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好きに、なってしまったきっかけなんて、些細なことだった。
恋はするもんじゃない、落ちるものだ、なんて陳腐なセリフが頭を過る暇もないくらい、気がつけば、アイツだけを見ていた。
だから、よくわかっていた。──理解しすぎるくらいに。
俺を親友と呼んでくれたアイツの考えることなんて。
どろり、と俺の後ろから精液が流れ出していく。
あー、中出しされたっけ。
されたと言うよりも、俺が生で欲しがったんだっけ。
女と違って妊娠の心配もいらないからか、始めは戸惑ったような顔をしたハルトが、雄の貌で腰を振りだした瞬間にはえもいわれぬ快感が俺を包んだ。
どこか、虚しさを覚えるものだったけれど。
それでも、一滴でもいい、惚れた男の命の欠片をこの身の内に留めたかったのだ。
…なんて、
自分を慰めるような、情けない言い訳を自分に言い聞かせていただけ。
その証拠に、流れ出した精液は命を持たず、ただ排水溝に吸い込まれていく。
そこに、俺の涙が混じっていようが、流れる水には関係ない。
『セイ…』
長年想っていた相手との一夜の余韻に浸っていた俺だったけど、あからさまに後悔を滲ませてハルトが俺を見つめてきた瞬間には、冷水を浴びせられたよりも心が冷えた。
俺の名前を呼んだきり、言葉を出せない様子のハルトが口を開こうとする前に、俺の口は勝手に動き出していた。
『お前さぁ、アナルセックスがしたかったとかって、エロいことに興味あるのもほどほどにしとけよな。俺だったからいいようなもんをただの興味本意で適当なゲイ相手に手でも出してみろよ、後で痛い目見るのお前だぞ?ま、俺はちょっと欲求不満気味だったから、ちょうど良かったけどさ』
誤魔化しきれてないのは、わかっていた。ハルトも俺も酒で記憶をなくすタイプじゃないのは、お互いに長い付き合いで知りすぎている。
苦しいんだ、助けてくれ、お前しかいないんだ、と縋るように俺をラブホに連れ込んで、まるで幼子のように俺の体を求めたのは、ハルト自身だったのだから。
それでも俺の引き攣るような誤魔化しに、ハルトは何も返事をしなかった。
ただ、罪悪感の塊のような情けない顔で俺を見つめただけだった。
そして俺は、それがハルトの出した“答え”だと、それも長い付き合いで理解してしまった。
だから、何事もなかったように、あまりにも情事の後の気配の漂うベッドを一人抜け出したのだ。一抜けた、とでも伝わるように。
それなのに、ハルトは追い討ちをかけてきた。
『ホントに、…ごめん………』
───ナニが?
───ナニを謝ってる?
そう詰りたかったけど、俺の意気地無しの口はぴくりとも動かなかった。
『………怖かったんだ………、リカのさ、腹がどんどん膨れてきて………』
……きっと、ハルトには俺を追い詰める気なんてこれっぽっちもなかったんだろう。俺がそれを聞いて何を思うのか、どれだけ傷付くのかなんて考えるわけもない。
『二言目には、父親なんだからって言うんだ…俺だってそれなりに嬉しかったし、別に責任とらないなんて言ってねえし、ちゃんと形を整えようって考えてたし………けど、』
どんどん大きくなる彼女のお腹に追い詰められたのだ、そうハルトは俺に言い訳をした。
───もう、二度と会わないから。
気まずそうに去っていくハルトの後ろ姿にそう声をかけた。
長年の片想いの相手に告げることができた自分を誉めてやりたい。
ハルトは一瞬だけ、動きを止めたけど何も言わずにそのまま出ていった。
この恋が成就しないことはわかっていた。
それでも、俺はこの恋を大切にしてきたんだ。ハルトのことを、ハルトとの関係を何よりも大事に想ってきた。それがたとえ親友という立場だとしても。
それは、呆気なく崩された。
ハルトの所為で。
「勝てるわけねーじゃん………」
わかっていた、ハルトの選択肢に俺が入らないことを。
ただ、逃げ場所に使われただけ。
勝てるわけが、ない。
ハルトに可愛い子どもの顔を見せられる相手に。
そもそも初めから勝負の場にも上がってないのだ。
「あー、やってらんねえな…」
寂れたように見えるラブホから、ふらふらと一人で出てきた俺を出迎えたのは、早朝の空に浮かぶ白い満月。
あれがまた満ちるときには、ハルトは何事もなかったかのように、愛し子を腕に抱くのだろう。
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