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17話 態度で示す
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ベッドに腰を下ろし通話を続けているしぃ兄の背中を眺めながら、俺は上半身を起こし片手でそっと自分の唇に触れる。
お互いの吐息を感じられる程にまで近付けられた唇。
あのまま行けば、確実に触れ合っていた。
元々スキンシップはかなり激しいしぃ兄だが、昔にだってあんな事は一度もなかった。
これは、しぃ兄も俺の事を? と、勘違いしてもいいのだろうか。
「……っ」
わからない。
しぃ兄の事が、わからない。
心臓はまだ激しく鼓動を続けていて顔や体にも熱は残ったままなのに、自分でもよくわからない不安感が湧き水のように胸の奥から滲み出てきて気付けば俺はしぃ兄の服の袖を力無く握って俯いていた。
「……え? ああ、わかったわかった。わーかーりーまーしーたー。でも竜二、あともうちょっとだけ顔だけカルテットに頑張って堪えてくれない?」
顔に不安ですと貼り付けた俺に気付いたしぃ兄が服の袖を握っている俺の手を優しく撫で、生徒会長との通話を続けながら首や頬にも触れてきてくれる。
俺はそれが無性に嬉しくて、しぃ兄の手が気持ち良くて、もっと撫でてくれと自ら頬を擦り寄せればどうしてかしぃ兄は数秒間硬直し、次の瞬間片腕で思い切りその胸に掻き抱かれた。
「ん、っぅ」
「大丈夫大丈夫、お前ならそれくらい堪えられるだろー? 俺もちゃんと後でそっち行くからぁ」
蚯蚓脹れを器用に避けながら、触れられているとギリギリ分かるような触り方で俺の背中を撫で始めるしぃ兄。
くすぐったい様な感じがするのに腹の底には快感の熱が再び集まってきて、しぃ兄の肩に頭を預けながら俺は上擦った声が出そうになるのを必死に堪える。
するとそんな快感と同時によくわからない不安感も大きく膨れ上がってきて、俺はぐっと息を詰め下唇をきつく噛み締めた。
なぁ、しぃ兄。どうしてさっき、しぃ兄は俺にキスをしようとしていたんだ?
「は? 何で急に機嫌直ってるんだってぇ? そんなの、目の前に癒しがあるからに決まってんじゃん。てかほんと邪魔しないで。……うん、だーからわかったって。もう切るよー? じゃあねぇ」
理由を聞きたいのに、聞くのが怖い。
鼻腔を擽るしぃ兄の匂いに俺は安心感を感じているはずなのに、肩は小刻みに震え視界は薄らとぼやけていく。
自分よりも広い背中に腕を回し抱き着いた状態のまま、通話を終えたしぃ兄にそろりと目を向けると砂糖菓子なんか目じゃない程の甘い笑みを返された。
「どうしたの?」
「っ」
「唇、噛んじゃダメだよ。ね?」
くっ付いていた体が少しだけ離れて、しぃ兄の両手が俺の唇や頬を撫でていく。
まるで魔法を掛けられたみたいに呆気なく、噛み締めていた唇はしぃ兄の親指の腹で触れられた瞬間柔らかく解かれてしまった。
詰まりそうになる息を短くはっと吐き出せばその吐息は思った以上の熱を持っていて、訳もわからず泣き出してしまいたい衝動に駆られるが眉間に皺を寄せ何とかやり過ごす。
「しぃ兄は……」
「ん?」
「しぃ兄はさっき、俺にっ……何しようと、してた?」
理由を聞くのが怖くて、でも気になって。
ゆらゆらと揺れる視界の中、泣け無しの勇気を絞り出し綺麗な翡翠色の双眸と視線を合わせる。
自然と口から零れ出たのはどうして、と言う疑問ではなく、さっきしぃ兄がやろうとしていた行為についてだった。
俺って奴はほんと、どうしてこんなに情けないんだろうか……。
「わかってるくせに」
そんな情けない俺の零した言葉に返ってきたのは、熱の篭った視線と艶やかな笑み。
「ぇ、しぃに、ぃんっ」
そして再びゆっくりと近付けられた、唇だった。
「んんっ、はっ、ぁ」
さっきのように着信コールが鳴り響く事はなく、すんなりと合わさった唇に驚いて俺は固く目を閉ざす。
そんな俺の唇の隙間からするりと侵入してきたしぃ兄の舌は器用に俺の舌を絡め取り、巧みに翻弄していった。
「し、にっ……ぅんっ、ふ、ぁっ」
「っ……これ、すぐに止めるの、無理かも」
「ぇ? んんっ! あっ、まっん、は、ぁっ」
自分が出しているのだと認めたくない程に甘く上擦った俺の声と、少し乱れた二人分の吐息。そして厭らしい水音が、静かな部屋を満たしていく。
少し離れたかと思えばすぐにまた吐息ごと唇を奪われ、上手く息が出来ず苦しいはずなのに頭の中がぐずぐずに溶けてしまいそうなくらい気持ちがいい。
閉じていた瞼を微かに持ち上げれば長い睫毛に縁取られ宝石のように美しく輝く瞳が潤んだ視界に映り込み、俺は背中に走った甘い痺れにふるりと体を震わせた。
「ーーふ、んっ……はっぁ」
「ん、っ」
どれくらい唇を重ね合わせていたのだろうか。
短くも長くも感じられたキスが終わる頃、気付けば俺の背中は再びベッドの上に重なっていた。
飲み込み切れなかった唾液が口端から零れ横顎を伝い、首筋を濡らす。
柔らかな感触が離れていく寂しさに小さく声を漏らせば、しぃ兄は銀糸を引いた己の下唇をペロリと舐めた後、優しく微笑みながら俺の頬に軽いキスを落としていく。
「突然こんな事しちゃってごめんね。今すぐにでも俺がどうしてトキちゃんにこんな事をするのか伝えたいけど、まだ言えない」
「……言えない理由、聞いてもいい?」
「細かくは言えないけど、端的に言えば俺の子供っぽい我が儘、かな」
俺にキスされるのは嫌だった?
上から覆い被さる様にして俺を抱き締めているしぃ兄が、耳元で蠱惑的に囁く。
息を切らした状態のままビクリと肩を揺らせば、小さな笑い声と共に可愛いと聞こえてきて。ほんの少し前まで不安で一杯になっていたはずの俺は、ここまでされて勘違いするなと言う方が無理だろっ。と、やけくそ気味に開き直りを始め出す。
と言うか、ここまでされてやっと気付く俺も俺で相当鈍すぎだ。
「しぃ兄、いつから俺の気持ちに気付いてたんだよ。知ってて、それを聞くのか?」
学園に来るまでの道中。タクシーの中で、この気持ちを知られる事だけは避けないと。なんて黄昏てた俺マジで消えて。
てかもうほんっと恥ずかしい。今なら恥ずかしさで死ねそうなくらいに恥ずかしい。
あー、くそっ。俺の鈍ちん馬鹿野郎がっ!
「んー、それを言っちゃうと俺の気持ちもわかっちゃうから、俺はトキちゃんの気持ちには気付いてないって事でお願いします」
「いや、いやいやいや。それもう答え言ってるのと同じだかんな!?」
本日最高温度を更新した顔面を両手で塞いで奇声を上げそうになっている俺は、奇声の代わりに大声で突っ込みをぶちかます。
するとしぃ兄は「そんな事ないよ」と、情けない顔を隠している俺の両手をやんわりと退け少しSっ気を滲ませながらこちらを見下ろし笑みを浮かべた。
「言葉にしてないんだから、答えは言ってないでしょ? 言わなきゃノーカンだよ。まぁ、態度では大いに示すけどね」
「態度で示すのも言葉で言うのもそう変わりねぇじゃん。屁理屈だ」
「ふふっ、そうかもね。でもやっぱり言葉と態度じゃ伝わり方が違うから、俺は同じじゃないと思ってる。ところでトキちゃん、俺の質問に対する答えは?」
「……ついさっき、態度で示してただろ」
「言葉では、教えてくれないの?」
理由があって気持ちを言えないという事はわかったけど、地悪く微笑むしぃ兄に俺は少しムッとする。
俺の気持ちに気付いていないと言うなら、それに気付くような答えを言わそうとするんじゃねぇよ。
…………つーかまさにさっき、俺の気持ちにいつから気付いてたんだよ。なんて言ったけど、それはノーカンだ。ノーカン!
「んっ」
「っ!?」
真っ赤に染まった顔のまま、俺はしぃ兄の後頭部へ両手を回し一気に自分の方へ引き寄せる。
チュッと軽いリップ音をたて、一秒にも満たない触れるだけの子供っぽいキスをすれば、大きく翡翠色の瞳を見開き驚いた表情のしぃ兄が視界いっぱいに映り込んだ。
「しぃ兄が気持ちを言えるようになるまで、俺も気持ちがバレそうな事は言わない」
「…………さっき言ったばかりなのに?」
「それは、ノーカンだっ」
「そっか。うん、そーだね。……あーもうヤバイ。トキちゃんほんと可愛すぎっ」
体が痛くならない程度の力加減でぎゅうぎゅうと抱き締めてくるしぃ兄。
そんなしぃ兄に俺はボソリと小声で本音を呟き、少しでも顔を見られない時間を稼ごうと滑らかな髪に指を通し再び両手で抱え込むようにして、その整った顔を今度は自分の肩へ押さえ付けた。
「……しぃ兄は、カッコ良過ぎだ」
「っ!? もっと、もっと言って!」
「嫌だ」
「むぅ、トキちゃんのケチんぼ」
「心臓が持たないから、嫌」
「〜っ、どうしよう。俺の心臓も、ちょっとヤバイかな……」
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