アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2
-
土曜日の朝、面会時間に合わせて2人で病院へ向かう。
受付で聞いた部屋に向かうと、そこは母子同室の個室で。
小さなベビーベッドには、その場所すら持て余す小さな赤ちゃんがすやすやと眠っていた。
「……。」
「おめでとう。疲れてるのに2人で来てごめんね。」
赤ちゃんを見て言葉を失っている恋人に代わってした挨拶。
俺の言葉に笑顔で応えるノーメークの顔は、いつもと変わり無く見えて。
でも、なんだか満たされているようで。
この子が、つい数時間前に出産したんだって思うと不思議な感じがした。
「……。」
相変わらず無言のまま突っ立てる恋人に声を掛けようとすると、まるで猫が鳴くような小さな泣き声がして思わずベビーベッドを覗きこむ。
まだよく目も見えていないだろう小さな命。
母親を求めるように精一杯の声で自分の存在を訴える姿は、とても儚くてそれでいて逞しくて。
なんていうか、涙腺に響く。
「お腹が空いたのかな?教えてくれてありがとう。」
さっきまでベッドに座っていた恋人の妹が、母親の顔でそう言って。
大切に、大切に、泣いている子供を抱き上げる。
ああ、俺もこいつも。
こんな風にしてもらったのかな。
そう思いながら、まだ突っ立てるその顔を見るとその目には涙が滲んでいて。
もう本当に、男って情けないよなって思う。
情けなくて、カッコ悪くて、頑張れていなくて。
過ぎ去っていく毎日は、満足だと言うには程遠くて。
だけど。
俺が積み重ねた43年間の毎日が、こんな温もりから始まったんだって……そう思うと。
何故かその全てを肯定されたような気がして。
男泣きしてる情けない奴の手をそっと取る。
そんな俺達に構わずにまだ病室に響き続ける泣き声。
それはまるで優しい歌のようだった。
<end>
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 2