不思議と 今この状況が心地良かった。後、数十分もしたら もしかしたら真琴と決別するかも知れねえっていうのに、我ながら呑気なもんだ。まだ現実味がねえだけなのか?
いや、現実逃避しているだけかもな。
隣に真琴が居る、ただそれだけで俺はいとも簡単に幸せな気持ちになれる。
半年間、逃げて 避けて 俺は真琴に餓えていたんだ。
誰も居ねえハズの我が家は 俺達2人を明るく迎え入れてくれた。玄関、廊下、浴室、脱衣場、リビング、キッチン、有りとあらゆる電器をつけっぱなしで飛び出したんだった。リビングからは 深夜のお笑い番組から わざとらしい笑い声が聞こえてくる。
テーブルに置きっぱなしの俺のスマホは真っ黒く窓を閉ざしたままで、誰からの着信も入ってねえ事実を教えてくれた。やっぱり真琴から連絡は無かったんだな。俺は少し落胆した。
いや、これが現実だ。俺には落胆する権利すらねえんだ。真琴をソファーに座らせて 俺はテーブルをずらして真琴の前に跪いた。
床に両手をついて真琴の目をしっかりと見据えた。
真琴を裏切ったあの日以来、 気まずくて、後ろめたくて、真琴の目を見る事が出来なかった。
「真琴。俺はお前を裏切った。去年の年末 納会の日、女を抱いた。」
最低で卑怯な俺の話を どうか最後まで聞いて欲しい。
「その後も数回 女と関係を持った。今は女とはキッパリ終わってる。でも裏切った罪悪感で 俺はお前とまともに顔を会わせる事が出来なかった。」
許して貰えるなんて思ってねえ。そんな甘い考えは とうに棄てた。ただ、俺にちゃんと謝らせてくれ。
「今日まで、逃げ回って、避け続けて、真琴を傷付けた事を謝らせて欲しい。」
声が震える。腕も肩もどこもかしこも震えが止まらねえ。
「申し訳ありませんでした!」
頭を床に擦り付け、俺は真琴に土下座した。クソッ 涙なんて出るんじゃねえ。俺に泣く資格はねえんだ。
「本当に!本当に!申し訳ありませんでした!!」
真琴は何も言わねえ。当たり前だよな。呆れてるよな。俺も自分に呆れる。でも……。でも……。
「好き……なんだ……。」
どう思われてもいい。呆れられても 軽蔑されてもいいから……。
とうか、どうか 俺の想いだけは 届いて欲しい。
「真琴が……真琴だけが……。好きなんだ。」
届けっ!!!
「真琴を 愛してるっ!!」
TVからは陽気なBGM。
いたずらに時間だけが 過ぎていく。
真琴は何も喋らねえ。
これが最後かも知れねえ。
俺は全部言い切ったのか?
いや、まだだ!
恥も外聞もかなぐり捨てるんだろ?
最後の最後まで 俺は真琴からの言葉にすがろうとしてねえか?
俺はまだ 肝心な事を 言ってねえじゃねえか!
「別れたくない!!」
「もう一度だけ 俺にチャンスを下さいっ!!」
「俺と やり直して下さい!!」
この言葉を言うのに どれだけ時間が掛かってんだよ……。
真琴は まだ何も言わねえ。
言葉が出ねえ位、呆れてるのか?
もう俺とは話もしたくねえのか?
恐る恐る 床から頭を上げて 真琴を見る。
真琴は両手を強く握り締めたまま俯いてポタポタ涙を零していた。
「真琴!!!」
俺は再び真琴を抱き締め、真琴の肩に顔を埋めた。
まだ 真琴から審判の言葉は貰ってねえ。
でも 言葉を貰わなくても 真琴を見れば俺には分かっていた。
自惚れなんかじゃねえ。
あの日と一緒だ。
真琴が 俺に告白してくれた9年前と。
俺は 真琴から顔を離し、両手でそっと真琴の顔を包んだ。真琴と見つめ会う。
大きな瞳には これ以上無理って位、涙を溜めてる。
真琴がそっと目を閉じた。
俺は真琴の唇に口づけた。優しく優しく。一方的じゃなく、お互い求め合う様な甘く優しいキス。
真琴と こんなキスをするのは本当に久しぶりで 体が溶けてしまうんじゃねえかって思った。
真琴が答えてくれてるのが堪らなく嬉しくて、真琴の体を両手でそっと包み込んだ。
覚えているより幾分細くなっているその体に 申し訳無さと愛しさを感じながら 俺は強く心に誓った。
もう離さねえ。何があっても絶対に離さねえ。
「ごめん真琴。愛してる。」
真琴は何も言わず ゆっくりと頷いてくれた。
ああ、俺は真琴を手離さずにすんだんだ。
己の身勝手さと 真琴の懐の深さが 嫌という程見に染みる。
この温もりを 2度と失わない様に。
真琴を2度と泣かせない様に。
俺は もう一度 真琴を正面に見据え、言葉を放った。
「真琴、結婚しよう。」
「うっ……ううっ……。えっ……ひっ。」
真琴から嗚咽が漏れる。しゃくりあげながら泣く真琴を優しく抱き締めながら 俺も目を閉じた。
もう2度と間違わねえ。
真琴と過ごせる幸せな日々を1日1日大切に噛み締めながら 共に生きて行こう。
= 届け。fin =
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