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二人でキッチンに立って、力任せに玉ねぎを切る不器用な大谷君は何を思って今隣にいるのだろう。何時もとは何かが違う。
「何か、あったの?」
「何が?」
こちらに顔を向けた大谷君の表情はとても不安定で、じっと見る僕の目を避けるように視線を彷徨わせた。
「何でもない」
僕はフライパンに入った具材を炒めながら笑って誤魔化した。
「それじゃあ、お休み」
「…ああ」
一緒に食事をして、テレビを見て、少ないけれど会話もあった。寝る部屋はやっぱり別々だったけれど。冷え切った関係だと思っていたのだから、こうして歩み寄ってくれた事を喜ぶべきだ。けれど、どうしてもそう思えなかった。僕はまだ好きなのか、嫌いなのか、隆哉に言われた言葉が過ぎる。自分の気持ちも恋人の気持ちも何もかも分からない事だらけだ。そうして色々な事を考えていると、突然ドアを開ける音がした。僕の部屋ではない、大谷君の部屋だ。僕は布団の中で身動き一つせず、聞こえる音に意識を集中させる。
「いや、だからさ…」
一人で話しているわけではなく、電話をしているようだ。
「ああ、今日はあいつが用があるって言うから仕方なく早く帰ったんだ。…は?いや、もう愛情なんてないに決まっているだろう」
並べられる単語の意味はよく分からない、けれどこれ以上聞いてはいけないと頭の中で警報が鳴り響く。
「とっくに恋人なんて関係じゃないよ。まあ、少なからず浮気している事に対して罪悪感はあるから、今日は久しぶりに一緒に飯食ったり、話したりもしたけれど。でももう終わっているも同然だ。愛情も無い、性欲も湧かない。でも変に情はあるからさ、別れたいって言いにくいんだよな」
そうか、僕と同じだったのだ。
「好きか嫌いか?そうだな、正直顔も見たくないと思う事もあるし、嫌いなんじゃないのか?」
軽い口調で言ったその言葉はきっと彼の本当の気持ちで、それを聞いた僕の心は少し軽くなったような気がした。
「隆哉、僕、別れる事にしたよ」
電話口でそう話すと、隆哉は一言、そうかと言った。
「今から話をするんだ。うん、近くのファミレスにいる」
あの日から僕達の関係はまた元通りになった。相変わらず帰宅時間は遅く、お帰り、お休みそれだけの会話をする日々、突然の変化に戸惑いはしたけれど、それは変化でもなんでもなかった。
「…笑顔で」
俯き、笑顔の練習をする僕に影が重なる。
「…何をしているんだ?」
待ち合わせ時間通りにやって来た大谷君に思いっきり不審がられてしまった。
「いや、何でもない」
「ああそう。それで?話って何?俺これから用があるんだ」
携帯電話を気にしながら、不機嫌そうに目の前に座りこちらを見る。
「直ぐに終わるよ」
そして口を開こうとした時、大谷さんと呼ぶ声が聞こえた。その声のする方へ目をやると、可愛らしい女性が小走りでこちらに向かって来る。
「…お、お前どうしてここに!?」
「遅れるって言っていたから近くまで買い物に行っていたんです。そうしたら偶然外から大谷さんの姿が見えて、嬉しくて」
声を弾ませ彼の傍に立つ彼女は僕の存在なんて見えていないようだ。
「あ、すみません!大谷さんのご友人の方ですか?」
「…はい」
「帰れ!」
大谷君は勢いよく立ち上がると声を押さえながらも強く帰れと言い、彼女の腕を掴むと無理矢理引き摺り出そうとする。
「どうしたの!?止めて、お腹に赤ちゃんがいるんだから!」
彼女の悲鳴に近い声は騒がしかった店内を一気に静まらせた。
「…嘘、だろう?」
そう言って掴んでいた腕を放し言葉を失う大谷君と、愛おしそうにお腹を撫でる彼女。嘘だと思いたいのは、僕の方だった。
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