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『真琴、今 何考えてる?』
家に帰り 晩御飯の用意をしようとキッチンに向かった俺を匠が後ろからギュッと抱き締めた。それまでのフワッとした抱き締めかたじゃない。痛い位の力で抱き締められた。
『俺、また真琴を怒らせる様な事した?』
腕の力とは真逆に 耳元で囁く匠の声は 弱々しく、俺のせいで 不安がらせているんだと思ったら 申し訳なさで一杯になった。
『何も… して ない。』
そう答えるのが精一杯だった。考えがまとまらない。何を言っても言い訳にしかならない気がした。匠は何も悪くない。
ただ俺が弱気になってるだけ。
だけど俺は別に女性になりたい訳じゃない。俺は男で匠も男。それは匠を好きだと気付いた時 十分苦しんだし、男同士がマイノリティだという事は理解した上で付き合ってきた。だから今さらそんな事で揺るがない。
…と、思ってた。今の今まで。
実際 匠にプロポーズをされ 指輪と婚姻届を渡された時、これ以上の幸せはない、これ以上望む物もないと思ったし、天にも昇る位 幸せだった。
匠と一生生きていこう…と俺も決意を新たにした。
なのに… さっきの子供を優しくあやす匠を見たら、そんなおれの決意なんて一瞬でぐらついた。
自分がひどく匠に不釣り合いな相手に思えた。
きっとあれが世間一般でいう "幸せの形" なんだろう。だったら俺には絶対に無理だ。
俺は匠に家族を作ってやる事が出来ない。
考えない様にと、心の奥底に鍵を掛けてしまっておいた暗闇が広がっていく。
せめて…身体だけでも満足させてあげられてたら…
匠はそんな事俺に求めてないのに 俺の思考はどんどんネガティブになっていった。
『真琴、今思ってる事、全部吐き出せ。』
俺を抱き締めたままの匠が 静かにそう言った。
『どうせ また良くねえ事考えてんだろ?怒んねえから全部教えて?』
耳元で優しく囁く。
思ってる事全部…?
『真琴が言わねえなら俺から言うぞ?真琴が好きだ。好きで好きで堪らない。一昨日より、昨日より、そして明日は今日より どんどん好きになっていく。真琴、愛してる。俺の側から離れないで?』
喋らない俺を無視して 匠は続ける。
『高一で出会ってから十一年間、俺は真琴だけが好き。それは死ぬまで変わらねえ。だから真琴も俺だけ好きでいて?俺以外の事考えるな。』
『た く…み…… 』
『何か不安にさせたんなら謝る。だから俺を捨てないで?』
俺が匠を捨てる………?何それ有り得ないから!!!
『真琴、ハッキリ言うぞ?もしもSEX出来ねえ事気にしてるなら、それは全く気にする必要ねえ。真琴にそれだけのトラウマを作っちまったのは俺だ。真琴に罵られても仕方ねえのに お前は俺を一度も責めねえ。もっと俺を責めていいんだ。真琴は何も悪くねえ。絶対に自分は責めるな!』
匠は 俺が不安に思ってる事を 優しく一つずつ取り除く。匠の言葉は まるで魔法の様に 俺の心を軽くしてくれた。
『真琴、愛してる。真琴は…?』
また腕にギュッと力を入れ俺の襟足に鼻を埋める様にして 匠が俺の返事を促した。
そんなの…そんなの…
『愛してる… 俺も匠しかいらない!』
『そう… 良かった。』
結局、俺の心を動かすのは いつも匠で。
やっぱり俺、匠と離れる事なんて考えられない。
『ワリ…、ホッとしたら腰が抜けた。ちょっと一服してもいいか?』
そういうと匠は部屋に行き 最近めっきり本数の減った煙草を持ってきた。離れたくなくて俺もベランダに出た匠の後を付いていく。
『真琴、こっち側に来い。』
俺を風上に異動させ 匠は煙草を一本咥え 慣れた手つきで火をつける。キンッと小気味いい音を鳴らして煙草の尖端がジジッと赤くなると次の瞬間、美味しそうに煙を吐いた。
格好いい……。俺は思わず見惚れてた。
『これ… さ、お前に貰ったこれ、知ってっか?』
『ん?なに…?』
『これに何て書いてっか知ってた?』
自分の手の中で ジッポをくるくる回しながら、ゴニョゴニョ言う匠。なんで照れてんだろ。
『あー、英語で何か書いてあったよね、何て書いてるの?』
匠は真っ直ぐ前を向いたまま また煙草の煙を吹かし、すごく優しい顔で笑った。ドキッとした。ああ…俺 この人じゃなきゃ駄目だ…
『さあね。』
そう言うと 匠は最後の煙を俺の顔にフーッと吹き掛け悪い顔でニヤッと笑った。
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