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エレット
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どっさりと高級品と言われている果実を上機嫌でひとつひとつ取り上げては、ふきんでピカピカにしてから、大きなカゴに入れている長身の青年を見上げ、真っ白なひげをたくわえた里長は深々と溜息を漏らした。
この青年にすべてを託さないと、この先の未来がないと分かってはいても、不安しかない。
「おい、エレット、明日じゃぞ。ちゃんと分かっているのか」
この大きく重い世界を左右する任務を引き受ける代わりに、要求された金と果実や食べ物を用意したのだ。
「分かってるっての。しつけーなぁ、じしい。あんま、しつけーとハゲひどくなるぞ」
ひひっと笑い、ピカピカに磨いた果実をうっとりと眺めて、カゴに入れて飾り付ける。
「明日は、世界を託された虎神の勇者である虎牙者との顔見せなんじゃぞ」
「一緒に任務果すとかだろ。まー、とり急ぎ金が欲しかったから引受けたけどな」
エレットと呼ばれた青年は、どうでもよさそうな顔をして、縛った黒髪をぴょんぴょん尾っぽのように跳ねさせて、テーブルを鼻歌交じりに拭き始める。
この里に住まうと言われている龍神が約15年振りに勇者を選んだ。
だが、選んだ男が問題だった。
子供の頃から悪ガキで有名で、どんな仕事をしても途中で問題を起こして続かない、根無し草のような男である。
まだ、19歳ではあるが、彼が選ばれたことに里の人々は不安しかないようではあった。
「みんな、俺じゃない方がよかったって言ってるケドさ、中には俺みたいな人の役にたたないヤツが死ににいく方がまだいいっていうヤツもいるしさ。死にたくねーけど、いままでのヤツはみんな死んでんだろ?」
不安ではあるが、自分じゃなくてよかったと考えている人が多いのも確かである。
里長は、ふううと大きく息を吐いて顔をくらくする。
「だけど、明後日アイツが帰ってくっからさ。だから、俺、その任務っでヤツもやってやるとか思ったんだ」
明後日、幼馴染だった男がこの里に帰ってくるというのだ。
里長の記憶の中ではこのエレットよりも乱暴者で、手に負えなかったようなものしかない。
「こんな時にあのワルが帰ってくると思うと、わしの胃がもたんわい」
「でも、帰ってこなかったら、俺は逃亡してたかもしれねーよ」
テーブルの上に果実を盛り付けて、エレットは人好きのする笑顔を浮かべると、里長を振り返った。
「そんだけ、俺の中では、大きいヤツなんだよ」
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