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16話 扇情的な翡翠色の瞳
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「しぃ兄!? ちょ、それは無しの方向でっ」
「ダーメ」
「〜っ」
小学生の時にされた[加賀美家流の痛いの痛いの飛んでいけー]をされるのかと思い待ったをかけたが時既に遅し。
速攻で拒否られ、おまけとばかりに煌めく笑顔を返される。
よりにもよってどうしてそこに触れるのかと文句を言おうにも恥ずかしさが極限に達し、俺は本日二度目の金魚よろしく顔を真っ赤にしてパクパクと口を開閉させる事しか出来ず、文句の言葉は喉奥で詰まってしまい何も言い出せない。
耳に届く微かなリップ音と、肌から伝わる柔らかな感触。
性欲真っ盛りな思春期男子と言う自覚がある俺に、この刺激は今日一番の拷問だ。
好きな相手にこんな事をされていると言うのに理性と息子の平穏を保たなきゃいけないなんて、至難の技過ぎて心中のみでだが泣けてくる。
もういっそ気絶したい。切実にっ。
「トキちゃんの体、綺麗に筋肉が付いてるね。腰が細いのは昔から変わってないけど」
「なっ、一言余計だ。それと、口引っ付けたまま喋ん、っ」
「どうしたの? くすぐったい?」
「わかってるなら、止めてくれよ」
「ふふっ。い、や」
「でーすよねー」
不機嫌面をなんとか作りながら、しぃ兄の予想通りな返答に俺は内心冷や汗が止まらない。
脇腹を指先で撫でられるこそばゆさに体が震えてしまいそうになるが、それには何とか耐えられる。
しかし、そのこそばゆさの中にほんの少しだけ混じっている小さな快感が、熱い靄のような形でじわじわと体の中に溜まっていく事にはそう長く耐えられそうにない。
理由は簡単。俺は片手で数えられる回数しか自慰をしたことが無く、快感に殆ど耐性がない。
このままじゃボロが出るのも、本当に時間の問題だ。
「ごめんね。あともう少しだけ、俺の我侭に付き合って?」
「……しぃ兄って、なんかもう存在自体が狡いな」
「えぇー。俺的にはトキちゃんがそうなんだけど」
「は? いやいや、俺は普通だろ。っ」
肌を伝う指先や唇の感触を意識しないよう軽口を叩くも、逆に意識してしまうこの矛盾。
胸から鎖骨、肩、腕へ唇を落としていくしぃ兄の、ごめんねと言う言葉とは裏腹に浮かべている意地の悪い笑みから繰り出される色気のなんと凄まじいことか。
これは本当に、一瞬たりとも気が抜けない。
もし少しでも気を緩めれば、俺の理性は一気に吹っ飛び視界に映るしぃ兄の唇と自分の唇を重ねてしまいそうになるだろう。
扇情的な翡翠色の瞳と視線が合う度、自分の欲望が膨らんでいくのを止められない。
「ん。あとは背中と、両足かな?」
「……………………はい?」
俺の左腕へ軽いキスを落としたしぃ兄の言葉に目が点になる。
驚愕のあまり瞬きを数回繰り返ししぃ兄を見れば、何をそんなに驚いているのかと小首を傾げられた。
いやいや、首を傾げたいのはこっちだから。
背中は予想の範囲内として、両足ってなんだよ。
確かに足とか蹴られたりしてるから痣はあるけど、まさかそう来るなんて俺予想してなかったからな?
しぃ兄の前でズボン脱いでパンツ一丁の格好になれってか。
……恥ずかし過ぎて発狂するわ!
「取り敢えずベッドに移動しよっか」
「ストップ! ちょっと待ってしぃ兄。マジで待って。これ以上は無理だから。もう勘弁しっ」
「よいしょっと」
「人の話を聞けよぉお!」
もう慣れてしまった姫抱きをされ、半分以上本気の抵抗をしてみるもあっさりと押さえ込まれてしまい俺はベッドの上へ強制的に仰向けの状態で寝かせられる。
ギシリとスプリングが小さな悲鳴を上げ、迫力のある笑顔で逃がさないと物語るしぃ兄に俺は涙目になるしかない。
「しぃ兄、頼む。これ以上はっ」
これはもう逃げられないとわかってはいるし、返ってくる返事もきっとダメの一言だというのも予想できる。
諦めが肝心なのもわかるが、このままでは俺がヤバイ。理性の箍が外れてしまう。
もういっそ今ここでしぃ兄を押し倒しキスをしてやろうかとか少しでも考えてしまってる時点でマジでヤバイ。
しっかりしろ、俺。そんな事をして後で取り返しのつかない事になったらどうするんだ。
自分にそう言い聞かせながら、俺は首を横に振り力一杯両手でズボンを握りしめる。
そんな俺に対ししぃ兄は、己の顔の良さをたっぷりと駆使し、見た者が「どうぞ好きにしてください」と思わず口から言ってしまいそうになる程の笑顔を浮かべ、予想通りの一言を口にした。
「ダーメ」
「だろうな。って、ぎゃああ!」
片手で簡単に両手を拘束され、スボンを一気に引き下ろされる。
これはもうダメだと本気で拘束を解こうと抵抗してみたが、しぃ兄の手が微動だにしない。
そりゃあ昔からしぃ兄は馬鹿力だったけど、今の俺は昔と違いそこそこ鍛えているから力は強い方なはずなのに、これは一体どういう事だ。
少しは対抗出来ると思ってただけに、驚き過ぎて逆に体の力が抜けてしまった。
「顔、真っ赤」
「っ、見るな」
「それはちょっと無理かな」
「なんでだよ」
「トキちゃんが可愛いから」
他に理由なんてある?
満面の笑顔でそう語るしぃ兄に、俺の顔は更に赤みを増していく。
今日一日で何回、可愛いと言われただろうか。
可愛いと言われるよりカッコイイと言われた方が男として嬉しいはずなのに、しぃ兄に言われると恥ずかしさもあるが何故か嬉しいと感じてしまう。
もしかして俺は、自分で自覚していないだけでけっこうな乙女思考なんだろうか……。
「はぁ……。もう抵抗しないから手、離してくれ」
もうこうなってしまったら、しぃ兄が諦める事はまずない。
そして俺が折れてしまうのも、昔からのお決まりだ。
頼む、なんとか持ち堪えてくれ。俺の理性と息子よ。
「え? 抵抗してたの?」
「それはわざと言ってるのか? それとも本気で言ってるのか?」
「ふふっ、どっちだろうね」
「うわー、腹立つ笑顔だなーおい。てかさっさと終わらせてくれ。しぃ兄も時間無いだろ」
「うん。残念だけど、トキちゃんの言う通り確かに時間は無いね」
拘束していた手を離し、ちらりと腕時計を見て小さく肩を竦めながら心底残念そうに俺の言葉を肯定するしぃ兄。
それじゃあ早く終わらせようか。そう言ってとったしぃ兄の行動に、俺はまた赤面する羽目になる。
俺の両足の間にするりと体を割り込ませてきたしぃ兄は、意地の悪い笑みを浮かべながら俺の右足を持ち上げ肩に担ぎ、太股を撫でてきた。
肌の上をなめらかに滑っていく指先に反応しないよう堪えるだけでも大変だと言うのに、何なんだこの体勢は!
これじゃあ右足部分が付根までほぼ丸見え状態じゃないか。
下手をすると、俺の息子がトランクスの隙間からチラ見えしている可能性もある。
…………いや、それはない。うん。ないと思っておこう。そうしないと恥ずかしさで正気を保てなくなりそうだ。
「こんな所にまで痣がある」
悔しそうに小さく呟いたしぃ兄は、内太股に出来ている痣へそっと唇を寄せる。
そんな目の前の光景を見続けることなんて出来るはずもなく、俺は顔を横に背けただ時が過ぎ去るのを待つしかない。
「左足……は、そんなに痣が無いね。どうして右だけ?」
「たぶん蹴りやすかったんだろ。右足は大体いつも蹴られてたし」
「へぇ。大体いつも、ねぇ」
薄ら寒くなる笑みを称え、俺の足に出来ている痣を見つめるしぃ兄。
翡翠色の瞳の奥には、静かに燃え盛る確かな怒りが見て取れた。
「ん、足はこんなものかな。それじゃあ次は背中だ、ね……。は?」
「しぃ兄?」
くるりと体を反転させられ、仰向けから俯せ状態へ体勢が変わる。
俺の背中を見た瞬間しぃ兄の声が驚くほど一気に低くなり、怒気がさっきよりも確実に膨れ上がったのを感じた。
背中にもかなりの数の痣はあるが、それは腹や腕にあるのとそう変わらないはず。
それじゃあ一体何を見てしぃ兄はこんなにも怒っているのか。
俺が聞こうとする前にしぃ兄はその原因の痕を指先でなぞり、怒りを無理矢理押し込めた声で俺に問う。
「トキちゃん、沢山あるこの蚯蚓脹れは、一体何の痕?」
「蚯蚓脹れ? ……ぁ。えっと、それはたぶん鞭の痕、だと思う」
「鞭、ね。そんなの使って一体誰がこんな事したのか、教えてくれる?」
「義兄……」
一瞬、何の事だろうと本気でわからなかったが、そう言えばつい最近義兄が鞭を使い俺の背中をしつこく攻めてきたのを思い出した。
何でも、新しく婚約した相手が所謂マゾヒストだったらしく、変態女を相手にするのは気持ち悪いがこれも二条家の為だ、鞭を上手く扱う為の練習台になれとかかんとか。ぶっちゃけ意味がわからない理由を付け、趣向はいつもと違っていたが俺にとっては下卑た笑顔で殴り蹴られる日常とさして変わらないので、すっかり頭の中から抜けていた。
「これは、予想外だったなぁ」
「しぃ兄? その、気持ち悪かったら無理しなくていいから」
「ん? 気持ち悪くなんてないよ。でも、今からトキちゃんがそう思っちゃうかもしれないかな。嫌なら我慢しないでちゃんと言ってね?」
「え、どう言う意、ひっ」
突然片腕で腰を持ち上げられたかと思うと、俯せ状態のまま尻を突き出すと言う恥ずかしさ最上級の格好をさせられ、間を置かず背中にやってきたのはぬるりと生暖かく湿った感触とピリッとした小さな痛みが走る感覚。
……これは、もしかしなくても俺の背中に出来ている蚯蚓脹れをしぃ兄が舐めている感触なのだろうか。
「し、しぃ兄!? 何してっ。やめろよ、痣、汚いから」
「汚くなんてない。それに、これは消毒だよ」
「消毒って……っ。まっ、そんなとこ、触ん、なっ」
現状を理解し頭は軽くパニック状態だと言うのに、体は与えられる刺激に耐え切れず小刻みに震え上手く力を入れられない。
上から覆い被さる様な形で体をくっ付けてきたしぃ兄の片腕が下から蔦のように腹部を這い、胸の方へ上がってきたと思ったら外気に触れ小さく存在を主張している胸の突起を弄り始め、俺は驚きで目を見開き顔を真っ赤に染め上げる。
どちらかの体が少しでも動く度、しぃ兄の着ている服が肌を柔らかく刺激して変な気分になっていく。
ここまで必死になって保ってきた理性の糸が快感と言う熱でじりじりと焼かれていき、こままじゃ数分と持たずプツリと切れてしまいそうだ。
「な、んでっ胸なんか、触ってんだよ。てかこれ以上はほんと、も、やめっぅ」
「ん? こうしたらちょっとは痛くなくなるかなぁと思って」
「痛い方が、まだ、マシだっ!」
「え、トキちゃんMなの? 痛い方が好きなの?」
「そう言う意味じゃな、ぃっ、く……っぁ」
「ふふっ、凄く感度がいいね。……ねぇ、他の場所も、敏感なのかな?」
「えっ? ーーっ!!」
背中に出来ている蚯蚓脹れの上をゆっくりとなぞっていく舌が、不意に止まる。
体が180度回転して再び仰向けになったと思ったら、男の体の急所であり一番敏感な所でもある部分にしぃ兄の片膝が無遠慮に押し付けられ、突然のダイレクトな快感に俺の背中は一瞬弓なりに仰け反り目の前に小さな星が幾つか飛んでは消えていった。
「しぃ、にっ!? 何して……っ」
下半身が昂らない様必死に耐える俺に、白くて長い指先が伸ばされる。
前髪を優しく梳かれ、そのまま下へと流れていき頬をゆるりと撫でていく指の動きに、俺はまるで愛撫をされている様な感覚に陥り自然と目が潤み息が上がっていく。
じっと俺を見つめてくる翡翠色の瞳に我慢ならないと物語られるが、俺はどうしてしぃ兄がそんな瞳をするのかがわからず混乱し、上からゆっくりと近付いてくる端整な顔に目を見開き固まるしかない。
「しぃ、兄?」
「こんなの見せられて堪えられる程、俺は我慢強い人間じゃない。……ねぇトキちゃん、今すぐおーー」
『しぃ兄、電話だよ。しぃ兄、電話だよ。しぃ兄、
電話だよ。しぃ兄、でんっ』
「………………もしもし」
数センチどころかあと数ミリで唇が触れ合いそうになる程までにしぃ兄の顔が近付いてきた瞬間、部屋に鳴り響いた着信コール。
ピタリと動きを止めたしぃ兄は忌々しげに眉間に皺を寄せながら顔を遠ざけていき、小さく舌打ちをした後機嫌の悪さを隠す様子もなく苛立った声音で着信相手と会話を始め出す。
俺はそんなしぃ兄を見つめながらバクバクと煩い心臓を掴むように胸の上で拳を握り、今だ混乱から抜け出せず瞬きを何度も繰り返すのだった。
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