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他人は案外秘密を握っている
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「なんでそれを?」
「突然で大変失礼致しました。驚かれた事でしょう...私、昔酒呑童子様のお屋敷で小間使いをしておりました、水の妖なので御座います。」
「え?」
「は?」
横で聞いていた四郎ちゃんも素っ頓狂な声を上げた。目の前にいるこの女性は明らかに完璧な人型をしている。むしろ妖怪の匂いなんか微塵も感じない。
「でも貴女から妖の匂いがしませんけど....」
「嗚呼,そうなんです。あまりにも人間界に長居し過ぎて、妖本来の姿を忘れてしまったのです...」
「へ?」
そんな事があるのか。人間で過ごしすぎると元に戻れなくなるなんてことがあるのか....
俺は半妖だからそういう事はしらなかった。妙に感心していると彼女は目に涙を溜めた。
「貴方様は大層酒呑童子様に似てらっしゃるので、思わず酒呑童子様かと思って慌ててお声がけしてしまったのです....ご無礼をお許し下さい...」
俺が父さんに似ているなんてこと、初めて聞いた。いや、父さんの話なんか誰からも聞かなかったから、妙に新鮮に感じる。へぇ、俺に似てるってことは女顔だったんだ。
また沈黙になる。この奇妙な楽屋の中だけ音が無くなった。
そんな静寂を破るかのように、ガチャリと扉が開いた。
「水希さん、さっきの演技も素晴らしかったですよ....ってお客様?失礼しました」
失礼しました、とか言う割にこの人物、立ち去ろうとしない。......そちらを見れば、そこにいたのは浦島太郎をやっていた男だった。
そしてこの水の妖は水希という名前らしい。
「あら、ごめんなさい...」
涙を拭いて水希さんが浦島太郎を見る。浦島太郎は鼻の頭を軽く掻いた後、俺をじっと見つめた。その目が大きく見開かれていく。それと同時に彼の顔が耳まで赤くなった。
「あ、お嬢さん、失礼致しました。女性のお顔を見つめるなんて、無礼な事をしてしまって...」
あ、そうか俺いま女装してるんだった。浦島太郎は完全に俺を女だと思って見惚れているってわけか。
男前にモテるんだったらなんとなく悪い気はしないので少しだけ会釈する。
「どうも浦島太郎役の方ですよね?素晴らしい演技でした」
ろくに見てなかった癖にやきもち妬いた四郎ちゃんが浦島太郎の方を見て嫌味ったらしく言い放ち、俺の肩を抱き寄せる。
大人気ないというか、やきもち妬きなんだよね。
でもそんな嫌味が通じないほど真っ直ぐなのか、浦島太郎はにこやかに四郎ちゃんの嫌味を躱す。
「ありがとう御座います!お兄様ですか?お美しいお嬢様でしたので、思わず見惚れてしまいました。」
四郎ちゃんにはない爽やかさで返す。四郎ちゃんは鼻に皺を寄せて喋らなくなってしまった。好青年度では向こうが圧勝だからね。
「申し遅れました、僕、浦島太郎役の大河太郎です」
四郎ちゃんにとどめを刺す様な、爽やかな太陽の様な笑顔で浦島太郎....大河太郎は言った。
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