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07話 同類
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この学園の特徴その一。
周りが男しかいない為、大体の生徒がバイorゲイ。ノンケは希少種。
その二。
顔の良い生徒には大抵、親衛隊が結成されている。
親衛隊とはざっくり言うとファンの集まりみたいなものらしく、大きく分けて二つのタイプがある。
一つは、ただのんびりと対象の美形さんを見守ったりしている穏健派。
もう一つは、美形さんに近付いた身の程知らずに制裁を与えようとする過激派。
ちなみに、その身の程知らずと言うのは容姿が美形さんに釣り合っていない人の事で、同じレベルの美形さんなら近付いてもOKとのこと。
その三。
高等部では生徒会の力がかなり大きく、各行事の取り決めやら高等部に関する運営の殆どを生徒会は理事長から丸投げされている。
そんな生徒会役員になる者は容姿が良く仕事も出来る人物が選ばれる為、一般生徒からの人気が飛び抜けて高く、親衛隊も過激なタイプが多い。
各委員会の委員長や副委員長も、生徒会には劣るが似たようなもの、らしい。
「まぁぶっちゃけて言ってしまえば、顔で大抵の事が決まってしまう、とんでも学園です」
「オーゥ、ノー……」
驚き過ぎて目を見開いた後、俺はしぃ兄に姫抱きされた状態のまま、なんつー学園だと右手で顔を覆い天を仰ぐ。
もう、何と言うか、しぃ兄はこの高等部の中でも特に人気のある生徒会の役員で、ここは俺の知ってる学校とは別世界という事がよくわかった。
自分で言うのもあれだけど、一般的に俺はどちらかと言えばイケメン側に入る容姿をしている。
けど今、しぃ兄の周りにいる親衛隊員らしい人達の顔と、誠真先輩の顔を見ていて思った。
……ここの顔面偏差値、異常に高くない? と。
だって皆、キラッキラ輝いてるじゃあないですか。
美少女かっつーぐらい可愛い子とか、中性的な美人さんしかいないじゃあないですか。
俺、絶対この学園じゃ地味顔だって確信が持てる。
自分で言ってて悲しくなるけどな。どちくしょうが!
「因みに私達は、生徒会役員の親衛隊の中では一番人数が少ない隊です。今ここに居る者で全員ですから。でもその分、精鋭揃いなんですよ」
「精鋭、揃い?」
「はい。私達は少し特殊な親衛隊なんです。詳しくは言えませんが、穏健派でも過激派でもありません。それと刻也君、私達は全員君の味方です。そのブラコンと思う存分いちゃついてください」
「ぇ? いちゃついて……って、ええ!? いやいやいや。な、何言ってるんですか? 誠真先輩」
「ふふっ、刻也君と話をしているとつい苛めてあげたくなります。時雨が悪ノリする気持ちも少し、わかる気がしますね」
柔らかな表情で笑う誠真先輩に対し、俺はヒクリと固い笑顔を顔に浮かべる。
面白そうに俺の頬へ細い人差し指を伸ばし、ぷにぷにと突っついてきたこの人は、間違いなくしぃ兄と同じタイプのドSだ。
しぃ兄相手ならいつものノリで突っついてくる指を払いのけられるが、今日会ったばっかりの先輩相手にそれはさすがに出来ない。
さて、どうしたものか。
「はーい、そこまでー。トキちゃんを苛めていいのはぁ、俺だけだよ?」
あと少しで寮に着くし、このまま頬を突っつかれててもいいかなぁと俺が思っていると、口調は変わっていないがさっきまで聞いていたものよりも微かに感情が消されたしぃ兄の声が、上から降ってくる。
この物言いは、しぃ兄が軽く怒ってる時にするものだ。
どうして、怒っているのだろうか。
不思議に思いしぃ兄の表情を見ようとすれば、まるで見るなと言うように手で頭を押さえられ、俺の顔は見た目よりも広く逞しい胸に押し付けられる。
「私にまでそんな目を向けるなんて、時雨は本当に刻也君が大切なんですね」
「当たり前でしょー。トキちゃんは俺の大切な弟なんだから」
「でも、心が狭い男は嫌われますよ?」
「俺の心はトキちゃん限定で宇宙並みに広いので大丈夫ですー」
「やれやれ、刻也君も兄がこれだと大変ですね。色々と」
「せー君だって人の事言えないくせにー」
しぃ兄の怒ってる感じの声は最初だけで、その後の会話は聞いていた限りだと普通に戻っている。
しかし俺の頭は今だ固定されたままなので、しぃ兄達の表情が見れずどんな様子で話しているのかがわからない。
二人の様子も気になるけど、それよりも今、俺は更なる問題に直面し、心の中で誘惑に負けそうになる自分自身と必死に戦っていた。
しぃ兄が足を進める度、ふわりと鼻腔をくすぐってくる柑橘系の香り。
しぃ兄からほのかに香るこの匂いが昔から本当に大好きで、思わず自分から顔をぐりぐりと押し付けもっとしぃ兄の匂いを堪能したくなる衝動に俺は今、襲われている。
小学生の時は誘惑に負け、それでも素直になれず不機嫌な顔をしながらそこそこな頻度でしぃ兄に額やら鼻やらを押し付けていたが、あくまでもそれは自分の気持ちに気付いていなかったから出来ていた事だ。
今の俺がしたら表情筋がゆるっゆるになって、笑顔とすら言えないだらしない表情を浮かべてしまうに違いない。
付け加えるなら、全身でしぃ兄大好きオーラを放出する可能性が大いに有りうる。つーかする。なんせ小学生の時はめっちゃ出してた。無意識で。
もし今の俺が後ろにいる可愛い系男子達みたいな顔ならまだ絵的に大丈夫なんだろうけど、生憎と俺は可愛くない。
そんな俺がデレっデレになって美形なしぃ兄の匂いを嗅ぐ絵面。
うん、俺がめっちゃ変態に映るだけじゃねぇか。……解せぬ。
しかも小学生の時の俺が思っていた大好きと、今の俺が思っている大好きは、言葉は同じでも中身が全くの別物だ。
気持ちを自覚してしまった俺にとって、今の姫抱き状態ですら恥ずかしいと言うのに、自分からしぃ兄に顔を押し付けるなんて事を特に理由もないのにしてみろ。想像しただけで全身の血液が羞恥で沸騰しそうだ。
そうわかっていても止められないこの衝動。拷問ですか、そうですか。
「……っ!」
ぐりぐりしたい。けどしたくない。あーだうーだと心の中で唸って誘惑と必死に格闘していると、頭を押さえていたしぃ兄の手が絶妙な力加減で俺の耳を弄り出す。
人差し指と中指の間に耳たぶを挟まれたり、親指の腹で耳の裏を撫でられたり。
しぃ兄からすれば会話中にするただの手遊びなんだろうけど、ちょっと待て。
しぃ兄、俺が耳弱い事知ってるじゃん。
なんで今、急に弄り出すかな? ん?
追加拷問ですか、そうですか。って、ふざけんなー! と、大声で文句を言いたい所だが、なんと言うことでしょう。今声を出せば上擦った声が出そうで、俺は一言も声を出せません。
「〜っ」
指を動かされる度全身に力が入って、したくないのにビクリと体が反応してしまう。
甘い痺れが耳から背筋へ流れていき、信じられない事に下半身へ少しずつ集まっていく感覚に、俺は本気で悲鳴をあげたくなった。
誠真先輩やチワワみたいに可愛い顔した人達がいる前で、何より、しぃ兄の前で息子が元気になった姿を見せるわけにはいかない。
きっとしぃ兄からしたら、これはちょっとした悪戯だろう。そんなちょっとした悪戯で息子を元気にさせてしまえば、俺は絶対にこの場にいる全員から引かれる。
もししぃ兄に引かれたら俺はこれから先、生きていける自信がない。
さっさとどうにかしなければっ!
「ぃ、っ」
少し血が出たのか、鉄臭い味が舌の上に広がるのもお構いなしに俺は唇を思いっきり噛み締め、その痛みで耳から流れてくる快感を誤魔化し両手で耳を塞ぐ。
つい勢いで両目も閉じてしまったが、これでもう弄れないだろうと俺が心の中でドヤ顔をすると、タイミング良くしぃ兄の手が耳から離れ再び俺の顔を胸に押し当て固定する。
やり過ぎたね、ごめんねと言うように頭をぽんぽんと撫でられ、俺は両耳を塞ぎ目を閉じた状態のまま、仕方ないから許してやるよと何とも上から目線な気持ちを伝える為。という理由を付け、一度スンと鼻を鳴らし、結局衝動に負け更に自らぐりぐりとしぃ兄の胸に顔を押し付けた。
やっぱりしぃ兄の匂いは安心する。
どうせ顔は隠れて見えないだろうから、今の内に思う存分表情筋を緩ませておこう。
そう思い俺は耳への警戒は解かないままふにゃりとだらしない笑みを浮かべ、しぃ兄の匂いを全力で堪能する。
ふへへと心の中ですこぶる上機嫌だった俺は、耳を塞いでいた為この時しぃ兄と誠真先輩が小声で交わしていた会話を全く聞き取ろうともせず、寮に着くまでひたすらしぃ兄の匂いと温もりに浸っていた。
「――時雨、目が野生の獣のようになってますよ?」
「わかってるよー。寮に着くまでには落ち着かせるから大丈夫ぅ。でも、トキちゃん可愛過ぎて今すぐにでも襲いたい」
「本音丸出しですね。まぁ、健全ではない私達ですが一応男子高校生ですし、性欲は有り余ってますしね」
「そうなんだよねー。でもまだ、据え膳あっても全部食べられないから、ほんと辛いったらない。早く終わらせたいけど、焦って向こう側にボロ出すのはダメだしぃ。あー、早くトキちゃんと合体したい」
「ぶふっ。が、合体って……。ふふっ、いかにも遊んでますな見た目の貴方も、初めては可愛い弟君としたいからと実はまだ童貞ですもんね。フラストレーション溜まりまくりですか?」
「あったりまえでしょー。普通なら最後まで我慢するんだろうけど、今日トキちゃんと再会してわかった。全部終わるまで待つとか、ムリ」
「でも、全て終わるまで据え膳は食べないと自分で決めたのでしょう?」
「うん。だから、全部はぁ、食べないよ?」
「全部は、ですか。あまり苛め過ぎてはいけませんよ? 刻也君が貴方から逃げてしまうかもしれませんし」
「逃がさないから、大丈夫でーす」
「そうですか。私も人の事は言えませんが、ほんと、狂気に近い溺愛っぷりですね。ちなみに貴方、今は犯罪者の目付きになってますよ」
「犯罪者かぁー。泣いてるトキちゃんを監禁して毎日犯して、俺の事しか考えられないように壊しちゃいたいなぁーとかしょっちゅう考えてるから、文句言えないや。笑ってるトキちゃんが好きだから現実にはしないけどねー」
「でも時雨ならいつか、そういうプレイはしそうですね」
「ふふっ、どうだろうねぇ」
「変態」
「今のは褒め言葉として受け取っていいのかなぁ? 同類の誠真君」
「お好きにどうぞ。同類の時雨君」
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