アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
05話 再会
-
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ん、へぁ?」
ぼんやりとした視界。
不規則に揺れる体。
周りを確認し、そう言えば今は電車での移動を終え、バスではなくタクシーに乗っていた事を思い出す。
せっかくのしぃ兄と母さんからの好意を、一銭も使わず無駄にするのはなんか悪い。
それにもし、会って真っ先にお金を確認された時、中身がちっとも減っていなかったら、しぃ兄はいい笑顔でお仕置き内容をグレードアップさせるだろう。
そうなったしぃ兄の相手はめんど……げふん。難しいので、俺はバスよりも学園の近くまで利用出来るタクシーを、贅沢だが利用させてもらう事にした。
「っにしても、懐かしい夢みたなぁ……」
あの時から俺は徐々にしぃ兄と母さんに懐いて心を開いていき、二人に甘えるまでになっていった。
気付けば二年があっという間に過ぎていて、父親は一年を過ぎた辺りから家に帰って来る事はなく、別居生活をしていた気がする。
父親からの暴力がなく、毎日が楽しかった日々。
けれど、幸せな時間はそう長くは続かなかった。
しぃ兄が学園の中等部に上がった時、母さんの家の会社に問題が発生し、経営がグラついた。
まるでそれを狙っていたかのように父親が離婚を切り出し、食い下がるしぃ兄達をバカにするように嘲笑いながら俺を強制的に二条の家へ連れて行き、今に至る。
父親に連れて行かれる前に俺はしぃ兄に、絶対に学園に入学する事を約束し、しぃ兄も待って居てくれる事を約束してくれた。
もうすぐしぃ兄に再会出来ると思うと、嬉しさが込み上げて体が震えそうになる。
でも、一つだけ。しぃ兄と会えなかったこの四年間で気付いてしまった自分のある気持ちだけは、隠しておかないといけない。
そうしないと、俺は弟としてしぃ兄の傍に居られなくなる。
「…………はぁ」
窓から流れていく景色を眺めながら、ため息をひとつ。
再会出来る事は嬉しい。けど、その嬉しさと同じぐらい不安が胸に広がっていく。
この感情をしぃ兄の前で上手く隠せる自信が無い。と言うか、しぃ兄は俺の隠し事にすぐさま気付いてそれが何かを問い質してくるから、そうなればもう俺に逃げ道はない。
この、しぃ兄の事が恋愛感情で好きだという俺の気持ちを、知られる事になる。
それだけは、避けないと。
弟だと思ってた相手が実は、兄である自分を恋愛的な意味で好きだったとか、向こうからしたら悪い冗談だろとしか思えないだろうし、何より、弟として傍に居れなくなる事が俺には物凄く怖い。
自分はこんなにヘタレだったのかと少しショックを受けるが、それでもやっぱり、怖いものは怖いので気取られないようにしないと。
「――着きましたよ、お客さん。申し訳ないんですが、ここから先はタクシーだと進入禁止なんで少し歩いて行ってもらう事になります」
「あ、はい、わかりました。ありがとうございます」
タクシーの運転手に運賃を払い、ボストンバッグ片手に外へ出る。
Uターンをして来た道を戻って行くタクシーを見送って、さて歩くかと一度背伸びをし上を見上げれば、そこは圧巻の桜並木だった。
「うわぁ……。すごっ」
二車線分の道幅の両端に並ぶ桜の木々はその淡い花弁を風に踊らせ降り注ぎ、まるで雪のようにアスファルトの上へ積もっている。
自分でも小学生の子供みたいな反応だとは思うが舞っている花びらを空中でキャッチしたくなり、素早く腕を伸ばし俺は手の中を確認した。
「おっ」
ゆっくりと開いた手の中には淡いピンク色の花びらが見事に収まっていて、特に理由もないが顔が少しニヤけ気分が上昇する。
ふわりと柔らかく吹いた風に手の平から花びらが飛び去っていくのを眺めてから、俺はようやく緩い上り坂になっている道を歩き出す。
「えっ? いやいや、嘘……だろ?」
歩き出して一歩。道の先を見れば学園の門は結構近く、その門の前には私服ではあるが学園の生徒らしき人が沢山集まっていて、その中心には髪の長い金髪美形さんがこっちを見て大層顔を綻ばせていらっしゃった。
「トキちゃん!」
聞こえてきた声は俺の記憶の中のものより低く、色男度がかなり高い。
でも俺をトキちゃんと呼ぶのは、今の所この世界にたった一人だけだ。
一人遊びを見られていた事に恥ずかしさで顔が赤くなり、今すぐ地面に穴掘って埋まりたい気持ちもあるが、それよりも会えた事が嬉しすぎて足が自然としぃ兄目指し走り出す。
「ぃ……っ、しぃ兄!!」
人集りを掻き分け、笑顔で腕を広げてくれているしぃ兄の胸に俺は勢いのままに飛び込み、抱き着く。
ほんのり香る柑橘系の匂いと優しい温もりは記憶の中と同じもので、歓喜余って視界がぼやけてきそうだ。
周りがキャーキャーと騒いでいるがそんなことはどうでもいいと、俺は一層強くしぃ兄の背中に回している腕に力を込め、伝わってくる温もりを確かめた。
「やっと、やっと会えたっ」
「うん、やっと会えた。ずっと会いたかったよ、トキちゃん」
苦しいくらいしぃ兄に抱き締められ、その分しぃ兄の存在を実感して、俺はへへっと笑顔を浮かべる。
「俺、も。ずっと、会いたかった。しぃ兄」
そう言った俺の額にしぃ兄はコツンと自分の額を合わせてきて、俺達は視線を合わせ笑い合う。
長いまつ毛に、少し垂れ気味な翡翠色の瞳。
形の良い唇に、すっと通った鼻。
それらは変わっていないのに、美少年だった頃よりもしぃ兄はイケメン力と色気がパワーアップしていた。
中性的ではないが、男臭くもない。それなのに男の色気が物凄いって、何その反則技。
会えた嬉しさが勝ってるからまだ表情は誤魔化せているけど、俺の心臓は今にも飛び出しそうでヤバイ事この上ない。
言い方悪くてごめんだけど、しぃ兄。アンタの存在自体がなんか性的にエロいんですが、これ如何に?
「ふふっ。トキちゃん、顔真っ赤だよ? もしかして再会したお兄ちゃんが予想以上にカッコ良くなっててドキドキしてる、とか?」
「!? さ、さっきの、一人で遊んでる所をしぃ兄に見られて恥ずかしかったから、赤くなってるだけだけど」
「ほんとーに?」
「っ、ほんとー、に」
額同士をくっ付けたまましぃ兄が上目使いで微笑みながらこっちを見てくるもんだから、俺の心拍数はさっきから上昇しっぱなしだ。
しかもその微笑みがあざといもんだから、思わず変に吃ってしまった。
こんな反応、俺がしぃ兄を意識してますと言っているようなものじゃないか?
不味い。これは、ひっじょーに、不味い。
再会早々、俺は歓喜余ってな理由とは違う意味で、再び視界がぼやけそうになった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 32