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そんな気まずさも一時の杞憂だったのかと思うほど皐月はいつもの皐月に戻っていた。
と、言いたかった。
あれから、どうも皐月の様子がおかしい。なにがおかしいって例えば、俺が共有スペースであるリビングで横になってバイブルを音読し発狂しても皐月からお叱りの声が無いのだ。ぼーっとソファーに座って考え事に耽っているような、そんな感じ。たまにため息なんてつかれてみろ。哀愁感半端ないぞ。
それ以外にも、話していても以前は睨んでるの?ってレベルだった視線を合わせてくれないし、会話も主に皐月は相槌のみ。それにどことなく俺の様子伺うみたいにビクビクしてるし。もう、全くどうしちゃったの。
そんな感じで皐月に違和感を覚えながらもあの日から数週間経った。
一向に現状は解決に動かない。俺はなんとなく日々に物足りなさを感じていた。
「ただいま?」
カードキーをスライドさせて部屋の扉を開ける。そうするとリビングの方からバタバタと音がして、皐月の声が聞こえた。
「お、おかえり!早かったな!」
「うん?、今日はお気に入りのサイトさんが更新してたから急いで帰ってきた!」
「へ、へえ…」
リビングに入ると、そわそわと落ち着きを見せない制服のままの皐月の姿があった。顔は俯いていて、イマイチ表情が読めない。
「あ、俺ちょっと顔洗ってくるわ…」
「顔?分かったー…って、さっちゃんちょっとまって!」
隣を通り抜けようとする皐月の腕を掴んで止める。それから少し強引ではあるがそのまま腕を引っ張り、そしてもう反対の手も掴んで皐月をこちらに向けた。
「皐月、泣いたの?目が腫れてる」
通り抜ける瞬間、垣間見えた皐月の目は確かに赤く腫れていた。
「っな!泣いてねえよ!」
「嘘だ、顔あげてよ」
皐月は強いけど、俺だって身長186センチもある男だ。少しくらいだったら皐月のことも押さえられる。片腕を離して空いた手で皐月の顔を上げると、やっぱり皐月の目は腫れていて、薄く張った水の膜が存在し、しっとりと睫毛を濡らしていた。
「やっぱり…どうしたの?なんかあった?どっか痛いとか?」
「なんでもねえよ…」
「でも、俺やっぱ心配だよ。皐月が泣くなんて相当のことでしょ」
「うっせえな、なんだっていいだろ!颯には関係ねえんだよ干渉すんなうぜえ!!」
「皐月…」
皐月はハッとして思わず出てしまったであろう言葉に本人でさえ戸惑っているようだった。けれど俺は言われたことがショックでフォローすることができなかった。お前には関係ないって、結構ダメージある。
皐月は俺の手から逃げると、そのまま洗面所ではなく、部屋を出て行ってしまった。
なにがいけなかったのだろうか。確かに泣いていた事に気づいたとしてもそっとしておくのが良かったのかもしれない。けれど、滅多に泣かない皐月が泣いている事に俺自身もびっくりしてさらにここ数日の皐月の様子の変化が引っかかっていたから焦って追求してしまった。皐月にだって言いたくない事ぐらいある。分かってる。分かってるけど。自惚れかもしれないけれど、皐月とはそういう事も話せるような間柄だって思っていた。この学園内で一番仲がいいのは皐月で、俺の秘密を共有してるからか、結構深いところまで仲良くなれたと思っていた。
けれど皐月はそうじゃない。お前には関係ない、干渉するなというのは明らかに距離がある発言だ。
こんな風にギクシャクするのは初めてで、どうしたらいいか分からない。大好きなBLも頭から抜けるくらいに戸惑っている。小説の世界だったら、二人で話し合ったりして雨降って地固まる、と言ったように纏まるのだけれど、現実問題そんな風には行かない。まず皐月がどこに行ったのか、帰ってくるか、俺と会話してくれるか、問題はそこからなのだ。
会ったとしても、謝らなければというのは分かるが、それからどうしたらいいか分からない。
悶々としながら着替えてソファーに座り、更新されたサイトの小説を読んだが、やはり内容が入ってこなかった。
しばらくすると、皐月からメールが入っていた。
さっきは悪かった、ごめん
それと暫くは帰らないから、メシもいらない
要件だけ綴られたメールを見てこの詰んだ状況に泣きそうになった。自分自身どうしてここまで落ち込んでいるのか分からない。多分俺は、皐月と過ごす時間が大好きだったんだと思う。おもしろくて楽しくて、いわゆるありふれたあたりまえの幸せというやつ。ああもう辛い逃げたい。
俺もさっきはごめんね、分かった、体調には気をつけてね、としか返信できなかった俺が情けなくて死にたくなった。
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