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真琴は俺の顔を見つめたまま固まってしまった。涙は引いたみてえだけど 驚きの余りポカンと口が開いたままだ。また変な顔してっし。
「真琴?…戻って来い。」
「……。」
だめだ…
顔の前で手をひらひらさせても反応がねえ。
「キスすっぞ?」
「……。」
「いただきます。」
開いたままの真琴の口を引き寄せて俺の口で塞ぐ。舌で丁寧に表も裏も歯列をなぞると次は真琴の舌に絡ます。触れた途端、思わず引っ込められたそれを追い掛ける。 お互いの舌が絡み合う。
クチュクチュ… 風呂場に水音だけが響いた。
徐々に意識を戻した真琴から甘い吐息が漏れる。
「あっ……ふ…ん…っ…… 」
気持ちいい…。真琴…俺の真琴…。
こんなに愛しい人を手離せる訳がない。
「真琴、返事…欲しいんだけど。」
一度顔を離して再び真琴と見つめ合う。
真琴のデカい目には またいつの間にか溢れんばかりの水溜まり。これは…嬉し涙かな…
「真琴、俺と本当の家族になろう? ごっこじゃなく ちゃんと結婚しよう?」
真琴の左手を両手で包み、俺は通算三度目のプロポーズをした。
「お れ……で い…い…の ?」
真琴はポロポロ涙を溢しながら肩を震わせている。
こんなに不安にさせて 俺は本当に今まで何をやってたんだ。
「真琴がいい。真琴しかいらない。」
ニヤッと笑ってやる。真琴は俺のこの顔が好きだと言う。自分が極悪面なのは分かっている。昔からこの顔のせいで誤解される事が多かった。でも真琴は初めから俺の中身を見てくれた。俺が無意識の内に作った他人との溝をヒョイッと飛び越えて 俺をそこから連れ出してくれた。
あの時から 俺には真琴しかいなかった。
「真琴、返事は?」
「はい…。」
ずっと不安だったのは俺の方だ。真琴の返事を聞いて 俺も一気に身体の力が抜けた。余裕ぶっていたけど俺もガチガチに緊張していたんだと その時気付いた。
湯船の中で真琴を正面から抱き締める。もう真琴は震えてなかった。今度こそ本当に通じ合えた気がした。
「真琴、さっきは本当にごめんな、怖かっただろ?それに一人にしてごめん。」
耳元で優しく聞いた。真琴は顔をブンブン横に振って俺にギュッと抱き付く。
「俺も 早く匠に抱かれたい。俺、頑張るから。」
「ばーか、頑張るのは俺だっつーの。」
チュッとキスをして真琴と笑い合う。この幸せを失いたくないと心から思った。
「真琴、俺パパッと洗うから 先出ていーぞ。」
「分かった、先 上がらせてもらうね。」
照れてんな、あれ。眉毛を下げてヘナッと笑う真琴を見届けて 俺もマッハで洗う。浴槽の湯を流し 簡単に掃除してから出る。今日はいつもより手抜きバージョンだけど早く真琴の側に行きてえから仕方ねえよな、なんて言い訳しながら。
俺達がもし男女なら もっと昔に 一も二もなく結婚してただろう。だけど男同士となれば 話は違う。同性婚が認められてない日本では養子縁組という形でしか結婚出来ねえ。でも俺は真琴が女だったら…なんて一度も思った事ねえんだ。俺は真琴だから好きになった。男とか女とかどうでもいい。俺は真琴が好きで 真琴は俺が好き。それだけで十分だった。
身体を拭いてリビングに戻ると真琴の姿はなかった。俺の部屋からブーンッとドライヤーの音がする。冷蔵庫から水を一本取り出し 部屋のドアを開けると 真琴と鏡越しに目が合った。フワッと微笑む真琴は幸せそうで、さっきのプロポーズのせいで そんな顔をしてんのかなって思ったら俺も嬉しくて顔が緩む。
「真琴、俺も乾かして。」
真琴の隣に座り頭を差し出す。真琴は慣れた手つきで俺の頭を乾かす。これもいつものやりとり。
「匠、嬉しかった。有り難う。」
ドライヤーの音にかき消されそうな位小さな声で真琴が呟く。俺は真琴の後頭部に腕を回して顔を引き寄せ そのまま唇にかぶり付く。
なあ、真琴。有り難うは こっちの台詞なんだけど。お前は分かってんの?俺が今 どんなに幸せか。自分が俺にとって どんなに大切な存在なのか。どうせ分かってねえんだろうな。まあ分からねえなら分かるまで毎日愛を囁くまでだけど。そういや、真琴の家に挨拶に行かなきゃだよな。緊張すんな…。反対…されっかな、そりゃ普通に反対するだろうな。ま、認めてもらえるまで何度でも頭を下げに行くけど。実はうちの家族は真琴と付き合ってる事 もう知ってるっつったら 真琴どんな顔するんだろーな。勝手にバラしてって怒っかな?あーやべ、気持ち良すぎて頭回らなくなってきた…。
真琴を味わいながら ちょっとだけなら平気かな?と唾液を注ぎ込む。真琴はそれを躊躇無く飲み下してくれた。一歩前進だ。
「真琴、愛してる。俺の可愛い奥さん。」
ニヤッと笑うと 真琴も俺の真似をしてニヤッと笑った。
匠side END
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