アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
ゆるやかな変化は
-
「こんなもんでどうだ?まあマシにはなったろ。」
渡された鏡を見て那波は目を瞬かせた。朝自分で断髪した際には伸び掛けのショートカットのようでみすぼらしかった髪が、流星の手によって爽やかに整えられていた。
「これ・・・俺ですか・・・?」
「随分男前になったろ。」
「はい。昨日まで女装してた男とは思えないくらいには。」
「・・・それ、自分で言うか?」
流星は声を立てて笑った。合同会議で会う流星はいつも何がそんなに面白くないのかと不思議な程仏頂面をしていた。そんな顔もするのかと、那波は流星の初めて見る表情にドキリとした。
「あの・・・ありがとうございます。俺はこんなことしてもらえる立場の人間じゃないのに・・・。」
おずおずと那波がお礼を述べると流星の瞳がすっと細められる。その鋭い視線にから逃れるように、那波は俯き手元の鏡をじっと見つめた。
「そりゃあ咲耶をあんな目に合わせたことを許すつもりはない。」
「そうですよね・・・。」
那波は胸が締め付けられるのを感じた。これから先自分は罪を犯した人間として、この学園の生徒たちに卒業するまで白い目で見られ続けるのだろう。
「だけどお前はもう十分反省してるだろ。だから俺はもうあの件でお前を責めたりはしない。」
押し黙る那波に流星の大きな手が軽く置かれた。その優しい手の温もりに眼頭から熱いものが溢れた。全て自分が犯したことで、後ろ指を指されるのも、罪人と罵られるのも仕方ないことだと理解していた。だが、少しでも迅に可愛くみられたくて続けていた女装をやめ、迅に「綺麗だ。」と褒められて伸ばした髪も切ったのも、心のどこかではこうして誰かに許して欲しかったのかもしれない。溢れ出る涙が鏡越しに那波の顔を濡らした。
「ありがとう・・・ございます・・。」
「俺に礼なんていい。それよりも咲耶にちゃんと謝りに行ってやれ。あいつにもお前の気持ちは伝わるはずだ。」
「はい。」
手で涙を拭うと、那波は顔を上げ力強く答えた。流星の深い黒の瞳に映った那波の姿は、昨日までよりもずっと強い男の顔をしていた。別人のような表情に那波に、流星はふと笑みを零した。
「な、何か変ですか・・?」
「いや、ほんと見違えたなって。こんな男前の髪を切ったのかと思うとちょっと誇らしくなった。」
男前と言われ那波は頬を熱くした。今まで美人や可愛いといった言葉で称賛されたことはあっても、男性的な褒め言葉を貰ったのは初めてだった。胸が急に高鳴り出す。
「・・・変えたのは、貴方ですけどね・・・。」
流星の耳に微かに聞こえる声でそれだけ呟くと、那波は一度深く流星にお辞儀をして足早に去った。残された流星は力なく床に座り込む。
「何だ・・・あれ・・・。殺し文句かよ。」
自然と笑みが溢れてきた。美容師を目指す流星にとっては、まさに殺し文句。美容師冥利につきる言葉だ。こんなに気持ちが高ぶったのは咲耶と出会った時以来だった。
「虹原那波・・・・か。何だ、良い奴だったんだな。」
立ち上がりぐっと伸びをすると流星は晴れやかな気持ちで、風紀委員室を後にした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
35 / 77