アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
プロローグ「愛を探して」
-
生きることに疲れたのだ。
毎日積み重ねていく人生の中で必要のない生活のメカニズム。たいして楽しくもない、笑うことすら面倒になる人間関係。引きこもりたいそんな衝動に駆られたとしても、それすら出来ない社会と言うルール。
なにもかも面倒で考えれば考える程に狂っていく思考回廊。何がしたいのか何故産まれて来たのかと、自問自答を繰り返した後に、ふと思ったのだ。「これは生きているようで生きていない」そう…僕は生きていながらにして死んでいる生きた屍だったのだ。
プロローグ「愛を探して」
目の先に見える高いであろう山すらも、この世界すらも捕まえてしまえそうな景色。実際捕まえれる訳でもないのだが、目先に見える山を手のひらで被せてしまえば覆い隠され消えてしまうそんな絶景スポット。
足元は既に宙に浮いていて、重力に抗えない世界の掟に逆らう訳もなく落下していく己の身体。今さらながらにおもうのだ。
自分が選んだこの選択は間違っていたんじゃないか、まだもっと先に未来があったのではないかと。
ふと思えば落下速度のわりに下にたどり着けない。距離を考えればおかしい気もしないでもない。何時までも来るはずの衝撃が無いのだ。
仮説だが、今この状況で長い時を過ごしているように感じるのは、これがいわゆる走馬灯なのかもしれない。
人生最後の思い出とともに、僕はそっと瞼を閉じた。
そう、きっと自分という人間は生まれ変わり新しくまっさらにして次は幸せな未来でと、来世に託したのだ。産まれ代わったら人間だという保証なんてものは一つもないのだが。
むしろ、人間じゃない方が良いのかもしれない。余計な私欲がなければそもそもこんな馬鹿な真似すらしようと思わないのだから。
何時までも訪れない衝撃と、瞼を閉じてもなお眩しい太陽の光が、薄暗い夜のように真っ暗になった事に気づく。動揺しながらも思考はまた別の事を考えていて、ああ、落下に耐えられず気絶したのだろうと自己解決する。そうなると此処は死後の世界なのかと、恐る恐るゆっくりと瞼を開いた。
見えたそこは、真っ暗な空間で、ただ一つの光だった。余りの眩しさに、片目を閉じる。
光の中で人影らしきものを見た。
「やあ、お目覚めかい?…えと、佐々木くん。」
名前を覚えていなかったのだろう。明らかにカンペもとい、分厚い本を一見して問いかける。この世と思えない麗しき美貌…いや、なんだか神々しくて余り見えないのだが、男で有ることは間違いない。
光に包まれた真っ白い彼が、唇を弧に描いていた。
「すみません…僕は死んだのでしょうか?」
問いかけに対して不躾な言葉を返した。目の前の人物が神様…あるいは、天使様なら良い思いはしないだろう。
「その問いは間違っているだろう?死んだのではなく、死ねただろう?」
「……!!」
予想通りの真っ当な答えが返ってくる。
ワントーン下がった声量が、彼の機嫌を表していた。
言い返す言葉も見当たらない。自分が決めた事でも、人に言われてしまえば誰だって罪悪感は感じるものなのだ。しかし、それは後悔とは違う。
「沈黙は肯定だね、分かりやすくて助かるよ。ああ、私の自己紹介がまだだったね。私はまあ…簡単に言えば神だよ、君らが言うね。君は与えられた肉体を無下にして消滅させた罪がある。言ってること分かるね?」
落ちた高さからして自分はまず生きていないだろう。聞かれるがまま押し黙り、コクりと頷き、理解したと返事を返す。
頷いた際ふと、肉体が消滅しようと生前の服装なんだと、思考を寄り道させた。
「この罪は大きいよ。だが私は慈愛に溢れた神でもある…簡単に人は裁けない。本来なら審判に任せるのだけれど…今回は君に私自ら償いのチャンスを与えようとおもってね。」
神自ら裁けないと言ってなかったか。立場もわきまえず口を挟みたい衝動に駈られる。かと言ってそれを口にすることは出来ないで心に納め黙り、話を伺う。
「何度も言うが私は人は裁けない。これはお願いに似たようなもの何だがね。地上に白蛇がいるんだ。彼はとても幸運の持ち主で、雨を呼び大地を潤す。しかし…彼は人を怨み自分を怨み、自らの殻に籠ってしまってね。君に彼をどうにかしてほしい。」
「いや、そんなま……無謀です。」
困ったとため息一つ溢して問いかけた神様に、僕は即答で意思を伝える。自分の命も軽んじて投げだした僕に救うと言う言葉がどうして言えよう。
神様が何故こんな人間に頼んだのかさっぱり理解が出来ない。
「これはね。君だっていい話なんだよ?また新しくなりたいのだろう?まっさらにして地上に下ろそう。生まれ変わりという名目でね。容姿は変えることも性格を変えることもできないが。君が知らない土地に下ろそう。新しい人生を歩みなさい、人の子よ。君のために彼の為に」
神様である彼の言葉が胸に突き刺さる。期待してか胸が熱くなったのだ。生きていながらにして屍だった自分に生きていく為の生を受けた気がした。
神様は返事を聞かず、微笑んで僕の承諾を表情で理解する。そして「決まりだね」そう言い放った。
それからの神様の行動は迅速だった。
今から向かう世界は日本だという。山奥で人に触れることは余りないこと。神に新たに生を受けた僕は、神の意志を引き継ぐ神の使いになること。
山奥は人の立ち寄らない神聖な場所であること。神の使いだから前と違うわけではなく、人より少し優れているだけで後は特に何も変わらない人間だと。
「白蛇と歩んでほしい。君の残された命も彼に捧げてね。本当に困ったら呼んでくるといい。祈れば届くだろう。学んでおいで…愛を。ゆっくりゆっくりね」
眩しい光が視界一面を被う。咄嗟に目を瞑り意識はそこで途切れていく。転生…かな、そんな事を思いながら神様の最後の言葉が頭をふとよぎった。
(ああ、愛か…なんて難しい)
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 17