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観劇の掟は護りましょう
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西園寺に貰った券を持って週末、俺と四郎ちゃんは劇場へ向かった。
街でも有名な高級劇場で、なんでも、ドレスコードがあるらしい。
西園寺のやつ、そんな良いところの券をほいほいくれるなんて案外良いやつじゃないか。
そんな事を思いながら俺は隣にいる四郎ちゃんの腕にするりと自分の腕を絡ませる。
俺たちが歩くと、道端に居る人達は振り返る。
「おい」
「なあに四郎ちゃん」
俺と腕を絡ませた四郎ちゃんがぶっきらぼうに言う。
「なんでお前は今日も女の格好なんだ」
四郎ちゃんはパッと腕を振りほどいて、眉根を寄せながら俺の格好を指差す。
「ふざけるな!今日は仕事じゃないんだぞ!正装の場に女装でくるやつがあるか!」
「良いじゃん、別に。こう言うところ来るのは男女の方が雰囲気出るでしょ!」
喜んでくれない四郎ちゃんに俺は頬を膨らませながら言い返す。今日の俺の格好は、女物の着物に髪を結い上げ、控えめに化粧を施している。この着物、結構涼しい感じでお気に入りだったから着たかったんだよね。
それに対し四郎ちゃんは黒い袴を履いて羽織を肩にかけた、淡白な服装。
「別に女物の着物を着る必要はないだろう!」
チラチラと周りを気にしながら益々仏頂面になってしまった四郎ちゃんがなんだか可愛くて俺はからかいたくなった。
「あーそっか、四郎ちゃん、俺が女の格好してると誰かに取られちゃうとか思うの?やきもち?」
「ち、ちが...!そんなんじゃない!」
俺の言葉にあからさまに動揺して目が泳ぐ。嘘がつけない性格は愛おしいけれど素直すぎて心配になる。
「大丈夫だよ、俺は四郎ちゃんしか好きにならないから」
可愛くて意地悪してやりたくなるけれど、それはそれで可哀想なので四郎ちゃんを安心させてやる為に俺は振りほどかれた腕を取り直す。
まんざらでも無さそうな四郎ちゃんは大人しくなったが、仏頂面のままだった。
窓がいくつもついた西洋会館風の建物の入り口にはタキシードを着た案内人が待っており、入場者の券を切る。
俺たちも天鵞絨の絨毯の上を歩いて入場列に並ぶ。券を渡すと丁寧なお辞儀をされて半券を返された。あまり恭しくされるとむず痒くなってしまう。
ふと四郎ちゃんを見ると俺より落ち着いていて、旦那様らしく俺の手を引いてロビーの端にエスコートしてくれた。
四郎ちゃんが懐中時計を確認する。開場までは時間がまだあるらしく、ロビーで待って居る様アナウンスが流れた。
大理石の床の上に赤い絨毯が敷かれていて、天井にはシャンデリア。聞きなれない音楽ーー後から聞いたら、ジャズ、と言うらしいーーが静かに流れて居る。
西洋の文化にはあまり慣れていない俺は、柄にもなく緊張して四郎ちゃんにしがみつきっぱなしだった。
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