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頑張っている人を見ると、涙が出る。
それは、自分の事を頑張ってなくてダメな人間だと思っているから。
なんて。
まるで思春期の高校生のような感傷に浸る初夏の夕暮れ。
こんな事を考えてしまうのはついこの間、誕生日を迎えたからなのかも知れない。
もう、めでたくも無い43回目の誕生日。
日常に埋もれたその日を祝ってくれたのは、何年も一緒に暮らしている恋人一人だった。
まあ、この年で祝われても気恥ずかしいだけだから一人で充分なんだけど。
仕事帰りの駅前で今夜の夕飯を買って、そのたった一人が待つ家へと急ぐ。
オフィス街から住宅街へ。
すれ違う人達は様々で。
部活帰りらしい高校生の集団。
楽しそうにはしゃぐ大学生くらいの女の子達。
まだスーツ姿が板についていない新卒の青年。
家族を守るために働いている左手に指輪を付けた同じ年くらいのサラリーマン。
そんなたくさんの……人生って言ったら大袈裟だけど。
人生を。
横目で見ながら、何でも無い顔をして雑踏に紛れる。
「ただいまー。」
「……どうしよう。」
「どうしたんだよ。」
家に帰ると、リビングをぐるぐると歩き回っている男が一人。
俺より少し年下のその男が、スマホを片手に情けない顔で俺のことを見つめる。
「産まれた。」
「ん?ああ……おめでとう。」
「えっと、どうしよう。」
いつも飄々としているのに、めずらしく動揺している姿。
それもそのはずで。
早くに親を亡くして、兄妹2人で親戚に育てられたコイツの妹が新しい命を授かって。
そしてたった今、その命が誕生したっていう連絡を受けたらしい。
「病院に見舞い行く?」
「土曜……空いてる?」
「俺なら空いてるけど。」
「じゃあ、付いて来て。」
「いいよ。」
「……。」
「えーっと……腹減ってる?」
「……さあ。」
動揺し過ぎて空腹すら感じられなくなってる様子に笑うと、いつもなら抗議の言葉が飛んでくるのに今日はそれすら無くて。
まるで、自分の子供が生まれたのかって言いたくなるくらい慌ててるその姿が可笑しかった。
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