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「神の使いとは思えない表情だね、佐々木君。これではこの一面の草花が、君の陰気な空気に当てられて枯れそうだ」
そこまで酷い顔をしていただろうかと、顔を上げる。相変わらず神々しい神様の表情は掴めない。
「悩みなさい思う存分に。誰かを思って悩むことは決して悪いことではない。愛しい私の人の子…君は一つ一つ先を進んで行ってるではないか。私はとてもそれが嬉しいよ…さあ、神の恩恵を始めよう」
頭を撫で下ろしそう答える神が、僕を立ち上がらせようと手を掴む。その手はとても冷たくてそれはまるで生きていないようだった。
「恩恵って、僕も何かを?」
「君は私の使いだろう?祈りなさい、この地の祝福を」
神様はそう言って泉の前へと足を運ぶ。様々な動物たち…時には見える人形になった者を目で見送る。
僕の手を放して彼は祈るように指を絡めて祈り言葉を告げた。
「この大地に祝福の光を…全ては平等に全てに愛を」
見習うようにして目を閉じ手を合わせて心の中で祝詞を歌った。その瞬間、当たり一面に光が舞う。
目を開けてそれを眺めた。
「とても綺麗だろう?こんなに世界は美しいのに、彼はそれを忘れてしまったんだね、君も」
彼とは白蛇様の事だとすぐに理解した。僕もまた彼と同じ…絶望しか見えず、目先の光なんて一つもみえないで…。
「見てご覧?光は大地を包み、新たな生を生む。光は希望だよ。忘れてはいけない…君もまた光だと言うことを」
花火ように散りゆく光が空一面に放たれて、まるでこの地を暖かい光で包み込むように流星の如くキラキラと流れ落ちる。
太陽の光に反射して、言葉では表す事の出来ない美しすぎる光に、目頭が熱くなる。
その光景は僕の心を動かす程慈愛に溢れていた。
「それではまた会おう、愛しい人の子よ。私は常に君の心の中に…」
光と共に消えていく神様。またあの場所に帰るのだろう。何を言うわけでもなく、彼を見送る。
放たれた光は消えることなくキラキラと輝き続ける。それを祈るようにして、動物達は手を合わせて祈っている。彼らもまた、彼の光に酔いしれたように何かが突き動かされたように、涙を浮かべていた。
洞窟に戻り、白蛇様は奥にいるのかとその奥を見る。結局現れ無かった彼は、神の恩恵を受けたのだろうか。
神様が何かを話に向かった今朝。その時に受けたのかもしれない。
何をするわけでもなく、時間が過ぎていく。宴会のように賑わう外も、暗くなるに連れて皆帰ったのか静かになっていく。
また明日からは結界が張られて立ち寄れない神聖な場所になるのだろう。
「今日も来ないのかな…」
手にもつ書物を一旦閉じて、昨日の夜訪れる事の無かった白蛇様を思い浮かべた。
あの日以降隣で眠る彼に自分の寂しさを埋めていたのかもしれない。知らずのうちに彼に惹かれ、おこがましくも側にいて欲しいと願ってる。
この気持ちは親に愛して欲しいと願う昔の自分の感情とは違い、友達に好かれたいそんな気持ちとも違う。
「…胸が、痛い」
張り裂けそうな傷みに一杯になりながら、落ち着かせるように祈った。和らぐ事なく、傷み続ける胸に、誓うように立ち上がった。
彼がここに来ないのはとても嫌で、側に居て欲しい。我が儘で自分勝手だが、怒られて嫌われてしまっても後悔はしないだろう。
まだ行ったことのない奥へと足を向ける。
大丈夫と暗示のように言い聞かせて一線を飛び越える。神様が背中を押したのだ。弱い僕の意志が諦めないよう、そう言い聞かせる。
洞窟の奥にあるじめじめとした道は、立ち寄る事を拒むように薄暗い。蝋燭の火で灯さないと転けそうになる小石に気をつけなりながら、奥へと進む。
「僕がこんなに積極的なんて、初めてだ。」
自分を嘲笑い、よみがえっていく記憶。
両親と呼べる二人と血の繋がらない弟。良い子にすれば愛されると信じていたのだ。言われた事だけを成し遂げ、嫌われないよう毎日気を使い、何でも言うことを聞いた。
分かっていたのだ。無駄な努力だって。それでも愛されたい一心で僕は、頑張って頑張って…ある日何かが壊れてしまった。
気付いたら電車に乗っていて、ボロボロになった教科書に書かれた誹謗中傷を読みながら世界に絶望した。
書かれた言葉が…言われた言葉が言霊になって僕を支配した。彼らの希望通りに僕は、事を進めたよ。満足だろう、成し遂げて尚もこの世界に未練がましく存在している僕は、今は居ない人なのだ。
「相変わらず酷く醜い顔だな」
気付かない間に奥に到着していた。顔を上げて目的である彼を見る。奥には祠があった。とてもボロボロになった祠が。
「…すみません、勝手に……っ!!」
発した言葉が早かったのか、彼が動くのが早かったのかその場で押し倒される。地面の石が背中に突き刺さって傷みに変わる。放した蝋燭が前日の雨で洞窟内にと滴る水溜まりによって消えていく。
「お前はこの場に来てはいけないと分かって来たのだろう。そこまでして傷付きたいか?死ねないお前に永遠の痛みを与え続ける事もできるのだぞ、私には」
祠に灯された光で彼がとても苦しんでいるように見えた。長い鋭利な爪で僕の頬を引っ掻く。
熱い傷みとともに流れていく鮮血。
「私はお前が不思議でならない。ただ居るだけなら許したものを。逆らう事しか脳がないのか」
側に居させてもらう許しを得ておきながら、その場を自分で壊したのだ。最もな意見で、彼は何も間違っていなかった。
「僕は…」
何をこの場で言おうとしているのか自分でもさっぱりだった。期待は端からしていない、彼も僕も。
投げ出したのは世界すら嫌になってしまったのは……。
「僕は、貴方の事を知りたい…貴方に嫌われてたとしても」
泣きそうになりながら顔を歪める。とても不細工で無様だろう。
それでも、言わないと彼には何一つも伝わらない気がした。
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