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11話 俺の思考回路はショート寸前
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「いやーっ!」だとか「加賀美様に触らないでぇぇっ!」と、時たま聞こえてくる悲鳴や非難の言葉を右から左へ流しつつ、俺はしぃ兄に姫抱きされた状態のまま、再開された寮の説明へ耳を傾けている真っ最中。
ここは五階からようやく生徒の寮部屋となっていて、七階までが今期一年生の寮部屋。八階から十階までが二年生で、十一階から十三階までが三年生の寮部屋となっている。
十四階から十六階は、前もって管理人さんに予約しておけば自由に使える会議室となっていて、主に生徒会役員や各委員会。あとは親衛隊の集会等に使われているらしい。
十七階は各委員会の副委員長の部屋。
十八階は委員長の部屋で、十九階は生徒会役員の部屋となっており、十七階からは専用のカードをエレベーターに設置されているカードリーダーに通さなければ上へは行けない仕組みになっている。
因みに、一般生徒の寮部屋は基本的に二人一組での相部屋だが、生徒会役員や各委員会の委員長、副委員長の部屋は一人部屋となっていてかなり広いらしい。
二十階は生徒会役員、各委員長や副委員長達専用の娯楽施設で、室内プール等があるとしぃ兄は教えてくれた。
「さすがと言えばいいのかなんと言うか、金持ち校、すげぇ……」
「あと、二十階の娯楽施設は補佐役の一般生徒も利用可能だよ」
「補佐役?」
「そ。俺達生徒会や各委員長、副委員長は、自分達の仕事をサポートしてくれる子を一般生徒から一人任意で付ける事が出来るんだよ。補佐役の生徒に個人部屋は与えられないけど、十七階から上へ行ける専用カードを所持する事が出来るんだ」
「それ、補佐役になった生徒は親衛隊に目ぇ付けられるんじゃねーの?」
「まぁ正直に言うと、全く目を付けられないってわけにはいかないかなぁ。過激派の親衛隊は結構無差別に一般生徒の子に目を付けちゃうから」
だから補佐役をする生徒は、穏健派やきっちりルールを守れている親衛隊が付いている役員や委員長達の所にしか付けられないのが今の現状で、制裁をされない様自分が補佐をしている所の親衛隊に守られているのだと、しぃ兄は少し困ったように笑いながら話してくれた。
「そもそも親衛隊って言うのは対象者に許可を得て作られてるんだけど、過激派の所は対象者が自分の所の親衛隊を放置してるパターンが多いんだよ。構ってもらえないどころか邪険に扱われる所もあってね。ストレスとか色々溜まってセーブが効かなくなっちゃって、過激派の親衛隊員はやりたい放題になってる感じかな。対象者もさ、親衛隊を作ってもいいって自分で許可出したんなら最後まで責任持って管理しろって話だよ、ほんと」
「確か、生徒会役員の親衛隊は大半が過激派だって誠真先輩が言ってた気が……」
「あー、うん。俺と竜二……あ、竜二って言うのは今の生徒会長なんだけど、俺達二人以外の生徒会役員四人の親衛隊はみーんな過激派だよ。四人共変に我が強くて、人の助言を全く聞いてくれないんだよね」
全く困ったもんだよ、あははははー。と、話の途中からしぃ兄は明るく笑っているが、その翡翠色の瞳には冷ややかな光しか宿っていない。
しぃ兄、目が全く笑っていないです。
これは相当、過激派持ちに手を焼いているんだなぁ。
「しぃ兄、お疲れ様。俺でよかったらいつでも話聞くから、あんまりストレス溜め込みすぎないでくれよ?」
もししぃ兄が倒れでもしたら、俺は平常心でいられなくなるから。
姫抱きされた今の状態じゃ全く様にならないが、俺は左手でしっかりと荷物を抱えつつ微笑み、右手でしぃ兄の頭を優しく撫でる。
さらりと指の間を流れていく金糸の髪は滑らかで、昔と変わらず手触りが最高に良過ぎてついついこのまま撫で続けていたいと思うが、そうもいかない。
なんせこのままじゃ、俺の心臓がオーバーワークして爆発しそうだ。
「ふふっ。トキちゃんの手、昔よりおっきくなったけどやっぱり気持ちいいや」
俺が少しでも撫でやすいようにと頭を下げてくれた状態で、幸せそうに目を細め微笑むしぃ兄の笑顔の破壊力の凄さと言ったら、もう……ヤバイ。
鼻血出してハァハァ言っちゃう変態と化してもいいですか? と、思わず本気で思ってしまうほどカッコ良くて綺麗で、体から色気が滲み出ている。
ちらほらと廊下に見える生徒のほぼ全員が鼻や胸を押さえ、または顔を両手で覆いながら床に悶え崩れていくのを見て、俺も今すぐ床へ崩れ伏して廊下の端から端までを思いっきりローリングしたいと心の底から思う。
俺の手に自分から頭を擦り付けてくるしぃ兄を力強く抱きしめて、今すぐ好きだと叫んでしまいたい。
まぁ、そんな事出来る勇気が俺には無いから無理なんだけどさ。
くそっ、俺のヘタレ野郎め。
「もう終わり?」
「終わり」
「えぇー。トキちゃん、俺の頭もっと撫でてもいいんだよ?」
「腕疲れるから嫌」
「ぶーっ」
「別に今じゃなくったって、今日からいつでも出来るだろ? だからそんなむくれなくても……」
「っ、ほんとだ。うん、そうだね。……じゃあ今度は俺から、嬉しい事をさらっと言ってくれたトキちゃんへお返しです!」
「………………は?」
頬を膨らませ拗ねたふりをしたかと思うと一瞬驚いた様に目を見開いた後柔和な笑みを見せ、次はその笑みを無駄にキラキラと輝かせて。と、しぃ兄はコロコロ表情を変えていく。
何がじゃあなんだ。あと、その輝かしい笑顔に黒いものが混じってるのは何故だ。
俺は若干本気で逃げ出そうと身じろぐが、しぃ兄の腕力が強過ぎて簡単に抑え込まれてしまう。
「ーー逃がさないよ?」
気持ち五割増しになったしぃ兄の黒い笑顔の、なんと恐ろしい事か。
嫌な予感がチクチクと肌を刺激し、俺の額には薄らと冷や汗が滲み口角がひくりと引き吊り上がる。
「な、っ」
上からゆっくりと近付いてくる端整な顔。
ハーフアップをする際わざと少し残されたんだろう、前髪より少し長いしぃ兄の両サイドの髪が、俺の額と左頬に緩く掛かる。
甘く細められた翡翠色の瞳と視線が合えば、まるで魔法にでもかかったかの様に体は動かず、気付けば頬、と言うよりも限りなく唇に近い位置からふにゃりと柔らかい感触が伝わった。
「っ!?」
驚愕、動揺、羞恥と、一気に感情が綯い交ぜになった俺の目はまん丸に見開き、本日最高温度をたたき出しただろう熱が急速に顔へ集まっていく。
首が熱いと言うことは、顔に留まらずその下までもが朱に染まっていると言う事で。その自覚をすれば更に恥ずかしさが増して赤みも濃くなり、また恥ずかしさが増して……の悪循環。
しぃ兄の微笑み爆弾に被爆した生徒達が復活したのか、それとも別の生徒達が増えたのか。俺が姫抱きされた時よりも明らかに激しい悲鳴が廊下を覆い鼓膜を痛いぐらい刺激してくるが、そんな事が気にならないぐらい今の俺の思考回路はショート寸前だ。
視界に映るのは泣きたくなるようなムーンライトではなく翡翠色の瞳に映り込んだ、驚いた表情から泣きたくなるくらい情けない表情へ顔を変えた自分と、月のように綺麗に輝く金の髪なわけで。
通常なら満足そうに笑うしぃ兄へ文句の一言でも言ってやるのに、今は絶賛パニック状態な為俺は金魚の様に口をパクパクと開閉させる事しか出来ない。
「ほっぺにするつもりがちょっとズレちゃった……って、トキちゃん? 顔真っ赤だけど、もしかして照れちゃった?」
前もよくしてたはずなんだけどなぁ。とニヤニヤ意地の悪い笑顔でわざとらしく聞いてくるしぃ兄。
サドっ気の増した顔もカッコイイなぁ……って、そうじゃない!
確かに俺が小学生の時しぃ兄は何かに付けて俺の頬へ軽いキスをよくしてきたが、今同じノリでそれをされるとヤバイんだよ! 主に俺の心臓が!
「っ、まさか、デカくなった今も同じ事されるとは思ってなかった。しぃ兄、体は成長したけど、中身は成長してないんじゃねーの?」
「まさかの辛辣なツン返しっ! でも顔赤いまんまだから可愛いよ! トキちゃん!」
「〜っ、うっせー! 早く部屋まで運びやがれ!」
「ふふっ。はいはーい」
「その余裕な態度がすげぇムカつく……」
なんとか憎まれ口を叩く事に成功したものの、今だ顔の熱は下がることなく熱いまま。
今は何をしても、余計こっちが恥ずかしくなりそうな程優しい眼差しで微笑まれそうなので、俺はしぃ兄の額へキツめのデコピンを一発お見舞いしてから、ボストンバッグでは少々重いので預かっている白い紙袋で顔を隠す。
「イタッ! ちょ、トキちゃん! 照れ隠しなのはわかるけど、今のデコピン本気入ってたでしょ!?」
「…………」
「え? 無視? 無視なの? お兄ちゃんを無視するの?」
「ざまぁ」
「酷いっ!」
口調は軽くテンションも高いが、紙袋越しからでもわかる暖かな視線に凄く居た堪れず、俺は紙袋を顔に押し付け「ちくしょう」と小さく呟く。
…………あの時俺が驚いて顔を動かしていたら、しぃ兄とキスが出来たのかな。なんて、ふとそんな事を考えてしまった俺は、治まってきた赤みを再び自分で復活させてしまい一人心の中で慌てふためきうーうー唸る。
そんな感じで勝手に一人身悶えている俺を、獰猛な獣を思わせる様な瞳でしぃ兄が見ていた事など、俺は知るよしもない。
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