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桜色に染まる頬にキス
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続編
***
皐月ははぁ、とため息を吐いた。
颯太が二日前から部屋から出てこない。正確には、布団の中から出てこない。
「颯、颯…いい加減布団から出ろよ」
「………うん…」
皐月は鍵のかかっていない颯太の部屋に進入し、ベッドの傍に立って声をかける。颯太は「うん」と言いながらも動くことはなかった。
ピクリと皐月の眉間に皺が寄った。
事の発端は、二日前の木曜の夜。颯太が欠かさず見ているロボットものの深夜アニメをリビングで見ている時だった。皐月はその時風呂に入りのんびりとしていた。その後風呂から出てタオルで身体と髪を拭いている時の事。
「ギャアァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「うぉっ!?」
突然リビングの方から颯太の叫び声がし、何事かと皐月は慌ててタオルを腰に巻いてバタバタとリビングに向かうと、テレビを見つめ続ける颯太の背中が目に入った。
「どうした!?」
「……………嘘だろ…」
変な虫が出たのかと周りを見ても颯太の様子を見てもそんな気配はしないし、全く現状が理解できなくて皐月は颯太に真相を問おうと前に回りこむ。その表情は呆然としていて、皐月にさえ気づいていない様子だった。
颯太の見つめる先はもちろんテレビの画面で、同じように画面を見ると、確か主人公だった男の子が、頭から血を流した女の子を抱きしめながら泣いていた。彼女の名前を叫んでいると、傍らに落ちていた丸い人形みたいなロボットが反応を示し、目が光ったかと思うと夜空にホログラムを映し出す。
***
この丸いロボット目線の録画記憶のようだった。よくわからないボロボロの傷だらけの機体が力尽きたかのように森の中に倒れている。操縦桿は剥き出しになっていて、ロボットが跳ねるように機体に近づく。操縦桿の中には先ほどの彼女が荒く息を吐きながら虚ろな目で星の輝く夜空を見つめていた。
「ねぇ、グッピー…」
彼女の声にロボットは「グピー」と無機質な音を出した。返事をしているみたいだった。
「すごく、星が綺麗だよ…」
ロボットは彼女の言葉を理解しているかのように、星空に目を移した。確かに満天の星空はとても綺麗で、流れ星が光の尾を引いて空を流れていた。
視線が彼女に戻ると、彼女の瞳にはキラリと輝く光があった。それは頬を伝うように、まるで流れ星のように、涙が零れ落ちた。
「わたしは、ちゃんと役にたったかなぁっ……」
ロボットがまた、「グピー」と鳴くと彼女はほっとしたかのように優しく微笑み、「ありがとう」と弱々しく言うと目を閉じ、そこでホログラムは終わっていた。
主人公の男の子はそのホログラムを見てさらに涙を流し、ロボットさえもぎゅっと抱きしめありがとう、そしてごめんと言い続け、画面は黒い画面へとフェードアウトしエンディングテーマがスタッフロールと共に流れ出した。
***
そこまで黙って見ていた皐月は、アニメが終わると再び颯太に目を移した。
「嘘だろ…嘘だと言ってくれ……エリカが死ぬなんてっ…!」
エリカ、皐月にはその名に聴き覚えがあった。颯太が好きだと前から言っていたキャラクターだ。あの子がそうだったのかと思いながら、そうか好きなキャラが死んだのかと他人事のように思った。
「おい、颯、しっかりしろ」
肩を掴んで揺さぶっても心ここに在らずといったようにされるがままだった。
かと思えば急に立ち上がり、「もう寝るね…」とふらふら歩きながら部屋へと入って行った。
皐月は心配そうにその背を見つめていたが、アニメキャラが死んだとか変に慰めるよりそっとしておいた方がいいかとテレビとリビングの電気を消し、一度は颯太の部屋へと歩みを進めたものの、ひとりにした方がいいかとしばらく使っていなかった自分の部屋のベッドへと向かった。
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