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04話 過去の自分と美少年な兄 後編
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幼い俺の薄っぺらな体に浮かぶのは、不規則に広がっている大小様々な醜い痣。
時に殴られ、時に蹴られ。変色し、歪なグラデーションが出来上がっている部分もあるこの体を見たしぃ兄は驚愕で目を限界まで見開き、そしてゆっくりと、俺の手首へ触れてきた。
「ごめんね」
「……え?」
「俺、刻也君にあの人と同じ様な事しちゃったんだね。恐かったし、痛かったでしょ? 一応加減はしてたんだけど、少し、赤くなってる……」
あの強さで加減してたとか、どんだけ馬鹿力なんだ。とか、驚きはしたけど、別に慣れてるから恐くはなかった。とか。
そう俺が返事を返す前にしぃ兄は驚きの行動をして、俺を文字通り硬直させる。
「本当に、ごめんね」
労るように俺の左手を自分の方へ持ち上げたしぃ兄は言葉と同時にゆっくりと、優しく、触れるだけのキスを俺の手首へ落としていった。
左手が終われば次は右手を。
手首から伝わってくる今まで感じたことのない柔らかな感触と温もりに、俺の頭は完全にフリーズ。
上手く状況判断が出来ず、しぃ兄の行動が終るまで黙ってされるがままになっていた。
「信じられないかもしれないけど、俺と母さんは刻也君を置いて行ったりしないよ。これでも俺、護身術用に柔道とか色々習ってるからね。母さんから」
「……え?」
「ふふっ、驚いた? 母さんおっとりしてるけど、あれでめちゃくちゃ強いんだよ? 物理的に」
「…………う、そだ……」
嘘じゃないよ。
にっこり笑って言ったしぃ兄に、俺はもう一度、嘘だと言葉を返す。
次から次へ予想もしていなかった行動や言葉を返してくるしぃ兄に、俺はとてつもなく混乱し、心が異常にぐらついていた。
そんな俺の心情を知ってか知らずか、しぃ兄はソファから起き上がり足早にリビングを出ていくと、手に何かを持った状態でまた直ぐに戻って来る。
「ほら、これが証拠」
「…………」
しぃ兄が持ってきた物。
それは、長い金髪をポニーテールで纏めあげ、柔道の道着を着た見慣れた美女が嬉しそうに優勝トロフィーをかがけている姿が映った写真だった。
「俺も母さんも、あの人の暴力なんかに屈しない。むしろ反撃して返り討ちにしてあげる。刻也君を置いて行ったりなんて、しないよ」
「っ、んな……そんな事言ったって、俺は」
「少しずつでいい。お願い。俺を……俺と母さんを、信じてほし――ぃうっぷ」
「〜っ」
真っ直ぐ澄み切った翡翠色の瞳を見ているとどうしてか不思議と頷いてしまいそうになり、俺は咄嗟に近くにあったクッションでしぃ兄の顔を押さえ付ける。
気を抜けばまた泣き出しそうで眉間に力を込め堪えていると、クッションから顔を半分ずらしてきたしぃ兄に「てい!」と人差し指で眉間をグリグリされた。
「いっ……たく、ない?」
「ふふふ、素直に泣かない刻也君には、お兄ちゃんから愛のお仕置きです!」
「は? ちょ、なっ!?」
ついさっきまでのシリアスな空気はどこへやら。
俺に体重をかけないよう器用に覆い被さってきたしぃ兄は、あろうことか俺の体に広がる痣へ唇を押し当ててきた。
自分で見ても気持ち悪いと思う体に、何をしているんだ、この人は。
慌ててしぃ兄の頭を掴み、顔を離せと力を込めるがピクリとも動かない。
胸や脇腹から手首にされた時と同じ感触が伝わってきて、自然と顔には熱が集まり恥ずかしさで爆発してしまいそうになる。
咄嗟に、手触りが良く少し襟足部分が長いしぃ兄の髪を思いっきり引っ張れば、しぃ兄は不服そうに俺を見上げてきて、そして、思いっきり抱き着いてきた。
「それ反則! 何? その表情! トキちゃんてば可愛すぎ! お兄ちゃんちょっと変な気分になりそう!」
「は? 変な気分? てかトキちゃんて何!? それにアンタ、何してんだよ。痣にあんな……。気持ち悪くないの?」
「気持ち悪い? なんで?」
きょとんと首を傾げ、逆に質問をし返してくるしぃ兄に俺は若干呆れたように短いため息を吐き出す。
「なんでって、こんな痣だらけの体、普通気持ち悪いだろ」
「ぜーんぜん。でも、痛そうだなぁと思ったから、加賀美(かがみ)家流の[痛いの痛いの飛んでいけー]をトキちゃんにしたんだけど?」
「……アンタ、俺で遊んでるだろ」
誰もが顔を赤らめるだろう美少年スマイルを浮かべるしぃ兄。
だがしかし、その笑顔はどこか胡散臭さが漂っていた。
何か嫌な予感がしてこの場から逃げ出そうとするも、俺はしぃ兄の腕の中から逃れられず再びされるがまま。
「アンタ、じゃなくて、お兄ちゃんって呼んで?」
「嫌だ――ぅあ!」
「トキちゃんがお兄ちゃんって呼んでくれるまで、これ、やめないよ?」
耳元から甘えたような声が聞こえてきたと思えばいきなり耳を甘噛みされ、俺の肩がビクリと跳ね上がる。
しぃ兄に耳を弄られる度ビリビリと電流みたいなものが背中を駆け抜け、このよくわからない未知の感覚に自然と目は潤んでくるわ体の中がモヤモヤするわで、俺の意地はあっさりと折れた。
「っ、た。……わかった、から。しぃ兄! これでいいだろ!?」
「っ!! 可愛いっ!」
「は!? このっ、は、な、れ、ろーっ!」
「い、や」
ここから俺のしぃ兄呼びが定着し、しぃ兄もトキちゃん呼びが定着した。
しぃ兄が俺の事をトキちゃんと呼ぶのは、なんでも俺と出会ってからずっとそう呼びたかったらしく、それ以上の理由は無いと言われた気がする。
そしてこの後、俺としぃ兄の攻防は母さんが仕事から帰宅するまで続き、俺達二人を見た母さんは嬉しそうに笑いながらご飯の支度をし始めたのだった。
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