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コンコン、と控えめにドアをノックして、怜がオレの部屋に入って来た。
無言でじろっと睨むと、引きつった笑顔を浮かべてる。まあ、一応、罪悪感は持ってるらしい。
「あの女は?」
「えっと……今、お風呂……」
風呂か。はいはい、風呂掃除も頑張ってたよな、そういえば。
つーか、言うの遅くねぇ?
「なんで前もって言わなかったんだよっ?」
キツイ声で文句を言うと、怜はいかにも反省してますって顔をして、「ごめん」って短く謝った。
はあ、とため息が出る。
まあ言い訳されなくても、理由は大体想像つくけど。だって、前もって相談されてたって、絶対認めてやんなかったしな!
「で? アイツ、どこの誰?」
言われなくても想像ついてたけど、一応訊いておく。
そしたら案の定。
「えっと、うちのじーさんの知り合いの孫、で。ずっとオレのファンだったから……えー……恋人、になりたい、って」
怜はしどろもどろにそう言った。
やっぱり実家の関係者か。育ちが良さそうだもんな。
なんつったって、「怜様」だし。
けど、それにしちゃ、いやに積極的じゃなかったか? そうっと寄り添ったり、甘えるように見つめたり、胸に顔寄せたり! 20歳そこそこのお嬢は、もうちょっと慎み深いだろ!?
「恋人になりたいっつって言われたら、ほいほいカノジョにしてやんのかよ、お前は?」
そう訊くと、怜は首と手をぶんぶん振った。
「条件付きだし! 一週間だけの約束、だ」
一週間。そういや昨日の晩、そんなこと言ってたよな。一週間別れて下さいってな。
別れるって、なんでだよ?
恋人ごっこなだけなら、別れる必要ねーだろ。
それとも何か、コイツ、もしやあの女に一週間、操を立てるつもりじゃねーだろーな!?
「なんで一週間?」
キツイ声で尋ねたオレに、怜がしどろもどろに応えた。
「え、と、オレの側で一週間過ごして……思い出できたら、来週、アメリカ行くんだって」
「なんでアメリカ?」
「手術?」
そこで、なんで疑問系!? なんで首かしげてる!?
手術、でアメリカ? なら、病気か?
まあ、細いし白いし、あんま健康そうにゃ見えなかったけど。でも、ちゃんと自分で歩けてるし、そんな切羽詰ってなくねーか?
「そんな病人、預かって大丈夫なんかよ? 何の病気?」
すると怜は、今度は逆向きに首をかしげた。
「んー、心臓の、病気? 心臓が、だんだん動かなくなる? って。手術は早い方が、いい? みたい?」
「なんだそりゃ」
なんだ、その曖昧な言い方? 余計にムカつく。
「てめーは、自分のカノジョの病状も把握してねーんかよっ!」
思わず怒鳴ると、「ホンモノじゃないし」とか言われた。分かってるっつの! つーか、ホンモノもニセモノもねーっつの!
ぐっと拳を握りしめると、怜は「ひぃっ」と奇声を上げて、天然パーまの頭を押さえた。
「だ、だ、だって、聞いたって分かんないし! それに、岩清水さんはオトナだし。自分で自分の体調は分かるから、オレは夜の間だけ、側で気をつければいいって……!」
「はぁ? オトナ!?」
そりゃ、同い年くらいだし、20歳越えりゃオトナだけど。あの子にオトナって、似合わなくねーか?
そう言ったオレに、怜はどことなく自慢げに答えた。
「岩清水さんは、28歳だよ」
28歳……って。オレらより……7つ上?
「……はあ!?」
「見えないよねっ?」
いや、見えない、っつーレベルじゃねーだろ。どんな魔法使ったんだ?
うわ、ウソ、女って怖ぇ……。
殴る気も失せちまって呆然としてたら、その28歳女が風呂から上がったらしい。ガチャ、と風呂場の中折れ戸を開ける音がした。
「うわ」
怜が慌ててオレの部屋から出て行った。オレも、何となくダイニングに向かう。
しばらくして、スパスパとスリッパを引きずる音と共に、岩清水が現れた。
……浴衣姿で。
いや、浴衣っつっても、花火大会とかで着るようなんじゃなくて、寝巻用の浴衣っつーの? 旅館とかで出そうなやつ。
白地に、紺と赤の金魚模様。細い帯は赤だ。
長い髪を頭の上で一つにまとめ、でかいピンで留めてある。
すっぴんなのに、顔変わんねぇ。
「怜様」
岩清水が、怜を上目遣いで見つめた。
「ドライヤーをお借りできませんか?」
「あ、ドライヤーは、ない……よね」
怜の目線を受けて、オレも「ああ」とうなずく。オレも怜も、普段そんなの使わねぇ。
すると、岩清水は困ったように、怜から目を逸らした。
「まあ。それじゃあ、怜様のお布団、濡らしてしまいますね」
って。
「お、お布団……」
怜が顔を赤らめた。
うわ、魔女だ。
オレは何となく、そう思った。
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