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感謝祭前日、その日は雨だった。
雨の音が洞窟内で反響してメロディーを奏でる。ふと横を見た。いつもは自分より先に起きて、目覚めたら既にいない白蛇様なのだが、今日は違って隣でまだ寝ていた。
何時もと違う、それが何だか少し怖くて本当に寝て要るだけなのだろうかと、顔を覗かせた。
「息はしてるみたいだ」
「当たり前だろう。死んでいるように見えたか」
「…っ!?」
突然目を開けてそう言う白蛇様に、驚き困惑する。寝ていた訳じゃなかったのか…自分の起こした事に後悔するが、時既に遅し。
「す、すみませんっ!」
「お前は行動と言葉が噛み合ってない。弱い癖に大胆だ」
赤い瞳を細めて、眉間に皺一つ。顔を遠ざけるように後退して、謝罪する。すぐに起き上がってその場を立ち去ろうとする白蛇様に、懲りていない訳ではないが。要らない感情が芽生え、さらに余計なお世話一つ問いかける。
「あの、お身体は…」
「お前には関係のないことだ」
予想通りの返答に、もう言える言葉は何一つなく。それ以上の言葉を掛ける事も出来ず、黙る僕を知ってか、再び奥へと向かう彼。それを目で見送る。
遠目に消えていく彼に、本当に何一つ出来ないのだろうかと考える。神様に言われた使命なんて、何をどうすれば良いかもわからないのに、個人的に彼が気になってしまっていることに違いはない。
このまま消えてしまうかも知れない、それは何時になるか分からないが。もしかしたら、明日かも知れない。それは白蛇様だけが知っていて、僕には知るよしもない。
誰かが死ぬと言うことはこんなに辛い事なのか。
それなら、自分の時はどうだったのだろう。遺書すらも書かず、誰も知らない土地で命を投げ出した僕を、探してくれる人はいただろうか。泣いてくれる人はいたか?
白蛇様にはいるだろうか。独りぼっちで死んでいくほど寂しいものはない。救えるなら救いたい、だけど否定されてしまうのがとても怖い。
自分の可愛さ故に何も出来ない僕を責める人はいない。自分だけが何時も責めて責めて責め続けるのだ。
次の日。朝起きれば感謝祭からか、賑やかな声で目が覚めた。昨日の夜、白蛇様は隣に来なかった。感謝祭が影響しているだろうと、嫌な予感を含めて首を振る。
結界が緩み、禁断の果実が与えられる。何かをしろと言われた訳でもない僕は、様子だけ見ようと洞窟の入り口で顔を覗かせる。
「お、おお…」
ウサギや鳥に猪に…色んな生き物が泉の回りにいた。普段出会うことのない生き物たちに、感激の言葉を発する。
「やあ、佐々木君。久方ぶりだね」
あまり格好良くもない覗き見みたいな姿をしている僕の背後で、聞いた事のある声が気こえた。
「か、神様!?」
「感謝祭の事、知っているだろう?私も下界に降りるのは久しい」
振り向き、神々しい神様に目を細める。相変わらず眩しすぎて見えない!
「…相変わらず眩しいですね」
それ以上の言葉は出なかった。
「少し白蛇君と話に来たんだ。恩恵もあるしね…彼は私が嫌いだから気が滅入る」
「待ってください!」
そういい放ちその場を立ち去る神様に、どうしてもこれだけは聞いておかないいけないと、あせる。呼び止める僕の言葉に「なんだい?」と振り返る神様。
「あの…白蛇様はいなくなってしまうのですか」
「気になるかい?嫌なら彼を引き止めなさい。君は君の思うがままに、ね」
たいそれた助言もなく投げ槍のような言葉に、どうしたらいいのかも分からず、それ以上の言葉を伝える事なく白蛇様の元へと向かう神様。
自分の意志で進め。それが言いたいのだろう。流されてばかりの自分では率先して何かを成し遂げるなど無縁の話だった。
もし、僕のせいで白蛇様が更に嫌気が差したら?嫌われてしまったら?その事で一杯になる思考。
僕の頭の中は何時だって悪い方向へと向かっていく。明るい未来を考えたとして、それが叶うとも思えない。たかが一人に僕に何が出来るのかと、その場を立ち尽くす。
「さっきー!」
ふと、外から見知った声が聞こえた。この呼び方をするのは一人しか居ないと、外へと出る。
「二人とも来てくれたんだ。果実、貰えたみたいだね」
入り口前で立つスズとレンの手に視線を向けて。しっかりと握りしめられた果実を確認して、そう問いかけた。
「まあな。貴重な品だぜ!貰わない訳がない」
「今日は酔いしれるよー…感謝祭さいこー」
楽しそうな二人に暗い気持ちも少し晴れて、微笑む。果実を堪能するためだ!と、物量の小さい鳥の姿に戻って、岩の上に止まり果実を頬張る二羽。
未だ拭い切れない気持ちの整理にと問いかける。
「あのさ、二人は白蛇様のこと…好き?」
変な聞き方になってしまったが、この聖地の主である白蛇様の情報を伺う。
「みんなとても好きだよ。僕らは白蛇様の加護のもと生を受けてる…白蛇様、だけど日にを増す毎にとても傷付いて…」
「水神でもある白蛇様は、人間の欲で酷く傷付いてる…あの方に近付けない俺らにはどうしようも無くてな…」
暗い二人にどう声を掛けたら良いのかも分からず、詰まる。17年しか生きて居なかった僕には理解できない話で、この場所に来てからも日が浅い。
「佐々木は気にするな。あんたの顔が暗いと困る」
そう言い残し、挨拶回りがあるからとその場を立ち去る二人を見送って二人が止まっていた岩の上に座る。
思うがまま…神様の言葉が頭によぎる。嫌われてもいいじゃないか、端より嫌われている。自分が何かを言った所でその何かが変わる訳でもないのに、自惚れも良いところだ。
感謝祭で賑わう傍らで、祝う気にもなれず。木漏れ日によって輝く泉を眺めながら、同じ思考を繰り返し考えた。
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