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それからしばらく、皐月は出てったままだ。期間にすると2週間くらい。もうほんと、なんなの。俺マジでバカだろ。
ここ最近は淋しい寮生活をしていた。皐月とはクラスが離れていて、寮以外で接点がないからあれからずっと話していない。
部屋はすごく静か。皐月の声がしない。笑い声も怒り声も全部聞こえない。俺の心には虚無感しかなかった。一人で食べるご飯はあまりおいしいと思えなくて、最近は食欲が湧かなくなってしまった。皐月がいたら、あれがおいしいこれが食べたい、なんて会話も弾んで食べていた筈だ。
テレビ番組を見ていてもそうだった。バラエティー番組を見て笑っても一人で、思わず誰もいない隣を見つめてしまったり。しかも意外と動物モノが大好きな皐月のために無意識に録画をしていたり。リアルタイムで見ていても、動物モノにはめっぽう弱いから、感動系なんかだったら必死に涙を堪えながら見てるんだろうな、なんて考えて、また誰もいない隣の席を見つめてしまった。
その度に痛感する。皐月はいないんだって。
気持ちを紛らわすために大好きなBL小説を読んでいても、萌え滾る事はあってもどこか虚しかった。盛り上がり切れなかった。
考えすぎてうまく寝れない日も続いて、しょうがないからBL小説を読んで夜更かしして、ろくにご飯食べてないわ睡眠不足やらで体調はズタボロだ。よくないって、わかってるんだけど。小説でもこんな展開あっていつか倒れるっていうのも分かってるけど、どうしてもうまく立ち回れない。
皐月に体調には気をつけてと言ったくせに。本当に俺はクズだ。あれからメールもしてないし。なにかアクションを起こさないと現状は変わらないって分かってるけど起こせない。クズでヘタレ野郎だ。
「はあ…」
ガラス越しに外を見つめながらため息を吐いた。視線の先には、これから体育の授業のようで、チャラっぽそうな友人と皐月が笑いあってる姿が見えた。
俺はしばらく、笑いかけてもらえてないのに。
「なにー?中條ったらまたため息ついて幸せ逃げるよ?」
「今の俺はナイーブなのデリケートなの傷心中なのそっとしてあげて」
「男がナイーブだとかデリケートだとか吐き気するんだけど、おえっ」
「お前マジ酷いな!」
口に手を当てて吐きそうな様子をジェスチャーしているこいつは同じクラスの田中(たなか)。席順で前後だったから仲良くなった。そんなやつだ。チビで平凡顔のくせに割とズケズケの物を言う毒舌野郎。皐月もズケズケ言うけどこいつはぜんぜんかわいさがない。皐月はかわいいんだよ!
「冗談はさて置いてお前最近マジでどうしたん?ポカンとしてるわメシ食わねえわダイエット中の思春期乙女かよ」
「うっさいうっさい、俺は迷走中なのほっといて」
「なんなん?恋でもした?浮いた噂の無かった中條君もついに?」
ピコピコと発売したばかりのゲームをやりながら椅子を後方の足だけでバランスを取るぐらぐらとした危険な座り方をする田中。そのままひっくり返ってしまえばいいと思う。本気で。
「違うわ」
「えー?でも本当最近の中條マジでラブホリック、恋の病にかかったみたいにクソキモいよ?」
「お前の目がおかしいんだよ?」
「は?、言ってくれるね!とりあえず俺に言ってみ?この愛の伝道師タナーカの手にかかれば悩みも全部解消!」
意外にも田中はわざわざゲームを中断して話を聞こうとしていて、八方塞がりなこの状況を打開するには第三者の話を聞くのも手かなと、俺は今まであったことを田中に話した。
「ーー…って訳なんだよ」
「ふ?ん」
俺がホモ好きってのはもちろん伏せて、皐月との関係、皐月の態度が変わってしまったあの日のこと、それから喧嘩したこと、また今の俺の心境を話した。
田中は意外にも口を挟まずに相槌だけして聞いていて、話を終えたところでやっと口を開いた。
「お前さ?まじでそれ恋煩いじゃね?」
「エッ」
「たかだか同室者にそこまでならねえだろ?泊まりにだって普通にみんな行くだろ。心配とかしなくね?しねえよ」
「いやいやいやそんな馬鹿な…」
「てかさ、俺が体育とかでケガしてもお前そこまで心配してこねえじゃん」
「それは田中だから…」
「だからその分その同室者が特別なんじゃねえの?親友とか大事な友達って言ってもその気のかけようは好きな相手にするようなやつだわ。俺の経験上メシ食えないレベルはラブだわ」
「……まじか」
好き、すき、ラブ。
盲点だった。
あんなにBLを読み漁っていて、数ある恋愛パターン(男同士)を理解しているつもりの俺でも、当事者となるとその知恵も意味を無くしたみたいだ。好き。ラブ。口に出して呟いてみたら、田中が顔を歪めて気持ち悪いと言ってきたので叩いた。
「あーーーー俺恋してるのかぁああ」
口に出したら妙に恥ずかしくなって、思わず両手で顔を隠した。
田中は再びキモイと言ってゲームを再起動させていた。
好きという二文字が頭の中をぐるぐると回る。それと同時に皐月のいろいろな表情もぐるぐると脳内によぎった。腐男子的目線で皐月を見ていたけれど、皐月への思いいれはそれだけじゃなかったんだと今更ながらに気づいた。そう思うと、先ほどの俺にはここ最近笑いかけてもらえてないという考えは、相手に対する嫉妬だったのかもしれない。くそう。むかついてきた。皐月と一緒にご飯食べたい、一緒にテレビみたい、ソファーでまったりしながら俺の話を聞いて、蹴りを入れられて、そんな時間を共有したいと、心の底から思った。
しかも今は好きと言う気持ちに気づいてしまったから、むくむくと不埒な妄想も湧き上がる。だって男の子だもん。乳首みちゃった…。
「………愛の伝道師タナーカ先生」
「はいなんでしょう」
火照った顔をそのままに田中を見る。
「俺はこれからどうしたらいいんでしょうか」
「そりゃああれだわ、好きで好きで食事も喉を通りません。とりあえずどうか部屋に戻ってきてください、って言うしかない」
「ムリ!ムリ!俺今嫌われてるもん!絶対ムリ!」
「巨体の男がもんとか言ってんじゃねえキメェな」
「あああ…希望が見えない…俺の恋は実らない……」
考えろ、こんな時小説ではどうなっていたかを…!考えるんだ颯太!!!
だめだぁああああ、俺めっちゃデリカシーないヘタレクズ野郎で嫌われてるもう詰んでる!終わった!!シニタイ!!!!!!
「ありがちなのはここで俺がぶっ倒れるあのルート…」
その発言をしたせいか否か、俺は翌日体育の授業で貧血を起こしぶっ倒れるのであった。
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