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あの後、俺達はお互いその事に触れる事はなかった。気まずかったのもあるし、認めたくなかったのかもしれない。それまで通り 家では会話していたし、日曜日には買い物に出掛けた。
お風呂も一緒に入る事は止めなかった。
だけど あの一件以来 匠は俺に性的な意味で触れてこなくなった。お風呂で後ろから抱き締める時は『真琴、抱き締めていい?』と必ず声をかけてくれた。前に回された腕も 俺の見える所に固定して 安心させてくれた。
決して前みたいに避けられた訳じゃない。今まで以上に大切に扱われた。でもそれは壊れ物を触るかの如く慎重で、以前には無かった遠慮みたいなのを感じた。
ホッとしつつも 悲しかった。
俺は大切にされてるんだと頭では理解していたけど、もう俺じゃあ匠を満足させてあげられないかもしれない…という不安と焦りで胸が押し潰されそうだった。
だけどそれは杞憂で、匠は俺に愛想を尽かす事なく粘り強く付き合ってくれた。少しずつ少しずつ俺が怖がらない様にスキンシップを増やしていった。
そのかいあって服の上から抱き締められたり 深いキスをするのは徐々に慣れていった。嬉しかった。嬉しいに決まってた。大好きな人から熱い抱擁を受けて それを受け入れる。たったそれだけの事が出来なかった俺は 匠の腕に抱かれながら 鼻一杯に匠の匂いを吸い込んだ。
匠…俺の匠…。ほんのり煙草の匂いが漂って 目を瞑れば "キンッ" と金属音が聞こえてきそうな気がした。
ただ やっぱり いざその先に進もうとすると身体が強張って駄目だった。その度、匠は優しく『大丈夫、焦らないで行こう?』と言ってニヤッと笑う。
そして俺からそっと離れる。
匠の体温が離れていくのが悲しかった。
そんな時、事件が起きた。
それは一緒に買い物に出掛けてたある日の事。一通り買い物を済ませ さあ帰ろうか、という所で晩御飯に使うネギを買い忘れてた事に気付き、匠にはレジの外で待っててもらい俺だけがネギを取りに走った。
一分位で戻って来て会計をする為並んでいると 五歳位の男の子が俺の横を走り抜けて行って そのまま見事にコケた。男の子はみるみる内に顔が赤くなり とうとうその場で大声を上げて泣き出してしまった。
目の前でそれを見ていた匠は男の子を優しく抱き上げ、服の埃を払ってやりながら泣きじゃくるその子をあやしてた。男の子は徐々に落ち着いて、匠と一言二言会話して コクコク頷いている。
すぐに若い母親らしき女性が駆け寄り、匠にお礼を言いながら一緒に男の子をあやしてた。
外から見るとそれはとても微笑ましい親子に見えて、事実、俺の後ろに居た女の子達が『格好いいお父さんだねー。』とか『私もあんな旦那が欲しいっ!』って小声で話してるのが聞こえた。
その瞬間、俺の中にドス黒い感情が湧いた。
やめろ!匠に触るな!
匠も その女性も何も悪くないのに、嫉妬でおかしくなりそうだった。
会計を済ませ 匠の所まで行くと、俺を優しい笑みで迎えてくれる。『さ、帰っぞ。』と俺からネギを奪い自分の買い物袋に突っ込むと 当然の様に手を差し出した。『人ゴミの中だと逆に気付かれねえんだよ。』と言って。
でも俺は その手を取れなかった。
『真琴?どうした?』俺が動けないでいると 匠は俺を心配そうに覗きこんだ。慌てて 笑ってごまかしたけど その時のモヤモヤした気持ちはいつまでも俺の中から消えなかった。
帰り道でも俺は無言だった。
あの親子の光景が脳裏に焼き付いて離れない。
そう、俺の中で燻(くすぶ)っていた不安は もう目を反らす事が出来ない程、膨れ上がっていた。
ただでさえ俺は男で 大っぴらに出来る関係じゃない。男同士で結婚も出来ない俺は匠の本当の家族にはなってあげられない。子供も産めない。それどころか、SEXも満足に出来ないなんて…。
目を瞑ればさっきの光景を思い出す。
俺なんかが匠の横に居てもいいんだろうか…。俺が居なければ匠には違う未来が待っているんじゃないだろうか…。
匠には 俺よりもっと相応しい相手がいるんじゃないだろうか…
次第にそんな考えに支配されていき 俺の顔から笑顔が消えていった。
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