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匠は 返事の代わりに 俺をそっと抱き寄せ、
優しく涙を吸い取ってくれた。
そして左手を取り 真っ直ぐな眼差しで俺を見つめた後、指輪にキスを落した。
わぁ…
匠は 俺の贔屓目(ひいきめ)無しに見ても凄く格好いい。その匠が、俺の指輪にキスを…
映画のワンシーンみたいな 余りに綺麗な光景に 思わず息を飲む。
まるで何かの誓いの儀式みたい
あ…俺…、匠に愛されてる… 嬉しい…
匠は終始黙ったままだったけど、言葉なんて無くても十二分に伝わった。俺は 心がふわふわポカポカして とても幸せな気分だった。
もう何があっても絶対迷ったりしない…
俺は夢見心地で、だから次に匠から発せられた言葉の意味を直ぐには理解出来なかった。
「真琴、籍 入れよう?」
セキ イレヨウ?
…… セキ?
!!!!
セキって、 もしかして … 籍…?
思ってもなかった言葉に 頭がバーストする。
咄嗟にリビングにある婚姻届が頭に浮かんだ。
え… だって "あれ" は受理されないんじゃ??
頭が混乱して まともな思考が働かない。
俺は口を開けた間抜け顔のまま固まってしまった。
「ま・・と?もどっ・こい。」
匠が何か言って 俺の顔の前で手をひらひらさせてるけど、俺はその間も 頭をフル回転させて考えてた。
半年前、匠と一緒に書いた婚姻届は リビングに掛けてある。『例え受理されなくても関係無い。俺達は結婚の誓いを交わした。その証として いつも見える所に置いておこう。』って匠が言ってくれて…
嬉しかった。
提出される事の無い その誓約書は リビングで俺をいつも勇気付けてくれた。
自分に自信を無くした時それを見ると『匠の側に居てもいいんだよ』と言ってくれてるみたいで。
見えない "女性(てき)" に怯える俺の御守りだった。だって 何処まで行っても 俺と匠は法律上 赤の他人で…
同性婚は出来ないから…
例え法的に他人だとしても 俺達は家族だし夫婦だ。
そう思って今日まで過ごしてきた。
途中、負けそうになったり逃げそうになったりもしたけど、最後の最後で踏ん張りが効いたのは 匠の存在は勿論、指輪と あの婚姻届があったから。
でも同姓の俺達は 何処まで行っても他人のはずで…
結婚じゃなく "籍を入れる" 方法を、
俺は 一つしか知らない。
それは…
『養子縁組』
そっか…それでさっき匠は指輪にキスを…
匠の決意を見せられて、勝手に敗北感や劣等感を抱きウジウジ悩んでいた自分が余りにちっぽけに思えた。
それと同時に、匠が凄く大きく男らしく見えた。
匠はいつだって俺を導く。何かキッカケが無いと一歩も踏み出せない弱い俺の手を いつだってグイグイ引っ張って行ってくれる。
「キスすっぞ?」
え… キス… ? ちょっと待っ……
固まったままの俺に痺れを切らしたのか、匠が静寂を破った。
「いただきます。」
…っふふ、俺の了解は いらないんだ…?
でも俺は匠のこういう強引な所が好きだ。
一応、予告はしつつも 俺の返事を待たずに顔を近付けてくる匠は 昔に戻ったみたいで… 嬉しい。
俺がこんなんになる前は、匠は少し強引な位だった。そして俺も匠に迫られて 嬉しいと思う事はあっても嫌だった事なんて一度も無かった。
だから最近の匠の気遣いは 嬉しくもあり 少し淋しくもあった。本当、俺って我が儘だよね。
クチュクチュ…
俺の咥内を暴れる匠の舌が 徐々に俺を覚醒させる。本気のプロポーズを受けて夢見心地だった俺を引き戻してくれる。
「あっ……ふ…ん…っ…… 」
気持ちいい…。匠…俺の匠…。
こんなに愛しい人、もう二度と現れない。
「真琴、返事…欲しいんだけど。」
匠と見つめ合う。匠の瞳に俺が映ってる。
そして俺の目には またいつの間にか溢れんばかりの水溜まりが。
匠、これは嬉し涙だよ…?
「真琴、俺と本当の家族になろう? ごっこじゃなく ちゃんと結婚しよう?」
俺の指輪を左手ごと両手で包み、匠は三度目のプロポーズをしてくれた。
俺 、"ごっこ" だなんて一度も思った事無い。匠の本気の気持ち、ちゃんと俺には届いてたよ。
自分に自信を無くして崩れそうになった事はあるけど、匠の気持ちを疑った事など一度も無いんだよ?
だから、これで最後にするから…
匠が愛してくれた "俺" を俺も信じるから、
最後にもう一度だけ 確認させて?
そして安心させて?
「お れ……で い…い…の ?」
涙は止まらないし 声は震えるしで情けないけど 、これは情けない俺の "卒業式" だ。
もう二度と弱気にならない。
だから最後にもう一度だけ匠の口から聞きたい…
「真琴がいい。真琴しかいらない。」
ああ…、ありがとう…
匠がニヤッと笑った。俺の大好きな あの悪い顔で。
「真琴、返事は?」
そんなの決まってる。
「はい…。」
次の瞬間、前触れもなく匠に抱き締められた。
もう俺は震えてなどいなかった。
そしてこれからも二度と震える事は無い。
「真琴、さっきは本当にごめんな、怖かっただろ?それに一人にしてごめん。」
俺は顔をブンブン横に振ってギュッと匠に抱き付いた。違うから!誤解してる、匠。俺、怖くて泣いてたんじゃない!ああ…、早く違うって言ってあげなきゃ駄目なのに、また俺の口は余計な事を口走る。
「俺も 早く匠に抱かれたい。俺、頑張るから。」
何言ってんの、俺…… !
「ばーか、頑張るのは俺だっつーの。」
チュッとキスをして匠と笑い合った。
この幸せを失いたくないと心から思った。
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