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魔法にかかってたのはオレだった。
怜に泣かれるまで、そのことに気付かなかった。オレはバカだ。
「ごめん」
短く謝って、オレの胸倉を掴んだままの手を、さらに掴んで口接ける。
噛み付くように唇を奪うと、甘い吐息が一週間ぶりに混じった。キスは涙の味がして、それでもやっぱり甘かった。
「う……」
キスの途中で、怜が嗚咽を漏らした。それを全部唇で奪い、こぼれた涙も唇にすくう。
黙って肩を抱き、オレの部屋へと連れ込むと、怜は抵抗しなかった。
見つめ合ったまま、競争するみてーに服を素早く脱ぎ捨てる。
2人同時に生まれたまんまの姿になって、抱き合ってもつれ合い、ベッドの上にダイブする。
組み伏せてキスをしながら、キレイな体に手を這わす。
ムダ肉のねぇ、鍛え上げた体。しなやかな筋肉。吸い付くような肌。
オレだけのものだ。
誰にも渡さねーし、誰にも貸さねぇ。
オレだって。怜以外の、誰のものにも絶対ならねぇ。
「早く、早く来て! 哲也!」
怜が上擦った声でねだる。
「痛くしていいから! 早く来てっ」
そう言われたって、アスリートの体は大事に扱わねーと。
いつものようにローションを絡めて、指1本から慣らそうとすると、オレの気遣いを見透かしたように、怜が叫んだ。
「明日、練習ないから!」
「お前……」
そんな風に欲しがられたら、一週間ぶりだ、オレだって待てねぇ。性急に最低限穴をほぐし、ゴムのパックを一つ取る。
すると怜が首を振った。
「いらない! 今日は使わないでっ!」
パン、と手を叩かれ、アルミパックを取り落す。
だよな、ごめん。心の中で謝って、でも何も言わねーで。白く引き締まった脚を、抱えるように押し開く。
オレだけの場所に、怜だけのオレを押し当てる。
まだ少し堅い入り口を強引に貫くと、ぐぷっと溢れる人口の愛液。
「うあっ」
衝撃に漏れた声は、低く掠れてて。
柔らかいとこなんて一つもねぇ、筋肉質の引き締まった体が、美しくのけ反る。
女じゃねぇ。オレも怜も。でも構わねぇ、それでいい。
女なんか知らなくていいし、女なんかと比べなくていい。
わずかな抵抗を、突き破るように進めると、すぐに温かな粘膜がオレを包む。
「て、つや……」
怜がオレの首に腕を絡め、安心したようにため息をついた。その息を吐き切らねーうちに、抑え込んで激しく突く。
不安も、不満も、執着も、愛情も。全部そこに込めて、捻り込み、擦り付ける。
最初から、全力。
力いっぱい揺さぶる。
「あ、ああっ、あっ……!」
怜はオレの背中に爪を立て、ずっと悲鳴じみた声を上げ続けた。
痛かったかも知んねぇ。
もっと、ってねだられたからって、無茶し過ぎだったかも。
でも、オレだって。
「オレだって限界だったんだっ、くそっ!」
最奥を突いて射精すると、怜の体がビクンと跳ねた。
思いの丈を全部吐き出したけど、それでもまだ足りねぇ。満足できねぇ。だから、それを塗り込めるみてーに、繋がったままで揺さぶり続けた。
気の済むまで、何度も。
そしてそれを、怜もただ、喘ぎ泣きながら受け入れた。
何度目かの射精の後、オレの胸に甘えるように縋って、怜がぽつりと言った。
「オレ、重いと思う、ごめん」
「ああ?」
何の話かと思ったら、つまり、全力でオレに寄りかかりてぇってコトらしい。
「オレは多分この先、背番号しか背負えないから」
って。
「野球とチームのことしか考えられないと思うから」
って。
そんなの、今更だ。
それに、そんくらい別に負担でもねぇ。
「はっ。お前一人くらい、支えてやるよ。荷物くらい持ってやるしな」
オレがそう言うと、「頼もしいな」つって怜は笑って、それからすうっと眠りについた。
緩んだ寝顔を見つめながら、短い猫毛をほわほわと撫でつける。
確かにこんな重い男、女なんかには支えらんねぇ。
オレだからこそ、か。
男でよかった。
だったら、この先もきっと、コイツとやっていける。
それに気付かせてくれた事だけは、あの魔女に感謝しなきゃなんねぇな。
月曜日。
目が覚めたら、腕の中に怜はいなかった。
うわ、今、何時!?
慌てて飛び起き、時計も見ねーでダイニングに行くと、メシの炊ける匂いと味噌汁の匂いが、ふわっとオレを出迎えた。
「おはよ」
キッチンに立ってんのはエプロン着けた怜で……ダイニングには、オレ達しかいねぇ。
オレのイスには誰も座ってなくて、昨日魔女に渡された紙袋が、代わりにそっと置かれてた。
「ああ、これ……」
貴方と怜様に。魔女の言葉を思い出しながら、紙袋から中身を取り出す。
広げると、それは2着のセーターだ。「下手で申し訳ありませんけど」って岩清水は言ってたけど、既製品かっつーくらい、見事な仕上がりだった。
ただ、ハッキリ分かるくらいのペアルックではあったけど。
「哲也が言ったの? オレ達付き合ってるって」
怜が、オレの茶碗にメシをよそいながら言った。
「いや、オレ言ってねーぞ。お前が言ったんじゃねーの? ケンカしてたじゃん」
おとといの夜――「無理だ」っつってたし。
昨日の朝、岩清水は何でもねーことのように言ってたよな、「恋人同士だと存知ています」って。けど。
「え、オレ、言ってないよ?」
怜はきょとんとして、首をかしげた。
じゃあ、誰から聞いたんだ?
いや、聞かなくてもお見通しだったんか?
あの女が来てから、オレ達、ほっとんど会話してもなかったのに。それでお見通しって、どういうことだ?
「やっぱ魔女だ……」
オレは呟きながら、味噌汁をすすった。
何だろな、このスゲー敗北感。一生勝てそうにねー感じ。
ふふっと笑ってると、怜が急かすように言った。
「哲也、急がなくていーの?」
言われて時計を見ると、8時20分。
「うわ、ヤベェ!」
慌てて立ち上がりながら卵焼きをつまむと、「行儀悪いよ」ってたしなめられた。でも、そんなの構ってらんねーし。
今日も授業は9時からで、うちから大学の教室までは、平均所要時間30分――。
セーターを尻目にロンTを引っかぶり、 歯磨きしながら靴下はいて、顔を洗えばギリギリの時間だ。
「帰る時には電話してね」
怜の笑顔に見送られ、オレは鞄持って階段を駆け下り、駅までの道を小走りに行った。
いつも通りの朝が、今日からまた始まった。
(終)
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